明日はカップケーキを焼くことにした。お題:花束、不意打ち
お子ちゃまやお腹が空いた大人たちにおやつを食べさせ、夕飯の時間までフリーになったところ、ファウストにお茶を飲もうと誘われた。
ファウストは婿さんに勧められたのだという紅茶に街で買ったらしいお菓子を並べる。甘い香りが部屋を満たす。お互いに一口飲み、ほっとしたところでファウストの口が開いた。
「良いことと悪いこと、どっちから聞きたい?」
吹き出しそうになったところを耐える。
「えっ、と……悪いこともあんの?」
「ある」
キッパリと告げるそれに聞きたくねぇなぁと思いつつ、先に悪いことを終わらせておこうとじゃあ悪い方で、とファウストを見た。
「わかった」
パチン、と指を鳴らして現れたのは何枚かの紙。
「あれ?それって」
めちゃくちゃ見覚えがある。なんなら最近……。
「そう。一昨日のテストだ」
「デスヨネ」
「それで、察したと思うが」
じと、とこちらを見る。
はい、察しました。このテスト、散々でしたよね。うん。だってわからなかったもん。空欄はないように埋めたけど、合ってるとは思えない。チラッとヒースのを見たけど、全く知らない単語書いてて流石に焦った。
「流石に子どもたちの前でこの点数は出せないからな。先に渡しておくよ。それで、補習も確定。ちなみにシノは今回補習対象じゃないから、きみだけ」
これが悪いことの話。
そう締められた。はい、はい、すんませんとしか言えない。この人の前で年上の威厳なんてもんは存在しないからな。
「で、ここからが良いこと、なんだけど」
これをきみに渡してほしい、と頼まれたんだ。
ふわりと飛んでくるのは色とりどりの花が咲き誇るブーケ。
「誰から?」
「シノとヒース。花屋の手伝いをしたら作ってくれたから日頃の感謝を込めてきみに渡そうと思っていたら任務が入ってしまったと。花だから綺麗な時に渡したいと僕に頼んできたんだ」
「そっか」
ありがとう、と言うとそれは子どもたちに言ってやれと返された。
「また美味いもん作ってやんなきゃだな」
「きみの作るものはどれも美味しいだろう。きっと帰ってきてきみの料理があれば喜ぶ」
「そりゃ料理人冥利に尽きるな」
はは、と笑ってお菓子に手を伸ばす。
マカロンやバウムクーヘン、キャンディ。よく見ると珍しい組み合わせだなと思いつつ、ベリー味のマカロンを口に入れた。
「あっ、ネロ!」
「どうした?賢者さん」
夕飯の支度をしていると、賢者さんが探しものを見つけたように、こちらへやって来た。
「今日のおやつも美味しかったです!」
「そりゃ良かった」
特にあれが〜とにこにこしながら話してくれるので、嬉しくなり、今日の夕飯にも気合いが入る。
「そういえば、紅茶や甘い香りがしますが、お茶会でもしたんですか?」
「え、そんなに匂う?」
「いえ、ふわっと香る程度ですが、香水ではなさそうだったので……」
「そっか。さっきまでファウストとお茶してたんだよ。結構お菓子あったからそのせいかな」
「そうなんですね!」
「そうそう、バウムクーヘンとかマカロンとかキャンディとか……結構珍しいラインナップだなぁって思ったんだけど、全部美味しかったよ」
今度賢者さんもおねだりしたらくれるかもな、と笑っていると、賢者さんが微妙そうな顔をする。
「えぇっと、ネロ。食べたのはバウムクーヘンとマカロンとキャンディなんですね?」
「そうだけど……?」
言って良いのかわからないんですが、と賢者さんが教えてくれたのはこれらのお菓子を渡す意味。だんだんと顔が熱くなるのがわかる。あ〜、と顔を手で覆い、その場にしゃがむ。
真っ赤になって蹲るネロに賢者はとあるお菓子とそれを渡す意味をこっそり話す。
ファウストには以前この話をしたから、きっとネロから渡されるお菓子の意味がわかるだろう、と。
明日もネロからは甘い匂いがするのだろう。彼好みの、甘いもの、蜜の匂い。
賢者はそんな気がして、なんだか微笑ましい気持ちになった。