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    milouC1006

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    milouC1006

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    エイプリルフール二日目なので許されるレク。若干弱リーガンより。上手く書こうと思い過ぎないで書くの楽しかった……
    ――――――――――――――――

    「やっちまった……」

     鬼神が卓上に突っ伏す。目の前で湯気を立たせる好みの紅茶には目もくれず、この世の終わりのような声で呟いた。
     守護の節一の日。風の噂で流れて来た「エイプリルフール」という習慣を知ったのはつい数日前だった。戦時下にこういった日は少し問題ではあるが、不確定事項の多い戦いを控える今節、こういう日が合ってもいいだろうと、特別規制せずに俺自身も楽しもうと思っていた。楽しもうと思っていたのだが……

    「ねえクロード君。相談に乗ってくれって言われてから、ずーっと肝心な相談されてないんだけど?」

     愚痴なら聞くよ? と机越しのヒルダが呆れて尋ねた。この手の話はヒルダが強いと踏んでつき合ってもらっているんだ、と顔を上げると、酷い顔なんて言われてしまう。

    「愚痴ではないし全面的に俺が悪いんだが……」

     そう前置きを付けて、思い出しただけでも落ち込む数時間前の出来事を話した。
     ベレトに、今日から色恋の関係を断とうと嘘をついた。そう一言話すだけで彼女から「自爆したんだ」と小さな声が聞こえてくる。
    うろたえる珍しい表情や、どうしてそんなことをと引き留めてくれるのを期待していたのだが、それがあっさりと引き受けられてしまった。「君が関係を断つというのなら引き留めはしない」と、いかにも欲の薄い彼らしい言葉で。もちろん、全ての縁まで切るという事までは言っていないが、それにしても快諾だった。寂しくなるくらいには快諾だった。
     かえってうろたえてしまった俺が、これは嘘だと伝えられる前に、かつての恋人の姿は出来るだけ見たくないだろうとその場を去ってしまった。引き留める間もなく。
     それをありのまま、動揺も彼の表情も克明に伝えると、ヒルダは大きく魂まで抜け出しそうなため息をついた。

    「……なんで先生にそういう嘘ついちゃうのかなー」
    「いや、最近あの人こういう冗談だって通じるようになってきてただろう? 元から妙な所で冗談いう人だったし今なら、と思ってたんだが……こんなに綺麗に真に受ける事あるかよ」

     滅多に考えないことで朝から疲れた頭をもう一度卓上に預ける。茶器が揺れるほど勢いよくぶつけたが、それくらいの痛みを与えられても仕方がない嘘をついてしまったんだ。足りないくらいだ。
    彼は誠実だから、俺がそう言えば思い残すことのないよう潔く応えてくれる事くらい想定しておくべきだった。そしてその後、恐らく一人で悲しんでいることも、想定できなかったことではない。戦況を読むのもたしかに必要だが、一人の心さえ読むことが出来なくては策士失格だ。
     何度も誤りに行こうとは思ったし、考えた。でも一体なんと伝えれば遜色ないか。今まで散々この舌を回してきたというのにどんな言葉を想定しても上手く伝えられる気がしない――と考え込む頭に、突然鈍痛が押し付けられる。

    「いっだ、痛い痛いヒルダ! ちょっ、待て、おい!」

     こめかみを拳で、しかもあの怪力でぐりぐりと押し付けられると脳味噌がどこからか飛び出しそうになる。彼女の手を叩いて止める止めろとわめけば、やっとその猛撃が終わった。これ、将来子供にするんじゃないぞ……

    「でも、本当にそんな事するつもりじゃなかったんでしょ?」
    「ったり前だろ……そんな日が来たらここに光の杭がごまんと降るぜ」
    「うわ、伝承に残ってること引き出すのやめてよ~。まぁでも、それならやることはひとつじゃない。謝りに行くしかないでしょ?」
    「そうだよな……」

