「宍戸さんの夢は」
「秘密だ」
「…ありがとな、長太郎。」
あの時どうしてすぐに気づかなかったのだろう。この宍戸さんの感謝の言葉が、夢の一つの終わりを意味していると。
どうしてもっと…
「鳳、おい、鳳。」
「…何。」
「ぼさっとするな、練習の邪魔だ。」
「ねぇ、日吉。俺は宍戸さんの夢を一つ奪っちゃったのかな。」
「は」
言葉の意味に気がついた日から、なんだかうまく立てない。
練習に身が入らない。
日吉の言う言葉が正しい。
でも、宍戸さんがいないこのコートに吹く風があまりに冷たくて、何度も何度も温かいあの声を思い出してしまう。
「…宍戸さんが、そう言ったのか」
「え」
「宍戸さんが、お前に、そう言ったのか」
日吉はそんな俺にただ、淡々と言葉を投げてくる。
「…違う、けど。」
「宍戸さんは、いつ何をお前に言ったんだ」
「…それは、夢の話をしたときに『ありがとな、長太郎』って。」
「なら、そういう意味だろ。あの人はお前が思う先まで言葉に意味を持たせない。」
「…」
「…なんだよ。」
「…いや。」
「それにお前はダブルスの試合で勝っただろ。」
「そっか。」
「あと、宍戸さんはちゃんと練習をしないお前のことを二度とダブルスパートナーには選ばないだろうな。」
「ねぇ、さっきからちょいちょいチクチク言葉使うの何」
「チクチク言葉とか幼稚舎かよ。ほら、練習するぞ。」
そう言って日吉は、俺に背を向けてコートへ向かう。