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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    天高く、 伊音ちゃんの提案で、今日は天気もよくて涼しいから屋上でお昼を食べようということになった。
     二人揃って屋上への階段を登り、重たい鉄製のドアを引き開ければ、雲ひとつない青空が広がっている。そよぐ風も少しひやりとしていて、清々しい。
    「わあ……なんか秋だねえ」
    「だろー? でも予報だとまた来週くらいから暑さぶり返すらしいけどさ」
     二人で話しながら頑丈なフェンス、その手前の段差に腰掛ける。私はお弁当、伊音ちゃんは購買で買ったパンだ。お弁当の包みをほどいてお弁当箱を開ける。すると伊音ちゃんが隣から覗き込んできて、「おお」と驚いたような声を上げた。
    「鈴の弁当、いつ見てもうまそうだよなぁ。あたし料理なんか全然できねーからすごいと思う」
     そうかなぁ、と私は首を傾げて自分のお弁当の中を改めて見てみる。今日のおかずはハンバーグ、玉子焼き、ウィンナー。あとは彩りにプチトマト。どうしても肉が好きなので、肉系のおかずをダブらせがちなのが目下の悩みといえば悩み。貧血で倒れたこともあるから、栄養バランスには気をつけなければいけないのだけど……やっぱり自分で作って自分で食べるお弁当だから、好物ばかり入れがちだ。
    「弁当作るのって大変だろ?」
    「簡単だよ? 玉子焼き作って、そのまま同じフライパンでウィンナー焼くでしょ? それから……」
    「いやその玉子焼きがまず作れねーわ」
     伊音ちゃんはパックのいちごオレにストローを突き刺すと一口飲んだ。それからパンの袋を開けてやきそばパンを一口頬張る。私もウィンナーを箸でつまむと口へ運んだ。何度か噛んで飲み込んだ後、ふと思いついたので、お弁当の中の小さめのハンバーグを箸で示して訊いた。
    「伊音ちゃん。このハンバーグ、どうしたと思う?」
    「え? あ、そうだ! ハンバーグなんて作るのめちゃくちゃ時間かかるだろ」
     そこで私は、ふふ、と小さく笑って秘密を明かすときのように小声で囁いた。
    「これ、冷凍食品。朝に凍ったままのを入れておくだけで、お昼ごろにはいい感じに溶けるの」
    「マジで!? そんなんあるのかよ」
     予想した通りの反応。しかもこう言うだろうな、って思ったそのままの台詞。だから私はなんだかおかしくなって喉を鳴らすような笑いを止められない。
     伊音ちゃんは勉強をまともにしなくても成績はトップクラスなのに、私が当たり前に知っていることを知らない。ずっと一緒にいても飽きないのはそのせいかなぁ、なんて。
     そんなことを考えていたら今度は彼女のほうが何か思いついたらしい。
    「その玉子焼き食べさせてくんね? 帰りにファミチキ奢るからさ」
    「私に得しかない交換条件だけど、そこまでして食べたいの?」
     そう訊いてみれば、力強い頷きが返ってくる。
    「前に鈴の家で食べた手料理、美味かったからさー」
     そこまで言われては仕方ない。私は玉子焼きを箸でつまむと、彼女の口を開けて待っているところにそっと入れてあげた。なんかこれ、餌付けしてるみたいな気がする。ちょっと楽しい。
     箸を引っ込めると、彼女は口をもぐもぐさせながら親指を立ててみせた。ごくんと飲み込んでから楽しそうに笑いかけてくる。
    「うまい!」
    「ありがと」
     シンプルな褒め言葉に、嬉しくなってしまう。
     そうだ、今度もう少し大きいお弁当箱を買って、伊音ちゃんのつまみ食い分も作ろうかな。どうせ詰める量がちょっと増えるだけだから。これが二人分のお弁当を作るとなったら、「それは平等じゃない」って絶対に反対してくるだろうし。
     何と言っても、さっきのあれ。自分の箸で伊音ちゃんにおかずを分けてあげるの、またやりたいから。
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    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。チェズが悶々としてるだけ。■最近の悩み


     ミカグラ島での一件が落ち着いた後、チェズレイとモクマは二人で世界征服という途方も無い夢を目指すことになった。
     まずは下準備から、というわけで今はヴィンウェイのセーフハウスでゆっくり計画を練っている最中。だが、チェズレイの頭の中は相棒のことでいっぱいだった。
     あァ……あの人を抱きたい。
     あの指切りの時に生死を共にする約束を交わしたとはいえ、あの時には心の触れ合いさえあればよかった。それが二人で暮らすうちに、どういうわけか直接もっと肌で触れ合いたいと思い始めてしまったのだ。この、自他共に認める潔癖症の自分が。
     そこまで考えて、チェズレイは書斎の陽光射し込む窓辺に立つと、さきほどモクマが淹れてくれたカフェオレを一口飲んだ。それはこれまで飲んでいたブラックコーヒーにはない優しい風味で、神経が和らぐ気がする。
     あの人はファントムに似ている。だが決定的に違うのは、あの人は自分を裏切らないという確信があるところ。
     でも――あの人はヘテロだし、誰が見ていてもわかるくらいずるくて逃げ癖がある。いっそのこと自分が女装して抱かれればいいのか、なんて考えるが問題はそこじゃない。 871

    FUMIxTxxxH

    DONElife is yet unknown.

    モクマさんの手について。
    諸君がワヤワヤやってるのが好きです。
     事の起こりは、路傍の『それ』にルークが興味を示したことだ。

    「モクマさん、あれは何でしょう?」
     大祭KAGURAから数週間後・ブロッサム繁華街。
     夜とはまた趣を異にする昼時の雑踏は穏やかながら活気に満ちている。人々の隙間から少し背伸びしてルークの視線に倣うと、路地の入り口、布を敷いた簡素なテーブルを挟んで観光客と商売人らしい組み合わせが何やら神妙な顔を突き合わせているのが見て取れた。手に手を取って随分と熱心な様子だが、色恋沙汰でもなさそうで。
    「観光地ともなれば路上での商いはいろいろあるけども。ありゃあ……手相を見てるんだな」
    「手相……様々ある占いの中で、手指の形や手のひらに現れる線からその人を読み解くといったものですね」
     両腕に荷物を引っ下げたままタブレットでちょちょいと字引する手際はまさに若者のそれで、実のところモクマはいつも感心している。
    「こんな道端で……というよりは軒先を借りて営業しているんでしょうか」
    「案外こういう場所の方が一見さんは足を止めやすいもんだよ。そも観光なんて普段見ないものを見て歩くのが目的だもの。当たるも八卦当たらぬも八卦、ってやつさ。」
     益体 8628