まちがいさがし 武装探偵社、某日。
「太宰さ~ん……」
敦が眉尻を下げしょんぼりとした顔で太宰の傍に立つ。デスクで全くやる気の出ないPC作業をしていた太宰は「どうしたんだい?」と首を傾げた。
「国木田さんから頼まれた書類を乱歩さんに持って行ったんです。でも、乱歩さんが『これが解けたら仕事してあげる』って云って……僕には全然解けなくて……」
そう云って一枚の紙を差し出してくるので受け取る。上の方には『まちがいさがし:むずかしい』とあり、その下には一見全く同じに見える絵が二つ並んでいた。子供用の塗り絵にも似た簡単な絵だ。それは夜空の月を見上げる兎と、風に靡くススキと三方に乗った団子が描かれている。ついでに下の方には『まちがいは四つ!』とある。心の中で溜息をついた。
嗚呼、あの乱歩さんならやる。入社したてのこの新人君は彼のいい玩具だろう。でも、このままでは国木田君の雷が敦君に落ちかねない。
太宰はちらりと乱歩のデスクを見やる。彼は行儀悪くもデスクに広げた駄菓子を食べながら、携帯ゲーム機に夢中だ。視線を敦に戻すと小声で訊く。
「――敦君、乱歩さんは『君一人で解け』とは云わなかったんだね?」
「はい。だから一寸ズルですけど太宰さんならわかると思って」
短絡的に云ってしまえば揚げ足取りだが、敦は意外と人の言葉の抜け穴を理解している。それを聞いた太宰は満足げに笑うとこう告げた。
「五秒で解いてあげるよ」
「本当ですか!?」
太宰は紙を机の上に置いた。
「先ずは此処。月が雲に隠れてない。次、ススキの本数が違う」
指差しながら一つずつ敦に教えていく。「うわあ、ホントだ」と感嘆の声が上がる。
「……それから最後。『まちがいは四つ!』だ。これには此処を含めて間違いは三つしか無い」
「ええ~、そういうの有りなんですか」
「さあ、乱歩さんのところに行っておいで」
「は、はいっ」
間違い探しの紙を押し付けるように敦に返すと、太宰は頭の後ろで手を組んだ。
開いた窓から仄かに金木犀の香りが漂っている。今日もいい日和だ。