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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    ロナドラ800字。
    死別ネタ。

    ##94SS

    ■しょっぱいジャム


     台所から立ち上るのは、煮詰められた甘い甘いジャムの匂いと湯気。それを嗅ぎつけたジョンが主人のもとへ駆け寄って足元で「ヌー」と鳴いた。
    「おや、ジョン。味見したいのかね? まだ煮詰めきれてないんだけど」
    「ヌヌヌーヌ!」
     そう胸を張って言えば、ドラルクが笑ってシンクの上にジョンを持ち上げて立たせる。
    「こぼすといけないからな。
     ――今日は特製クランベリージャムだ」
     そう言ってひとさじ、大きな鍋から真っ赤なジャムをすくうと充分吹き冷ましてからジョンの口元にやる。すぐに食いつくジョンにドラルクは顔をほころばせた。
    「オイシー!」
    「はははっ。そうだろう。これだけ作り置きしておけば、あの若造にだっていくらでも――」
     そこで思い出したようにドラルクの表情が曇る。
    「――……そうだ、もういないんだっけ」
     もうロナルドが死んでどれくらい経つのだろうか。もう彼が死んでしまったことすら忘れるくらい長い時を、使い魔と二人きりでドラルクは過ごしていた。
     その間ドラルクが感じたのは、空虚と退屈さだった。当然のことだが人間が一人死んだくらいではこの世界は変わらない。だがドラルクの心にはぽっかりと虚ができてしまって、それを塞ぐ手段はなかった。
     そしてそれはふとした時にいつまでも癒えぬ生傷のように痛みだす。例えば、棺桶から起きて自分で部屋の明かりをつける時。複数人で遊ぶパーティーゲームのたぐいを買わなくなったのに気づいた時。そして、今日のようにジョンも食べ切れないような大量の料理を作ってしまった時。
     つ、とドラルクの頬を涙が伝う。ジョンが気遣ってヌン語で慰めようとしてくれるのが、逆に苦しかった。ドラルクはジョンを抱きしめると静かに涙をこぼす。
     鍋の中では真っ赤なジャムがぐつぐつと煮えている。まるで彼への想いがそのまま料理になったみたいだった。煮詰められて、いつまでも味が変わらないジャム。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字(いつもより字数オーバー気味)。珍しく二日酔いのモクさん。■二日酔いの朝


     朝、モクマはベッドから身を起こしてずきずき痛む頭を抱える。二日酔いなんて酒を飲み始めた年の頃以来経験していない。だが、昨夜はチェズレイが隣でお酌なんてしてくれたから嬉しくなって、ちょっとばかり飲みすぎた気がする。それ以降の記憶がない。
     ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。チェズレイの声が「朝ごはんが出来ましたよ」と告げる。モクマは返事をして部屋を出ると洗面所へ向かう。冷たい水で顔を洗うと少しさっぱりした気がして、そのままダイニングへ。
     おはようと挨拶をすればチェズレイが鮮やかに微笑む。味噌汁のいい匂いがする――と思ったのは一瞬で、吐気をかすかに覚えた。
     ――あ、これ完全に二日酔いだわ。
     典型的な症状。食べ物の匂いがすると胃のあたりが気持ち悪くなる。頭痛もぶり返し始めた。だがチェズレイがご飯をよそってくれているのを見ると、どうにも言えない。
     朝ごはんはやっぱり白米がいいな、なんて冗談半分で言ったら、その日のうちに炊飯器を取り寄せて味噌汁の作り方までマスターしてしまうのがこのチェズレイという男だ。そこまで想ってもらえるのは嬉しいが、時々、ほんの少しだけ 892