偶然の出会い2「これは黒澤さん。今度の商品も素晴らしいですな。」
「ありがとうございます。○○様。」
愛想笑いに社交辞令。どうでもいい話を仮面をかぶり媚び諂う社会…
反吐が出る―――
だがこれも組織のため…あの方のため。
多少の仮面は被らねえとな…
ホテルのレセプションホール内で重役と話して周るそれだけだが、俺には苦痛で仕方がない。
普段はこういう仕事はベルモットが変装して行うが、アイツは他の用事でいない。
重役がいないところで大きなため息を付いていると横にいるウォッカに心配される。
「兄貴、お疲れですね…」
「ああ…こんなところ早く出たいが…まだかかりそうだな」
ウォッカが近くにいた他の部下と話をしていると少しだけ表情が緩んでいく。
「とりあえずお偉いさんとの話は済みましたんで、最後の方だけ顔を出せばいいらしいですぜ。」
最後という言葉を聞き、時計を見ると30分ほど余裕がある。
「少し席を外す…後は頼んだ…」
分かりやした。とウォッカの言葉を聞くと俺はその場を離れホテルのラウンジへと向かう。
コーヒーを注文しそれを口に含むと社交辞令で酒を飲んでいた身体にコーヒーの苦さが染み渡り、少し心が落ち着く。
身体をソファーに沈めて身体を暫く休めていると何やら視線を感じた。
瞳を開けて横を見ると、最近よく出くわすガキが目の前にいた。
「こ、んばんは…」
「ああ…」
ガキが手に持っているドリンクを見ると黒い液体、一瞬コーラにみえたが、炭酸特有の気泡が見当たらない。
そうなると…
「フッ…コーヒーか…ガキならコーラだろ」
「コーヒーが好きなんだよ。それにたまにはジュースだって飲むし」
少しむっとした表情になりつつも、一瞬見えた怯えた顔が消え失せていた。
コイツと顔を合わせるたび怯えた表情を毎回していた。
まあ…俺の顔のせいもあるが…どうも違う気がしてならねえ…
怯えた顔の奥に潜む燃え滾る炎、そして何かを決めた覚悟を感じる…
まあ…ガキの考えることなんざ、どうでもいいが…
最近は初めの一瞬だけ強張った表情を見せるがその後は普通に話すようになった。
慣れか…
「子どもが夜コーヒーを飲むと眠れなくなるぜ…」
「大丈夫。夜は本を読むから眠くならない方が良いんだ」
そう言いながら立ったままコーヒーを一口飲む。
「ガキならとっとと寝ろ…夜は大人の時間だぜ…」
そう言いながらコーヒーを飲んでいるとスタッフの男がこちらにやってきた。
「黒澤様。お連れのお客様がお呼びでございます。」
「ああ…」
ウォッカか…時計を見るとそろそろ30分経過するところだった。
俺は立ち上がるとガキの頭を手で乱暴気味に撫でると驚いた表情になる。
「じゃあな…夜更しもほどほどにな…」
「うん…」
俺はホールに戻るとウォッカが何か良い事でもありやしたか?と聞いてきた。
どうやら少しだけ顔つきが変わっていたようだ。
あのガキと少し話しただけだが、いい気分転換になったようだ。
「フッ…まあな…」
その後のスピーチは少しだけ和やかに出来ていたと後のウォッカに言われたのだった。