Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 398

    高間晴

    ☆quiet follow

    敦→太。まだ片想い。

    ##文スト

    あの人となら、 今日も太宰はデスクで仕事もせずに愛読書を開いている。それが何かと云えば『完全自殺読本』。数年前に手に入れたその稀覯本はびっしり付箋が貼り付けられている。
    「ねえねえ、国木田君。入水と練炭だったらどっちが楽に死ねるかな」
    「知らん。というか仕事をしろこの自殺嗜癖が。死ぬなら過労死でもしろ」
    「厭だよぉ。私は苦しいの嫌いなのに」
     向かいのデスクでPC作業をしながら、国木田がファイルの角で太宰の頭を小突く。そこへ隣のデスクから敦がおずおずと割り込んできた。
    「あの、練炭自殺はすごく怖いって聞いたことありますよ」
    「えっ、なになに? 敦君も自殺に興味あるの?」
     太宰が仲間を見つけたとばかりに目を輝かせる。その様子を見ても国木田は何も云わない。敦は書類の束を整理しながら続けた。
    「練炭自殺。つまり一酸化炭素中毒による死。その死に顔から楽にあの世に行けると思われがちですが、その実はじわじわと呼吸ができなくなる恐怖を感じながら死ぬ事になるらしいです」
    「うわあ、敦君よく知ってるねぇ。
     そうなんだよ! 入水は冷たいし練炭は怖い!」
     太宰が食い気味に敦に迫る。
    「かと云って首吊りも苦しいしねえ。どうしよう。睡眠薬をお腹いっぱいに飲む?」
    「それはそれで失敗した時が怖い死に方ですね……」
     敦は内心焦った。まさかここまで食いついてくるとは。それをさすがに見かねたのか、いつの間にか席を離れていた国木田から声が飛んでくる。
    「おい小僧。こっちへ来い」
    「あ、はい。なんでしょう」
     敦が席を立って棚の前にいる国木田に近づいた。彼は何時もの手帳を片手に溜息をついて、小声で敦に問いかける。
    「お前、わざわざ調べただろう」
    「ば、バレました?」
     太宰が自分がいかに楽に死ぬかを日々研究しているので、敦は下心込みで自分でも調べてみたのであった。
    「お前にはあんなのになって欲しくないから忠告する。深入りはやめておけ」
     国木田は『あんなの』のところで本を読み耽る太宰を示す。敦は「はい、そうします」と、笑いながら嘘をついたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書きブラウザ読み用!
    猫に出会ったり思い出のはなしをしたりするチェモのはなし
     やや肌寒さの残る春先。早朝の閑静な公園には、ふたりぶんの軽快な足音が響いていた。
     現在、チェズレイとモクマが居を構えているこの国は、直近に身を置いていた数々の国の中でも頭一つ飛び抜けて治安が良い。借り受けたセーフハウスで悪党なりに悪巧みをしつつも優雅な暮らしをしていた二人が、住居のほど近くにあるこの公園で早朝ランをするようになって、早数週間。
     毎朝、公園の外周をふたりで一時間ほど走ったり、ストレッチをしたり。そうするうちに、お互いに何も言わずとも自然と合うようになった走行ペースが、きっちりふたりの中間点をとっていた。
     数歩先で軽々と遊歩道を蹴るモクマに、チェズレイは平然を装いながら素知らぬふりでついていく。『仕事』が無い限りはともに同じ時間、同じような距離を走っているはずなのに、基礎体力の差なのかいつもチェズレイばかり、先に息が上がってしまう。
     今日だってそうだった。そしれこれもまたいつも通り、前方を走っている相棒は、首だけで振り返りながらチェズレイをちらりと見遣っただけで、仮面の下に丁寧に押し隠した疲労をあっさりと感じ取ってしまい、何も言わずにゆったりペースを落とした。
      6780