お前は信じてくれるか「俺のためなら何でもすると言ってくれるか?」
逆光に照らされ輪郭だけが浮き上がったガイアは、今し方自分へ祖国への思いを聞き、愛の言葉を伝えたディルックへ問いかける。太陽の光が眩しくて、ガイアの顔は反転するように暗かった。表情が読み取れない。泣いているようにも笑っているようにもディルックには思えた。
「………内容に、よる」
ディルックは震えた声で返す。
「ハハッ」
ガイアは笑って窓際から本棚の方へと移動した。顔が見えるようになってディルックは安心し、肩の力を抜いた。ガイアはディルックの横を通って、大きく派手な壺の前へと向かう。
「それでこそディルックだよ」
ガイアが言う。壺の表面を指でなぞりながらこう続けた。
「俺にもし、………もし、お前にもまだ伝えていない秘密がまだあるとしたら、どう思う?」
ガイアは、自分の姓にある二つの意味の大きさをはかりかねていた 。
(旅人たちには知られてしまったが、旅人はああ見えて口がかたい。パイモンだって、プライベートな話題は言いふらしたり、隠し損ねたりしない………)
ガイアは自分の生まれについてディルックに話すかずいぶんと長い間迷っていた。幼少期から喉の奥には重たい鉛を抱えているガイアにとって、秘密の自己開示は最大の賭けであった。ガイアは既に、一度負けている。
壺から指を離し、手をぶらんとさせる。
「どう………、分からない。だが、今度こそちゃんと、君のことを考えながら聞くと誓う」
「ハ、」
ガイアはディルックの方に振り返った。
「信じるぜ」
ディルックはガイアのことを抱きしめた。おずおずとディルックの腰に手を回したガイアを逃がさないように力を込める。ガイアの言うことを全て信じれると、全て信じようとディルックは思った。冬の太陽がワイナリーを白く照らす朝の事だった。