月を見ていると君を思い出す。ありふれた言い方だが、結局口下手な俺には、これくらい正直な方がいい。
血を交わして数百年。フォドラのあたりを後にしたクロードとベレトは、この数百年片時も離れず共に旅してきたが、つい先日、新しい大陸が見つかったとのことでクロードが見に行きたいと一人で旅に出た。一緒に行きたいと思ったものだったが、女神再誕の日までに戻ってこられないから一人で構わないと断られた。そしてベレトをフォドラ地方に残して、元ブリギットから出る新天地を目指す人であふれる船で、新大陸へと向かって行った。
今でもベレトはよくガルグ=マク大修道院に通い、催事の時には欠かさず尋ねていた。もちろん彼の事を大司教だという人は、とうの昔にみんないなくなってしまっている。そもそも、時代の流れでベレト大司教の存在を疎ましく思っている宗派も出て来たと聞いた。出来るだけ密かに、目立たずに通うのが得策だった。
そして、その再誕の日。信徒が皆並んで聖廟に向かう中、一人ベレトはかつて何度も竿を振り下ろした池の桟橋に腰を掛けて、青白い月を眺めていた。
士官学校を含め、大修道院としての機能は昔と変わらず生きてはいるが、それでも少し寂れたように思える。今では敬虔な教徒たちの聖地という側面が強く、昔のように町としてのガルグ=マクはもう無くなっているからだろうか。傷だらけの戦時の方が、ずっと活気に満ちている。この桟橋も、もう滅多に使う人がいないのか手入れされず、腐り始めている事にも気づいてない。
数百年前に人生一回分、毎日のように魚を待ち続けた姿勢で水面の月を見つめる。
寂しい。今すぐ水の中に飛び込んで、代わりでいいからその月を抱きしめしたい。それでも一度飛び込めばもう上がって来られないほど心が重いからできない。
一年もせずに戻ってくるし、この縁だから多少連絡を取り合わずともまた会えるだろう。落ち合う場所だってここだと決めているから、この辺りをうろついていれば必ず会える。それでも、今まで体の一部のように一緒に居た恋人、教え子、血の交わしたきょうだい。まだれるだけでも堪える。
向こうは夜明けの時間かも知れない。同じ月を見ることも、同じ夜明けを見ることも今は叶わない。誰もが大切な人と抱き合って眠りにつく時間に、一人月にさえ触れられない。
「……覚悟はしてたんだがな」
「何の覚悟だ?」
「君の好きなようにして欲しいと、そのためなら寂しさも、我慢できる、と……ん?」
あまりにも馴染のある声だから自然に返してしまったが、この声は、聴き間違えることの無い声だ。焦って声のする頭上を見上げると、そこには焦がれた月が、それよりずっとはっきりしていて美しい人が、口に三日月を浮かべて覗き込んでいた。主の望む姿のまま、若い姿のクロードの三つ編みが顔にかかる。
「く、クロード? どうしてここに……っ」
驚いて体を動かすと、弱った桟橋が悲鳴を上げる。落ち着いて話す間もなく、