翌日、怒られたが後悔はしていない ベッドの上、腕を広げる彼に熱を分ける。最近受けた呪いの影響でネロは寒い時に腕を広げるようになった。まだ中央の国の夜は冷える。長年生きている魔法使いだ。自分で調整できるだろうに。こんな形で甘えてくるのはとてもかわいい。元々甘えることをしない男なので恋人としては嬉しい変化だ。少しだけ室温を上げようか、でも彼はきっとそれよりも人肌の方が良いのだろう。そう思い、気持ち、腕を回す力を強める。満足気にぬくぬくしてふにゃりと浮かべる笑顔は賢者のいう"かめら"があったら何度も保存していた。可愛すぎるので自分の元でしか見せないでほしい。たまにぽつりぽつりと言葉を交わしつつ、お互いの温もりを堪能していた。彼から出てくるのは子どもたちのことがほとんどだ。僕が任務でいない間のシノとヒースの可愛かった話、リケが新しく学んだことを教えてくれた話、ルチルとクロエが可愛らしく恋愛について話していた話など、彼は年下の魔法使いたちの話を嬉しそうに話した。
ふと、ネロの話が途切れる。
「あれ」
「どうかした?」
「なんか……匂いが」
「匂い?」
ネロが来る時間に合わせて身は清めたが、足りなかっただろうか。
「ん〜……」
ネロは何か気に入らないのか、もぞもぞと動いている。その仕草になんだか小動物を思い出す。シノから「あんたはネロをりすやうさぎみたいな小動物みたいに可愛がるところがあるよな」と言われたのも思い出してしまった。別にどちらもかわいいからいいだろう。
「身体は洗ったけど、汗の匂いでもした?きみが気になるなら魔法使うけど」
「そうじゃなくて」
ネロはぐりぐりと頭を肩に押し付けながら、恥ずかしそうに言う。
「あんたの匂いが好きだから、なんか……その、薄いなって」
「え?」
「だから!身体を洗ったからあんまりファウストの匂いがしないんだって!」
なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるよな俺……と耳まで赤らめる彼に胸を射られる。いや、実際射られた訳ではないが。とにかく、こう、くるものがあった。
すんとネロの首筋あたりに顔を埋めて嗅いでみる。小麦や今日のおやつやデザートの甘いお菓子の匂いが移っているようで、思わず食べてしまいたい気持ちになる。
美味しいのだろうか……頭に浮かんだその誘惑に逆らうことなく、口を首に寄せる。
「ひ、ぁ」
ネロはバッと口に手を当てた。彼の匂いと同じくらいの甘い声。
「ねろ」
「待って」
「無理」
ちょっと、と制止する声は聞こえないフリで、彼の口を食むことにした。十分我慢はしただろう?