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    hoim805

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    とちゅう

     瓢箪――犬王――の初舞台は、大盛況だった。犬王の腕の呪いが解けたことで、必然とそこで舞は仕舞しまいになったのだが。
     観衆たちの大半は、犬王の異形の長い腕を舞台の仕掛けだと思い、その仕掛けが壊れたのだと解釈していた。そして、義手を作り、舞台の準備の始めからすべてを知っている一部の者たちは、そんな観衆に何も言うことなく、犬王をただ見守っていた。
    「おお、おお。腕だな」
    「おう、これが俺の尋常の腕だ」
     友一は、破れた袖から伸びる腕をひとしきり撫でまわした。
     この世に生まれ出でたばかりの肌は、傷を知らぬ赤子のようななめらかさ。しかし、しっかりとした骨やしなやかな筋肉は、この腕が紛れもなく青年の、犬王のものだと告げていた。
    「いぬおう。犬王、どうだ、新しい腕は」
    「うーん。両の腕が使えるのはいいが、こうも短いと不便だな」
    「そんなことを言うのはお前ぐらいだよ」
     犬王は掌を握ったり開いたり、腕を伸ばし肩を回し、新しい腕の感覚を馴染ませていた。
     友一は友一で、朋の新しい名を口の中で小さく繰り返し、朋の名を呼ぶ感覚を噛みしめた。
    「だがな、友一。掌もこんなに小さいではないか。これではできぬことの方が多そうだ。ほれ」
     だれかが差し入れにと置いていった饅頭を掴んで一つを口に放り込み、一つは友有の鼻先に差し出す。
    「この手では饅頭が二つしか掴めん」
    「つい先ほどまでは尋常に衣が着られたと喜んでいただろう、あれはどこへ行った」
    「あの感動はあの時に終わった!今はそれどころではないのだ、饅頭が」
     友一は饅頭を咀嚼しながら思案を巡らせる。犬王は、異形の腕を<この腕は便利だ!>と言い、不格好に長いことを気に病んでいる様子もなかった。それだけに、左腕が現れたことを喜びこそすれ、慣れ親しんだ己の手が短く小さくなったことをすぐには受け入れることは難しいのかもしれない。どちらも朋の体なのだから優劣をつけることはできないが、いっときも早く朋が受け入れ、新たな生活に慣れることができれば、友一にとってもこの上ないことだ。
    「友一ぃ。この腕は短いうえに力がはいらん!ほれ、逆立つこともできん」
     隣でドサ、と大きな音がして、どうやら以前のように片腕だけで逆立とうとした犬王が崩れたことを察した。音の方向へそろと手を伸ばすと、犬王は大の字になって不貞腐れている。
    「それは……力ではなく、体の釣りあいの問題じゃないのか?ほら、左腕が伸びただろう」
    「友一!お前イイこと気づくじゃん!」
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