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    milouC1006

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    milouC1006

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    これは小話集に混ぜようかと思ったけどレク風味が薄すぎるのとク、そんなことを気にするかな……と見返して思ったので供養させてください……不死隊の皆さんとクと白竜ちゃんの話です。

    ―――――――――

    「帝国軍本隊の撤退を確認!」

     中央前線からの伝令兵が文字通り飛んで来る。中央に送り込んでいた不死隊の伝令係は、素早く編成の中に戻った。黒く闇夜に紛れるには最適なその細身の飛竜は、耐久力よりも素早さに長けた伝令向けの体質をしている。次いで戻った偵察係の飛竜の一回りは小さい。

    「この辺りの残存兵も皆退いたようです。流石は歴史ある帝国軍、軍の指揮系統は立派なもんだ」

     最も年長の偵察兵バヤンが敵影を見逃すことはまずない。パルミラから流れ、視力と狙撃の弓術に物言わせ成り上がった彼の実力は、歳を取っても衰えを知らなかった。
     撤退を焦る必要はない。最も高位で若年のクロードはそう判断した。「お疲れさん」

    「とりあえず焦って撤退するような必要は無いだろう。今日は少し緊張感のある戦場だったからな。各自、可愛い飛竜のことを労わりながらゆっくりと後陣に戻ってくれ」

     彼自身も緊張の糸を切るように、つがえた矢を矢筒に戻して肩の力を抜いた。
     帝国軍との全面的な大戦が始まる気配が濃くなってきた孤月の中旬。ランドルフ将軍の進軍とアリルへの増援引き取りが女帝の耳に入るなり、帝国軍はガルグ=マク郊外の観測地や小さな村に圧力をかけ始めた。今回もある砦に進軍の兆しありの報を受け、クロード達はそれなりの部隊を編成して増援に向かった所だった。ベレトがいつも通り最も危険な中央前線、勾配のある地形を有利に行かせるクロードが左翼前線、比較的なだらかで騎兵の動きやすい右翼前線をローレンツが指揮し、地の利を生かした布陣が功を奏したことで、被害も最小限に済ませることができた。
     ひとまず快勝と言える結果を収めた不死隊の面々は、他の熱心な部隊とは違い戦闘の内容を顧みることも、戦場慣れしていない部隊のように感傷に浸ることも無い。一仕事終えた職人のように、帰ったら一番に酒を飲みたいだとか、それよりまず先に蒸し風呂だろうだとか、毎度同じような内容を笑いながら話すのが常だった。腕以上に、その気さくさが気に入っているクロードは類に漏れずいつも一緒になって笑うのだが、今日の彼は一言も口を開かない。どころか、崖のぎりぎりの所で飛竜を降りてしまう。

    「盟主殿?」
    「ああ、悪い。俺はちょっと頭を冷やしてから行くからさ。先に戻って先生に伝えておいてくれないか?」

     からりと、そっけなく笑って見せるクロード。彼が飛竜を降りた時、そのまま崖に身投げしてしまうかと一瞬焦った不死隊の面々は、とりあえず肩を降ろす。しかし、その愁眉が開くことは無く、かえって不服そうな表情を浮かべた。一人残らず。
     一体どうした。今までのどんな戦場でも見せなかった表情に困惑するクロードをよそにして、彼らもぞろぞろと飛竜を降り出す。飛竜を労われと言ったが、まさかこのちょっとした山岳を歩いて下るつもりじゃないだろうな。「ちょっと失礼しますね」

    「え、な……うおぁっ」

     一番体躯のしっかりとしたバヤンがクロードの事を半ば無理やり抱きかかえて担ぎ上げる。突然の事と体勢のみっともなさに離せと暴れるクロードだったが、ともすれば彼の腰ほどあるような腕をどかすことは出来なかった。諦めたクロードが、心の底から嫌そうに呟く。

    「おいバヤン。お前、盟主様が降ろせって言ってんだぞ」
    「盟主様に置かれましては大変不服かと存じますが……生憎、俺たちの中に、憔悴した主を放っておけるほど薄情者はいませんでな」

