いちゃつくならよそでやれと怒られた また、ヒースと喧嘩した。くだらない言い争いから始まって、最終的には任務のことまで持ち出されて、埒が開かないと思ったのか逃げられた。
言い争いをしたせいか、腹が減ったのでキッチンに向かう。今の時間ならネロが遅く帰って来たやつらの夕食の片付けをしているのできっと何か出してくれる。
キッチンではふんふんと鼻歌を歌いながら皿を洗うネロがいた。自覚は無いようだが、あいつはよく鼻歌を歌っている。指摘すると赤くなって止めるのでオレとヒース、リケやミチルとかよくキッチンに来るやつは何も言わないようにしている。ネロの歌は嫌いじゃないので。
「誰かそこにいんの?」
こっそりとネロの歌を聞いていると、オレの気配に気付いたのか洗い物をしている手を止めた。
「ネロ」
「あぁ、おまえさんか。なに?腹でも減った?」
それにこくりと頷く。ネロがオレの軽食を用意し始めたので、代わりにと洗い物を引き継いだ。またふんふんと歌が聞こえて沈んでいた心が少し落ち着いてくる。最後の一枚を洗い終え、席に座る。ネロがほらよ、とリゾットをテーブルに置いたと同時に、後ろからコツコツと二人分くらいの足音が聞こえた。
「あ」
二人の声が重なる。
「お、先生にヒースか。あんたらも腹が減った感じ?」
ネロは仕方ないなぁと言うように二人を見た。ファウストと目を合わせると、納得したような反応をする。
「先生用に取っといたやつある部屋にあるから持ってくるな。ヒースは?」
「あ、俺は大丈夫」
それに了承の旨を返してキッチンを出ていく。ファウストもそれに着いていった。
オレはヒースを一瞥し、無言のまま食事を進める。
「シノ」
「なんだ」
口に入っていたものを飲み込む。やっぱりネロの作る料理は美味いし、ヒースは綺麗だ。
「ごめん、さっきは言い過ぎた」
「……こっちも、悪かった」
ほっとした顔をするヒースかわいいな。
オレ達の間にあった気まずかった空気が消える。ヒースはファウストからもらったのだという紅茶を淹れてくれた。
ヒースのすることに気付いていたかのように、温められたポットとティーカップがキッチンには置いてあったらしい。なんだかオレ達の行動をわかっているようで落ち着かなかったので、二人分しかなかったそれをもう二つ増やしておいてやった。きっとそろそろ戻ってくるだろうから。
「あいつら、大丈夫かねぇ」
「心配いらないよ。ヒースは今回自分から謝りたいと言っていたから」
「そっか」
安心したようにネロは頬を緩める。めんどくさがり出し、責任感なんてないなんて自分で言うが、子どもたちを見守る様子は保護者のそれだ。シノとヒースの喧嘩に毎度毎度懲りないと思いつつ、気にして手を回してしまうのだろう。
「ところで、僕用に取っといたやつっていうのは?」
「いや、あれはただの口実だよ」
ひらりと何もありませんと言うかのように手を広げる。
「なんだ、きみから何をもらえるんだろうって楽しみにしていたのに」
「もー、先生わかってたでしょ」
ファウストはふふ、と笑い、まぁね、と返した。
「さて、そろそろ戻りますか」
仲直りするには十分な時間が経っただろうと、移動しようとするネロの手に指を絡ませ、驚いた顔にキスを落とす。
「じゃあ、行こう」
ポカンとする恋人の可愛い顔を見られて満足したファウストはそのままネロの手を引く。
ファウスト!?待って!?なんで!?と動揺した声が後ろから聞こえ、くすりと笑みが溢れる。
したかっただけなのだと言ったら、この男はどんな反応をするだろうか。