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    milouC1006

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    milouC1006

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    メイドの日(遅刻)にあやかりたいと思ったけどメイド要素無くなったレク。女モブから先生に対する矢印が割と濃い。 舞台は多分1800年~900年頃?? 高貴な女性の口調がわからないんですよ……ね

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    「まさか、自ら主催したパーティーで席を外す事になるなんて……」

     天蓋のベッドに腰を掛ける。社交界の華たるアイルズベリー侯爵夫人の名が霞むわ。少し気分が優れないと、それくらいなら押して微笑むけれど、手が痺れていては。グラスを落とすだなんて大失態をお見せするくらいなら、多少の恥を忍んで休む方がずっと良いわ。
     香炉を持ってきてもらいましょう、とサイドテーブルのベルを鳴らして使用人を呼んだ。流石に最後までこうしているわけにはいかない。
     食事に良くない物を仕込まれている、というのは少し考えにくかった。何しろ、それを防ぐためにいつもビュッフェスタイルで、今日だって例外じゃなかった。
     それじゃあ、個別に渡されたもの? 政府官僚の奥様からお土産にと頂いた、その地方最高級の焼き菓子? でも彼女も、その旦那も私を殺して不利益はあっても利益はないわ。褐色のメイドから貰った一杯のシャンパン? メイドの素性は私自身しっかり調査しているから疑っては際限が無いし、特に数月しか見ていないけれど、彼女の働きぶりはとてもよくて、一段格を上げようかと思っていたところ。警備をお願いしていた軍閥の長官が進めてくれていた一皿に、あらかじめ盛っていた? あの方が捕えてしまいたい裏世界に通じる方は、あの会場にごまんといたはずだわ。私一人暗殺、なんて事をせずとも、会場ごと押さえてしまえばいい。功績にもなる。
     それに、いつもの一番かわいいバトラーに毒見係を任せて、今日だってみんな確認してもらったのだから、どうしたってあり得ない。
    ……考え過ぎかしら。気分が優れないだけだし、人酔いしてしまっただけかも知れない。特に今日は、本当は呼んではいけないお客様をたくさん招いたから、敏感になっているのかも。そう腕組みをして考え込んでいると、丁寧なあいさつで、この屋敷にただ一人の男性従者が入って来た。「失礼いたします」
     軽く頭を下げると、半透明ともいえるほど色素の低い緑の髪が揺れる。これが、本当にたまらない。かつて浮浪人としてさ迷っていた彼を、ここに召し上げてから五年間で、どのメイドよりもすっかり気に入ってしまった。忠実な事、それでいて配慮がよく効き、いつも先回りで全ての支度を整える手際の良さ。何より、毛先からつま先、声帯まで、どんな社交の場でも見たことの無いその見麗しさ。例え仕事が出来なくても観賞用として手元に置いておきたい子。でも、もちろん、ちょっと興味もあるから、今度忙しくない日に誘ってみようかしら。

    「柑橘系の香炉をお願いできるかしら。少しだけスマックを混ぜて頂戴」
    「……トゥートではなくて構いませんか? そちらは最近よくお使いになっていますから、そろそろお体に障るかと」
    「構わないわ。すぐに戻らなければならないし」
    「かしこまりました。ですが、お気分が優れないのですか?」
    「ええ、ちょっと吐き気があるくらい。すぐに治るわ」
    「……大変恐縮ではございますが、少々お手を拝借してもよろしいでしょうか?」

     一流の医者を呼んで医学の嗜みもつけさせたのだから、私よりも病を見る目は敏いでしょう。その彼が心配するのだから、軽い診察をお願いするのも悪くない。手を差し出せば、失礼しますと膝をつき、恭しく手を取って軽く甲のあたりを何度か押してみせた。その度ピリピリと指の間がむずがゆくなって、思わず眉をしかめてしまう。下から見上げる端正な顔が、そのゆがみを見逃すことは無かった。「痺れがありませんか?」

    「ええ、多少はあったのだけど、押されると少し」
    「……大病の心当たりがあります。今晩はもうお休みになられた方がいいかと」

     社交界の華たる私が、主催をしたパーティーを抜けてベットでおねんねだなんて! と他のメイドなら聞く耳を持たず一蹴していたに違いない。けれど、彼の言う事なら仕方がない。そんなに心配そうな顔をされては、怒るこちらが、かえって無作法というもね。「休むことにするわ」

    「ありがとうございます。お客様方には私の方から、いつも通りお伝えしておきます」
    「明日の医者の手配もよろしくね。あなたの師匠がいいわ」
    「シュヴァイツァー先生ですね。仰せの通りに」

     その後、すぐに変えのネグリジェを用意して、香炉を取りに部屋を出る彼。本当に、彼の提案はいつも私を思いやる言葉ばかり。しかも、それに従うと無表情ないつもの姿からは想像できないほど、優しく安心に顔を緩めるのですから、彼だけにはわがままが言えないのよね。
     着替えを済ませるタイミングを見計らったかのように、ちょうど彼が香炉と水差しをトレイにのせて持ってくる。火をつけ、サイドテーブルに置き、ちょうどよく香りが立ってきたころ、部屋の燭台を全て消した彼は「おやすみなさいませ」と手に持つ唯一の燭台を吹き消した。
     これが一日の流れ。美男子の顔を最後に眠りにつくのは、本当に気分がいいわ。そうして目を閉じようとした直前、ふと、カラトリーの一つのような、細身の刃物が月光に輝いた。

    「よい夢を」





     燕尾服を真っ赤に濡らしたまま、三階の窓から降りて来る男が一人。その下には、男を見上げる褐色のメイドが一人。よくよく見るとメイドの骨格は、男であるようだった。
     広大な庭には、いつも数人の見張りが徘徊している。それでも彼らが今見つかっていないのは、執事ベレトの、その正体は暗殺者である彼の潜入の賜物だった。待っていたメイドは、主人を迎えるように気味の良い笑顔を浮かべて「お疲れさん、先生」とだけ声をかけた。

