ザネリとジョバンニ「ザネリ、ねぇ。」
嗤いに来たのか、それとも責めに来たのか、
ジョバンニはそれでも何も言わずに立っている。ただ僕の返事をひたすらに待っているようだった。
「カムパネルラの父さんが言ってたんだ。一度二人で家に遊びに来てほしいって」
「…」
「ザネリ、行こう。きっとそれをカムパネルラも望んでる。」
…カムパネルラが、望んでる
「ジョバンニ、一体「わからないよ。その人が本当に望んでいることも、その人にとっての幸いも…僕らには到底わからない。」…」
「それでも、カムパネルラはカムパネルラのお父さんが望んだことを望むと思うんだ。だから、僕らは行くべきなんだよ。」
いつから、いつからジョバンニはこんなふうに話していたのだろう。
いや、きっともともとはこんな風だった。
明るくて、優しくて、賢い。
自分の意見をきちんと言える、そんなジョバンニと居るカムパネルラが楽しそうだった。
楽しそうで、羨ましくて、だから僕はわざと意地悪をしたのだろう。
ジョバンニが、惨めでみんなと一緒にいられないようにしたのだろう。
それで、ジョバンニは僕の思う通りになった。
カムパネルラの隣にはいつも僕がいられるようになった。
楽しかった、でも、本当は分かっていた。
カムパネルラが時々ちっとも楽しくなさそうな顔をしていたことに。
カムパネルラだけじゃない、マルソ達だって時々楽しくなさそうだった。
『でも、ザネリが言うならきっとそうなんだと思う』
誰かがそう言うと、みんなが納得するだけの関係だったのだろう。
僕は、みんなの幸せでなく僕だけの幸せを考えていたのだときっと誰もがうっすらと気づいていたのだろう。
「ザネリ、明日の放課後、きっと、僕らはカムパネルラの家へ行こう。」
「……あぁ。わかった。」
目の前でまっすぐに僕を見つめて言うジョバンニにどうしても嫌だとは言えなかった。
「ジョバンニ、」
「何」
「…その、一つだけ訊いても良いか」
「うん。」
「カムパネルラはっ、」
名前を口にした時、溺れたように息ができなくなりそうだった。
僕の言葉はきちんと音にできているだろうか。
「カムパネルラは、本当に…っ、本当にっ、僕に…助かって欲しかっただろうか」
僕の言葉にジョバンニは目を丸くする。
「助かってほしかったと思う。」
でも、次の瞬間にはきっぱりとそう言い切った。
「君は僕に意地悪だった。けれど、カムパネルラには親切だった。自分と一緒にいてあんなにも楽しそうな友だちに、死んでしまってもいいなんて思う人間はいないよ。」
続けて、言うジョバンニの言葉が胸に刺さってじんわりと熱を発している。
「カムパネルラは、僕を許してくれるだろうか。」
気がつけば、僕の両目から熱があふれ出た。
「…そうだな、やっぱりその答えは自分で探すべきだよ。生きて探すべきだ。」
ジョバンニは、いたずらっぽく笑ってそれから僕に背を向けて歩いていく。
「ハレルヤ、ハレルヤ」
なんて、少し演技のかかった言葉を発しながら。