     そう言われて、クロードは黙りこむ。不死隊の誰もが、クロードより五つも六つも年上で、バヤン至っては倍近くも歳を重ねている。戦場での経験も歳以上に深い彼らが、今日の戦場が盟主の心をすり減らしたことに気づけないわけが無かった。
     今日の戦場では、魔法兵が多かった。魔法に耐性の無い飛竜兵が警戒しなければならないということは勿論だが、如何せん魔法部隊と言うのは女性が多い。貴族として社交の場に出ることも多かった彼の根底には、当然のように女性は守る者であるし、淑やかでなるべく戦場とは無縁の関係であるべきだと、そう言う考えが根付いている。そんな庇護の対象であるはずの女性を、いつも以上に、何十人と手にかけた。その事実が毒のようにじわじわと彼の心を侵しているのを、根っからの戦士である彼らは簡単に見抜いていた。

    「こういう時に一人でぼーっとするのも良いですが、やっぱりみんなで笑いながら帰るのが一番の特効薬ってもんですよ。だから、大人しく担がれてくれませんかね」

     自分の限界を良く把握しているクロードは、ここで彼らの善意を無為にしようとは思わなかった。ただし、体勢だけは変えて欲しい。

    「わかったわかった。大人しく担がれるが、とりあえずこの体勢だけ変えてくれないか? みっともないったらありゃしない……」

     それなら、と一度クロードを降ろしたバヤンが今度は彼に背中を向けてしゃがみ込む。

    「これなら多少、示しがつくんじゃ?」
    「あ、まあ……って言うか、それなら歩いたっていいだろう……」

     そう言いつつも彼の背中に体を預けるクロード。抱きかかえられたり、地に足のつかない体勢が苦手なはずが、今日ばかりは大人しく背負われた。クロードは、精神的な面は勿論、身体的な限界も良く把握している。ただ先ほどの戦闘の際に敵の攻撃が足をかすめ、痛みで力が入りにくくなっているというだけだった。しかし、これが見かけ以上に踏ん張りを効かせなければならない飛竜兵ともなると、致命傷になる。もちろんその傷を見抜いて、彼らも一度飛竜から降りて共に帰ろうと提案したのだが、当のクロードは知る由も無かった。

    「しっかし……俺ももういい歳だってのに今更おんぶってのはなぁ。流石に気恥ずかしいぜ、これ」
    「なに、あんた俺の半分くらいしか生きてないじゃないですか。いい歳なんて言われちゃ俺が傷ついちまいますって」
    「いや、お前は実際いい歳だろ」

     そんな会話も戦闘のあと必ずと言っていいほど交わしている。そうして周りの者が、いつ隠居するんだと囃し立て、まだまだ現役だ、なんなら勝負してやろうかと言い返し笑いあう。これで本当に決戦をしても大体は勝てないのだから笑いの種に出来るというもの。本当に戦えなくなった者を囃し立てるような真似が出来るほど落ちていない。
    居心地のいい喧騒に耳を傾けていると、か細く心配そうな飛竜の声が聞こえる。声の主はクロードの白竜。彼らの上を飛んでいたはずの彼女が、不意にクロードの方に降りて来た。「ベアか」

    「どうした、お前もどこか怪我していたか?」

     クロードが彼女の怪我を見逃す事など滅多にない。人間の歩調に合わせ、風を出来るだけ起こさないよう器用に細かく羽ばたく彼女は、自分の心配をしろと言うように一度ぐるりと唸った。

    「盟主様を乗せるのは私の役目だって怒ってるのかも知れないな。お前の主さんは確かにいい乗り手だが、最初は暴れがちでいけねえや。お互い苦労するねぇ」

    勝手に担いだのはそっちだろうと言う前に、悪いのはお前だと彼女はバヤンの頭に噛みついた。甘噛みでひとまず安心。心配なのはこちらだと言うようにまた細い声に戻った彼女は、クロードを引きはがさんと言う勢いで顔を擦り付ける。嬉しいが、鱗が結構痛いんだよな、これ。

    「ありがとな。ちょっと足が痛むくらいで大した傷じゃないよ。今日の所はこいつに役目を譲ってやってくれ」

     ならば仕方ないと、今度は一転優しく鼻の先でつつくように顔を寄せてくれる。お互いが心配な時は、昔からなにか言葉を交わす前にこうして肌を摺り寄せ合っていた。そしてそのまま、軽く口付けを交わすのも常だ。

     おぉ、とどよめきと言うより歓声に近い声が上がる。もしかして、普通飛竜に口付けはしないもんなのか……?