    「クロード、どうして先に逃げておかなかった」

     脱出に使ったロープを回収しながら、一瞥もくれずに尋ねるベレト。今日の警備はいつもより厳重だった。兵の質も良かったし、君の腕では一騎打ちに勝ち目がない。それも理解していたはずだ。反論の間もなく指摘する間も、足を止めず、彼には目を向けなかった。

    「一仕事終えた相棒を置いて帰っちまうほど、俺は薄情じゃないんでね」

     ベレトが静かになるのを待ってから、そう笑いかける。かえって言い過ぎたとベレトが言葉を詰まらせた。足を止めないままクロードは、慣れっこだと手をはらはらと振ってみせた。
     クロードは、元はなにか名家の生まれだったという。それが、何かの問題でいられなくなり、貧困街や街角に入り浸るようになっていた所を、ベレトに拾われて、もう十年近く一緒に仕事をしていた。クロードは貧困街以前のことを何も話さなかったが、ベレトは気にすることも無く背中を任せる。相棒が欲しいと単純な理由で拾った事、無警戒な信頼。それはどこから来るのかと、クロードは最初こそ疑ったが、今はただ純粋に、呆れるほど人を疑う事が無いだけだと学んでいた。
     反論を挟ませない助言は、戦場での指導の癖。彼の「相棒」の一言で、もう生徒では無く対等の仕事人だと少し反省をした。「それじゃ、すまないついでにさ……」

    「ご褒美をくれてもいいんじゃないか?」
    「……今はだめだ」

     昼間から陽射しに晒され続け、船を漕ぐ裏門の女性門番の横を静かに通り過ぎる。軽薄に言葉を重ねる彼も、この局面では流石に口を噤み、十分に距離を取ってから、また懲りずに口を開いた。昔から指導のあとには、彼の望むように褒美を与えていたせいで、節操なく求めてしまうようになった。子育てを間違えたような気分だった。

    「ちょっとだけだ、いいだろう? 俺だって、色々と罠を仕掛けて出てきたんだから追手は暫く来ない。これでも、あんたが五年も向こうに本職を取られている間に、一人で色々頑張ってたんだぜ?」

     実際、彼の罠や話術の腕前は、もうベレトより上だった。それに、ベレトが他人と五年も同じ屋根の下で過ごすのが気に食わなかったのだろう。親子のような師弟のような、一言で言いきれない関係性の中には、恋情も漏れなく入っていた。
     むくれて目を逸らしながら歩く彼を、一瞬だけ引き留めて、路地に引き込む。これは、と期待に輝いた彼の瞳に軽く頷きで返事をして、深く口を重ねた。
     クロードの方から特別求めなくても、ベレトが自然とその期待を察して、少し荒く舌を吸い上げたり、壁際に体ごと押し付けたりする。そうしていると、例え本意でなかったベレトも、次第に熱が上がってきたようで、クロードの衣服に手をかけ始めた。応えるようにクロードも、他人の香りがする燕尾服を剥ぎ取ろうと手をかけた。互いに腰を摺り寄せて、もうすっかりやる気になっていた。
     ところが、ベレトはクロードの腰が砕けて緩む寸前に口を離してしまう。口が離されてすぐ、狙い通りだと言うようにクロードはにんまりと「やる気になってきたろ?」笑いかけた。

    「違う、着替えだ」

     すっと表情に溜めた熱を引き戻すと、ベレトは路地に積んであった木箱や樽の物陰から、衣服がぎっちりと詰め込まれた袋を取り出す。上流階級の街だから人通りは少ないが、流石にメイドとバトラーの男二人、一人はまだ軽く血に汚れているような奴らが町を歩けば事だ。それも作戦のうちで、ここに連れ込まれた理由だってクロードも知っていた。それでもここまで高められて放置だなんて、焦らされているなものだ。
     変えの服を差し出すも、不服そうに眼を逸らすクロード。この拗ね方は長くなるな。ベレトは衣服を彼に押し付け、そのままの勢いで抱きしめた。

    「帰ったら、夜が明けるまでしよう。我慢できるね?」

     そうベレトが耳元で囁けば、満足げに喜色を浮かべるクロード。
     任務が成功した日の夜は、二人ともすっかり欲情していて、いつもよりもずっと荒い。それがお互い、成功報酬とは比にならない、何よりの褒美だった。






    【掃除人先生(22)】元は父が団長を務める傭兵団で活動していたが、時代の流れと両親が隠居に入るタイミングで独立。特別他にしたいことも無かったから、今までの技術が使えるフリーランスの暗殺をすることに。個人だけでなく時折公的機関からも依頼が来る。相棒が欲しくてクロードを拾ったら思いのほか可愛くなってきた。
    【弟子兼相棒のク(19)】本当はそれなりに名家の出らしいが、家にいてられなくて貧困街で荒れてた。身なりの良いベレトに狙いを定めるも、かえって殺されかけるどころか、見どころがあるから拾って良いか? と言われていろいろと教えてもらう。親としても相棒としても男としても先生が大好き。
    【アイルズベリー侯爵夫人】裏で薬や人身売買してる一界隈の女帝。表では政界に入ることで勢力を保ってる貴族の夫人で社交界の華。旦那から貰った屋敷で過ごし、暗躍は旦那にも内緒でやってる。その事情から警戒心が強く、隙がなかなか無い。屋敷の近くにいた浮浪人(の真似をしてたベレト)を拾って召し上げたため、裏切られるとは欠片も思ってなかった。いつも男性の従者は一人だけ、他は全てメイドを雇っている。
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