男審神者×大般若長光withこたつ 執務室のふすまを開けるとこたつが置かれている。
そろそろ秋も深まる時期、何もおかしなことはないが自分で出したおぼえがない。出してくれと誰かに頼んだおぼえもない。
「やぁおはようさん」
そして何より、近侍の大般若長光が当然のような顔で入っているのがわからない。
「あの大般若くん」
もしやと尋ねると即座に回答が返ってきた。
「あぁ、そろそろ必要だと思ってな。俺もこいつが恋しくなってきたところだったし、もののついでだ」
無邪気な笑顔を前にしては、勝手に模様替えをするなと叱るのも気が引ける。
そのうえ書類や筆記具や印章など、仕事に必要なものはすべてこたつの上に移されている。ここまで手際よく外堀を埋められては、片付けなさいと命じる理由が見つからない。
「そ、そうだね、私もそろそろあったほうがいいかなと思っていたしね。ありがとう」
「そうそう、体が冷えると指先が冷える。指先が冷えたんじゃ仕事も捗らないだろう」
お膳立てが整っているとなれば、今日からはこたつで仕事をするしかない……のだが、一つ先ほどから気になっていることがあった。
こたつの向こうに座った近侍が明らかに右側へ寄っている。左側に人ひとりが入れそうなスペースを空け、先ほどからずっとこちらを見つめている。
とはいうものの、誘われるまま隣に収まるのはさすがに無茶だ。
「えーと、それじゃ私はこちらに」
呼ばれるよりも先に手前側、大般若の真向かいに陣取る。
大して広くもないこたつの中で、真横に座ってしまってはまともに仕事をできる気がしない。たとえ彼がおとなしくしていても、こちらの気が散ってそれどころではない。
露骨に避けられた大般若は、予想に反して機嫌よく笑ったままだ。
「よし、じゃあ始めるとするか。まずは年の瀬に出すやつだな、締め切りは先だが早いに越したことはない」
「あっ、もう紙で用意してくれたんだね」
情報は電子端末で政府に連携済だから、あとは紙の書面に署名すれば完了だ。さっそく印鑑と朱肉の用意をしていると、こたつの中で何かに足をつつかれた。
「ひゃっ!?」
何か、といっても犯人は真正面に座り、素知らぬ顔で書類をめくっている大般若長光以外にいない。
叱りつけたいところだが、彼のことだからとぼけてしらを切り通し、押し問答で仕事が進まなくなる可能性が高い。触れずにいるのが吉だ。
気を取り直して書面に向き直るも、二度三度とまたしても足をつつき回される。
「……あの、大般若くん?」
さすがに声をかけると、ぱぁっと明るい笑顔で迎え撃たれた。
「おや、悪いなぁ。まだ人の身に慣れてないもんでね、体の使い方がおぼつかないみたいだ」
このあいだ修行の旅から帰ってきたばかりだよね、という言葉を飲み込む。
こたつを目の当たりにした瞬間から覚悟はしていた。このまま永遠にちょっかいを出され続けるより、さっさと彼の思惑通りの結果に収まってしまうのが得策だと。
「えぇっと、そっちに入れてもらってもいいかな」
「あぁ、どうぞどうぞ。あんたの場所ならいつでも空けてあるからな」
布団から這いだす主を大般若は機嫌よく眺めている。去年の冬とまったく同じ経過である。
近侍としての彼に不満があるわけではない。仕事の補佐はきちんとしてくれるし、必要ならば叱ってもくれる。
ただし並んでこたつに入っているとき、耳元でささやきかけるのだけは勘弁してほしい。修行の旅で得た新たな力を、ここで味わわされてはたまらない。