仮題:ライラックSide 長義
月の明るい夜だった。
なかなか寝付けずにいた山姥切長義は、寝ようとするのを潔く諦めた。
夜風に当たろうと思い立ち、部屋を出る。
爽やかな風が緑を揺らすこの季節、本丸のとある一画に甘い香りの花を咲かせる木がある。気になりだしたのはいつだったろうか。
事務仕事中、執務室に面した庭から漂う香りに気付き、気に掛けて見ればそれは薄紫色の花で。
彼の目の色みたいだな、と対面で机に向かう仕事仲間の顔をこっそりと盗み見た。
それからなんとなく、この香りが漂い始めると彼を連想してしまう。
それを直接伝えたことはなかったけれど。
藤の花を家紋に持つ黒田の刀である彼には、本来なら藤の方が似合いなのだろう。
おかしな関連付けをしてしまったものだ、と思う。
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