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    JUNE

    @JUNE74909536

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    JUNE

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    セベ監SS※死ネタ注意

     花曇りの空が見える。そろそろ、日が沈むだろう。
     外はいつも通りひんやりとしているけど、もうこんな気候にも慣れたものだ。私は寒さも感じなかった。木の葉のさえずりが、耳に心地よい。
     庭の寝椅子に横たわる私に、セベクはブランケットを掛け直す。
    「ねぇ、学園のこと、覚えてる?」
    「もちろんだ」
    「私達が初めて会った時……」
     楽しく思い出話をしているのに、どうしてあなたは、泣いているのかな。
     涙を流しても尚、その整った顔立ちは彫刻のように美しかった。セベクはその形の良い指で、私の手を優しく握る。
    「ああ、懐かしいな……」
     私の手は、随分前に皺だらけになってしまったけど、あなたはそれを決して悪くは言わなかったね。
    「泣かないで、セベク」
     ちゃんと話しているつもりなのに、私の声はかすれて聞き取りづらかった。彼は唇を噛んで、少しの間黙る。それから絞り出すように、悔しげに呟いた。
    「一緒に歳をとれなくて、すまない」
     昔のまま、陶器のような滑らかな彼の頬を涙が伝う。それはぽたぽたと落ちて、ブランケットに吸い取られた。
    「セベク」
     そんなこと、私はちっとも気にしてないのに。ほら、鼻水を拭いて。
    「私はね――」
     神様、どうか、笑顔だけでも。あの頃みたいに、上手に笑えていますように。
    「幸せだったよ」
     涼しい風が、吹き抜けて行った。
     セベク、私の生涯の恋人にして親友。
     そんなに子どもみたいに泣かないで。王の側近がそんなことでどうするの。
     私はね、満足してる。
     あなたから見たら、短すぎると感じるかもしれない。
     でもね、私は生きた。
     確信を持ってそう言えるよ。
     この世界に来て、人生を旅して、そして、精一杯生きた。そりゃ後悔もなかったわけじゃないけど、そんなの全部、小さなことじゃない?
     ねえ、セベク。私は立派にやったでしょ?
     あなたを愛したし、笑ったし、泣いた。満たされたり、失ったりして、自分で選んだ道を生きた。
     つまづいたり、悩んだりもしたけど、私は間違いなく、泣きたくなるほど愛しいこの世界で、生きたんだよ。
     ねぇセベク。今になってわかるけど、本当に人生って愉快なものだよね。
     皺が増えた分だけ、あなたとの思い出も重なった。あなたがドジをして恥ずかしそうにするのも、子供たちと歌うのも、その強い腕で抱きしめられるのも、全部が夢みたいに大切だった。
     だから、どうか。
     私がいなくなった後も、あなたに生きてほしい。
     あなたには、まだまだ素敵なことがあるよ。
     私のことは時々、思い出してくれたら、それだけで十分。
     人間と呼ばないでと言い合いした時のこと。お気に入りの古書をこっそり見せてくれた時のこと。最初にここに来て、お城を探険したがった私のせいで一緒に怒られた時のこと。あなたが初めて、私を妻と呼んだ時のこと。
     どれも私が、ちゃんと覚えておくから。
     本当は、あなたを残していくのはまだまだ心配なんだけど。でも、きっと大丈夫だよね。
     これからも、茨の谷のみんなをどうか守って。全部、私の宝物なの。
     私のセベク。
     私を選んでくれてありがとう。
     私と一緒にいてくれてありがとう。
     たくさん愛をくれてありがとう。
     そう、言いたいのに。あなたの涙を、拭いたいのに。何だか、それももう難しいみたい。
     ああ、私がこんなに幸せな気持ちでいくと、彼がわかってくれていればいいけど。
     庭の梢から、鳥の羽ばたく音が聞こえた。
     茨の谷には、夜が来て、また朝が来る。
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