    「その子、とびきり賢いんですね、盟主殿」
    「女の子だって言うから意味わかってやってんじゃないか?」
    「馬鹿言え、いくら賢いったってそこまで知恵は回らんさ」
    「いやいや、白竜はちょっとした子供より賢いって噂を聞いたことあるぜ。ませた女の子ともなりゃ九つになるころにはもう口付けの一つや二つ覚えるもんさ」

    好き放題言う彼らの言葉が分かるのか、白竜は焦ったように羽を荒げて飛び上がる。もしかすると、図星だったのかも知れない。
     舞い上がった彼女に向けて、バヤンがただでさえ大きな声を更に張り上げた。

    「でも残念だったなぁ。盟主様にはぞっこんのお相手がいるんだ」
    「は、いや、待て待て! なんだそれ」
    「あ? 盟主様、先生にベタ惚れじゃ……」

     教えたつもりも無いし、隠していたつもりだ。四六時中一緒にいるわけでもないこいつになんでバレてるんだ?

    「嘘だろ……なんで知ってんだよ。言った覚えないぞ?」
    「あれでバレないと思ってるんなら改めたほうが良いですなぁ。だからわざわざ横抱きじゃなくておぶってるんですわ」

     戦場ではもちろん、普段の生活でもあからさまにくっつかないようにと意識していたはずだ。が、周りの反応を見る限り、この場にいる全員が知っていたらしい。そんなんじゃないと照れ隠しする様に大きく嘶いた白竜に続いて、唸りながらバヤンの肩にぐっと顔を埋める。帰ったら、行動を改めるようベレトと相談しなければ。もう、軍全体に知れ渡っていたかもしれないけど。

    「いいなぁ、賢い子で。お前もガタイばっかりじゃなくてちと賢くなりゃいいのに」

     後方の狙撃手が横を歩いていた自分の飛竜にそうぼやくと、鼻息を大きく噴き出してばっくりと頭に噛みついた。あれは甘噛みじゃないな。血が出てなけりゃいいんだが。

    「白竜に限らず、飛竜は言葉の雰囲気を読めちまうから気ぃ付けろよ」
    「白竜はそもそも数が少ないから謎に包まれたままですけど、平均的な飛竜には七歳児くらいの知性があるって話ですよ」
    「お前んとこの娘さんだってもうそれくらいだろ。言っちゃいけねえことの区切りをつけんと嫌われちまうぞ」

     そうして今度は飛竜についての議論が始まる。屈強で戦いしか能が無いように見える彼らだが、戦術については勿論、飛竜の知識や政治にセイロス教義についてまで、それなりの知識を持った者が多い。
    七歳児ってことはどれくらい話が聞けるんだ。どんな指示が通るか帰ったら試しに聞いてみてもらおうか。こう議論が白熱し始めると、天幕に帰るまで続くだろう。
     教本では聞けないような知識を、心地よい喧騒と共にいき流す。すると、歩調の揺れのせいだろうか、不意に眠気が襲って来た。こうして誰かに背負われた記憶は無いが、それでも自然と眠たくなるものなのかと思わず感心する。何とか天幕まで、先生の顔を見るまで。そう言い聞かせるも人肌のゆりかごに抗えず、意識が遠くなっていく。もし敵影があれば、起こしてくれるだろうし、起きれないようなことも無いだろう。

    「ちょっと、わるい……」

     肩の力を抜くと、一緒に瞼もずっと重くなる。いつも撤退が早いから、先生、心配してないだろうか。先生以外の前で寝てしまうとは気が緩んでいて駄目だな。色々考えるも、優しい位の日差しと懐かしい東方の香りにあっという間に意識を持っていかれる。瞳の奥が溶け出すような眠気に深く沈んで行った。

    翌日、妙に怪我人が多くなっていた不死隊に原因を尋ねると、クロードの寝顔に手を出そうとした者皆、白竜に蹴散らされたんだとバヤンが大笑した。
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