欲しいのは、血が欲しかった。
ただ、この永遠に続くと言われる体になってから血が欲しくて欲しくてたまらなかった。
ヴァンパイアという生き物になってしまったからなのかもしれない。
強烈に喉が渇くのだ。
「…血を、」
「ん」
初めに出会ったとき、ひどく胸の奥がざわついた。
人であったときの記憶など遠い昔に消えてしまったと思っていたのに。
どうしてか、そいつのことだけは会ったことがある気がして。
ブルーローズ隊という隊に入っているらしい。ブルーローズと言うだけあって隊服の数カ所には青い薔薇が散りばめられている。
へっぴり腰の男もいた。やる気のなさそうな男もいた。いろんなヤツがいて時々からかってやった。
それでも目当ての人間にはなかなか会えない日が続いた。
次に姿を見たとき、男は"ファルコン分隊長"と呼ばれていた。
ステージの上から、いろいろな話をし女、子どもの話もきいている。
「ゾンビになったら大切なものを全部忘れるんだよ。家族、友達、恋人、推し。」
そんな話をまっすぐな目で相手を見てしている。
"大切なものを、忘れる。"
大切なものがあったかどうかすらわからない。
それでも男の言葉はずしりとのしかかってくる。
教えてくれ、俺にも大切なものがあったのか…
どうしてかその男に教えて欲しくなった。
だから、近づいたんだ。
教えてくれよ、頼む。
俺は一体…
セディエーションガンを構えるファルコンの顔が一瞬悲しげに見えたのは何故だ。お前は俺の何を知っている
静まれと言う、その顔はどうして、どうして…。
「」
ファルコン、分隊長…
俺…、貴方の
「道を、開けてやってくれ…」
何かを思い出しかけたけれど、その声ではっとまた意識が引き戻された。
いつか、いつか思い出せるのだろうか。この苦しみからの解放は?
この姿になってから、泣くという行為すら忘れていたのにどうしてか今物凄く目の奥に熱いものを感じる。
たった一瞬、頭の中をよぎったはずのあなたと笑い合っている場面が頭から離れない。
貴方は、一体何なんだ。
教えてくれ、血なんてもういらない。
どうか俺を、元に戻してくれ…。