少しだけ、自分以外が触れたことに嫉妬した「おもち、ですか?」
キッチンではリケやミチルが頬を抑え、不思議な顔でなにやら話していた。そこに、ネロが本日のおやつを持ってくるとわあ!と頬を緩ませる。
「今日のおやつも美味しそうです!」
「ありがとうございます、ネロ!」
揃って感謝の意を述べ、キラキラと見つめる姿に癒されながら、どーも、ほら早く食べなとネロは食事を勧める。
パクパクと今日のおやつであるパンケーキを頬張っていると、突然リケがネロに尋ねた。
「そういえば、ネロも頬はおもちですか?」
「おもち?」
「賢者さまにボクたちのほっぺがおもちみたいだと言われたんです」
「あ〜、たしかにおまえさんたちはまだ若いからな。餅みたいに柔らかいけど」
俺はもう年寄りだからさ。
そう言ったものの、後で触らせてください!なんて見つめられると子どもに甘いネロは断りきれず、触るだけなら……と了承してしまった。頭の中のブラッドリーが呆れた顔をしているが、胡椒をぶつけておく。中庭の方でくしゃみをする声が聞こえた。
「わぁ!」
「ふにふにしてます!」
「ネロの頬も柔らかいですよ」
ネロはぷにぷにじゃなくて悪いけどな、なんて言いつつ椅子で大人しくする。誰も来ませんように、と願いながら。
「賢者さまのおもちもわかる気がします」
「そうですね!」
きゃっきゃとはしゃぐ子どもたちにネロはまあいいか、と微笑む。
おもち、ねぇ。
最近だとゾウニを作るのに使ったが、頬がその餅のように柔らかいのは小さいお子ちゃまたちくらいじゃないのか。ふと東のメンバーを思い出す。シノもヒースもよく伸びるほっぺだったのは覚えている。喧嘩を止めるのに頬を引っ張ったことがある。ファウスト、はわからないけど。最近は食事を抜くこともなくなったし、魔法使いの中だと若い方だし、もしかしたら柔らかいのかも……?
今度、触ってみようかなぁ。
「ほら、お子ちゃまたち、これで終わ……」
視界に写ったのは触りたそうにうずうずとする賢者、ルチル、クロエだった。
「あ〜……」
嫌な予感がする。
「ネロ!俺たちにもさわらせて!」
だと思いました。
===
ふにふにふにふに。
「そう。それでそんなこと言い出したの」
「はひ」
どうして。
ファウストの手はネロの頬を摘んでいた。
「ふふ。かわいいな。きみの頬はたしかにやわらかい」
「へんへぇ。ははひへ」
「まだ」
あんへ。
抗議するものの、摘まれる感覚は変わらない。まさか、こんなことになるとは。
ハーブティーを持ってファウストの部屋に入れてもらうところまでは良かった。それで少しリラックスしたタイミングでほっぺさわらせて、って言ったら自分が触られることになっていた。
「リケとミチル、賢者、ルチル、クロエ、結局シノにヒース、ムルとシャイロックにまで触られたんだろう?僕はだめなのか?」
そう言われるとうっ、と心にくる。あの後食堂は頬触り大会のようになってしまった。人が集まってきたので、これから仕込みあるからと抜けたのだ。
「はい、終わり」
体温が離れる感覚。先程まで触れられていた頬が寂しさを覚えたが、気付かないふりをする。
「子どもたちが言っていたこともわかる。きみは見た目より肌が柔らかいんだな」
「そんなことねぇよ……?」
「あるよ」
自分の肌だからわからないだけだ、と言われてそうなのか?と両手で少し頬を持ち上げる。が、やはり自分にはよくわからない。
「かわいいな」
その姿を見てすん、とした顔で呟くファウストの声はネロの耳には届かなかった。