     へこんでないか? 突っ伏したままじくじく痺れる頭をさする。無事形状は保てているみたいだ、と顔を上げると、ヒルダの茶器も茶菓子の類もみんな空になっていた。

    「いい? クロード君。エイプリルフールは午後から、午前中の嘘を撤回して本当の事を言う決まりがあるの」
    「ん?それは初耳だが……」
    「仕事ばかりしてないでもう少し町を歩けば聞こえてたと思うなー……ともかく、良い言葉が見つからないなら散歩でもしながらゆっくり考えて、午後にちゃんと伝えたらいいのよ」

    どうせそれからずっと悩んでたんでしょ? と額を小突かれる。加えて、彼女だけが立っているせいか、いつもよりずっと頼もしく見えた。「じゃ、あたしやることがあるから」

    「やる事? さっき今日は暇だって……」
    「秘密よ、ひみつ。女の子の日常詮索したら嫌われちゃうんだからね」

     お茶ありがとう、と軽く手を振った彼女は颯爽とその場を去った。片付けは全て俺に預けて。まぁ俺が誘ったのだから当然っちゃ当然か。
     先生との茶会は、最後まで一緒に片つけるのが常だから、つい勘違いをしていたのかも知れない。茶器を一つずつトレイに上げながら、まだ二人で、何のわだかまりも無く茶会を開きたい、と覚悟を決めた。



     午後と言えば、何時間もいろいろな人と食事を楽しむ食堂の先生が名物だ。だから、今日もそこにいるだろうと行ってみたが、今日に限っては姿が見えなかった。
    (珍しいな……そんなに早く食べ終わったのか?)
    どう転ぶかは分からないが、どちらにしろ人前で見せられるよう状態で話せはしないだろうと想定していたのだから、好都合といえば好都合だが、妙な話を振ってしまった身としては嫌に気にかかる。
    五年前から変わらず食堂に勤めるおばちゃんに話を聞いてみると、なんと今日の先生は二人前しか食べなかったそう。しかも、誰を誘うのでもなく、自室に持って行ったとまで教えてくれる。「珍しいわよね」

    「先生が生徒さんと一緒にたっくさん食てる姿は見ていて嬉しかったし、作りごたえもあったんだけど……お腹の調子でも悪いのかしら」

     あの先生が、二人前。そう想像すると肝が冷えるどころか爪先まで全身血の気が引く。それを見かねたおばちゃんがおすすめを用意しようかと声を掛けてくれたが、そんなことを聞かされた後ではゆっくり食事をしている気にはなれない。あと、ブルゼンは普通に苦手だ。
    ごめん、と一声かけて急いで彼の部屋に向かう。あの先生が二人前しか食べられないほど、落ち込んでいるのだろうか。そう思えば焦りで自然と足が速くなって、いつの間にか部屋の前に辿り着いていた。
    数日ぶりの全力疾走に乱れた息を整えながら、冷静にと言い聞かせる。彼は誠実で正直で、真面目な人だ。言葉を飾らずともしっかり伝えたら分かってくれるはず。
    深く一度息を吸ってから、戸を叩く。「先生、ちょっといいか?」

    「ああ、クロードか。入ってくれ」
    「ん、あ……ああ、失礼するよ」

     思いの他あっさりと入れてくれたし、声色も落ち込んでいない。少し拍子抜けだ。もしかして意外と気にしていなくて笑い話に出来るかも――とその期待は彼の顔を見るなり一瞬で裏切られた。
     冷たく、出会った時のような無表情。いや出会ってすぐの方がましだったかもしれない。今の彼はその裏に、静かな怒気を孕んでいた。
     あのベレトが、怒っている。しかも俺に。俺がついた嘘に。そう思うと流れた冷や汗で決めた覚悟も雪崩れ打ちそうになってしまう。

    「何か用があったか? あんなことがあったが、君の事は嫌いじゃないんだ」

    怖がらないでくれと、明らかに怒っている顔で言われても。流石にそれを振るえる声で指摘する勇気は無かった。そうして少し黙り込んでいると、彼は再び机に顔を向けて、教団関係の仕事に取り組む。
    問題を起こした後レアさんに呼ばれた時はこういう空気と距離感だったか。あの時は、隣に先生がいてくれただけで随分心強かった。それが今は、彼がレアさんの所にいる。
    散々考えて来た一言がなかなか出てこない。首が締め付けられているように、上手く震えてくれない。やっとの事絞り出した一言は「悪かった」と情けない一言だった。「あれは、嘘だったんだ」

    「嘘?」
    「ああ、その、今日はエイプリルフールって言ってな、嘘をついていい日なんだ。で、午後は午前中着いた嘘を撤回して本当の事を話すって決まりなんだ、だから――」
    「君のそれは、嘘ではないのか?」

     一瞥する瞳は、戦場の物だった。成程これでは敵もたやすく動けないと、訳も分からないまま冷静になり過ぎて、体だけが凍り付く。
     俺があんな嘘をついたから、あの正直なベレトをこう疑心暗鬼にしてしまった。頭と口が別に動いて、何か情けなく弁解しているのは分かるが何を言っているのかまるで分からない。頭は、こんなに怒らせてしまったと、嫌われていたらどうしようかと、ただ困惑と不安で燃えそうになっていく。
     どれほどこうして魂が流れ出るように弁解し続けただろう。もう呆れられてしまっただろうかと口を閉じたその時、彼の表情を見るのも恐ろしくて俯けていた顔ががっしりと掴まれる。「クロード」

    「きょ、だい、その、だから……本当に、ごめん、なさい」
    「……すまなかった」

     その一言と共は抱きしめられて、より一層混乱が深まる。それと同時に少しだけ逞しい彼の腕に安堵まで湧けば、いよいよ悲しいのか嬉しいのかさえも分からなくなる。なんで、先生が謝るんだ?

    「引き留めないだなんて嘘、つくものではなかったな」
    「は、うそ……?」
    「今日はエイプリルフールなのだろう?」

     体を離して見えた彼の顔には、あの女神も恥じらう微笑が浮かんでいた。あの無表情も、憤りもすっかり姿を潜めて、いつも通りの顔でからかい過ぎたと笑う。少しだけ冗談が上手くなったきょうだいが、ベレトが、先生が確かに目の前にいた。

    「君は俺がうろたえる所が見たいと先手を取ったつもりだろうが、残念ながら俺の方が一枚上手だった」
    「まって、嘘じゃない、んだろうな?」
    「ああ、午後は本当の事を言う決まりだろう? ヒルダがさっき教えてくれたんだ」

     いざ心理戦で勝負したら彼女には勝てないかも知れない。上手い事先回りをして土台を整えてくれた彼女のしたり顔を思えば、自然と肩の力が抜けた。あとで良い飾り物を贈らなければ。「なんだ」

    「最初からあんたの手中だったってことか」
    「ああ、俺は生憎、君の傍から離れる予定は無くて、まだまだ愛し足りないんだ。少しだけ取り乱す姿が見たいと妙な嘘をついてしまって……随分、不安にさせてしまったと猛省している」
     
    そう強く潰れるほどに抱きしめてくれると、体まで震えていたことに今さら気づく。無臭の彼に香る、修道院の薄い洗剤の香り。もう一度ベレトと抱きしめ合えていることが嬉しくて、思わず首元に顔を埋めた。

    「ほんとうに、嘘じゃないんだよな……?」

     最後に念を押してそう尋ねると、少し黙り込んだあと、体を離すベレト。不安の残滓がしつこいから嫌われた、と囁く前に颯爽と口を奪われた。「ん!?」

    「これで、嘘じゃないと分かってくれるか?」

     その微笑のまま、あやすように頬を撫でられると青かった顔がみるみるうちに赤く染まっていくのがわかる。こんなに大切にされていたのに、催事とは言え酷い事を言ってしまった。償いにはならないが、ここ数日お互いの仕事ですることが出来ていなかったから、今日は全面的に体を許す事にしよう。「ふふ」

    「もう少ししっかり教えてくれないと信用ならないなぁ、ベレト」

     そう煽るように微笑みかけると、彼は困り顔ながらも額に軽く口付けて俺の事を抱え上げる。「もちろんだ」

    「それでは、しっかりとその身で学んでもらうとしよう」
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