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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜

    #主刀
    mainBlade
    #主こりゅ
    leadingActor
    #さにこりゅ
    daughters

    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気がした。

    第四部隊の遠征報告を受け取ってまとめていると、ひとり分の足音が近づいてくる。
    「主ー帰ったよー」
    「あっ小竜お帰り!」
    「俺のこと、心配してたかな?」
    「またそんなこと言ってー、ちゃんと帰ってきてくれるからそんなに心配してないよーだ」
    ふーん、心配してくれないんだと返されたけど機嫌は良さそうだ。
    「それで今日はどこ行ってきたの?」
    「今回はねえ……」
    小竜は旅好きと公言するだけあって遠征には喜んでいってくれるからついつい部隊にいれてしまう。それでも外への興味が尽きないのかたびたび任務以外でふらっと出かけては帰ってくることがあって、そのたびに話しかけて何を見てきたのか聞くようになった。一応、審神者だし、刀剣男士が外で何してたかとか知っておいた方がいいと思って。
    そうして小竜に話しかけるうちに向こうからも旅先での話や時々元の主の話なんかをしてくれて少しずつ小竜を知っていくようになった。
    「清廉潔白な人でないと駄目なんだよねえ」
    「……俺は?」
    「んー、可も無く不可も無くってかんじかな」
    話の流れでなんとなく聞いてみたらそんな評価だったことにちょっと、がっくりきた。成績優秀で表彰ものとまではいかないまでもそこそこみんなと頑張ってやってきたと思っていたから余計だ。本丸のみんなは優しいから言わないだけで実はここをなおして欲しいとかそういう要望があるのかもしれない。
    小竜とわかれた後、早速目安箱を設置してみることにした。
    「主最近頑張ってるじゃん。何かあった?」
    設置から一週間がたった。出陣や遠征報告の合間に目安箱の中身を確認していたら初期刀の加州がひょっこりと顔をみせた。麦茶をもってきてくれたようだ。
    「特に何かあったわけじゃないけど、いい主でいたいなって思って。みんなからの意見もあったしそれを直しただけだよ」
    目安箱の中はもっと戦に出たいとか物置の戸の立て付けが悪いといったものからいつも頑張っててえらいです!なんて幼い字で書かれた俺宛の手紙なんかも混じっててちょっとほっこりしてしまったりするけど。
    意見書を端に寄せてできたスペースに氷の入ったグラスを置きながらながらふーん、と素っ気なく聞こえる返事をする加州はどこか楽しげだ。というより面白がっている?
    「好きな人でもできたのかと思ったのになー」
    「へぇ?!」
    好きな人と言われて畑の中で、燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を思い出して、首の後ろがちり、と焼けたように熱くなった。
    「そ、そんなんじゃないから! 俺審神者だし!」
    「そんなの関係無いと思うけどー?」
    わあわあ騒ぐ俺に加州は頬杖を突いてにやにやするだけだ。
    「あの主がねー」
    「だから小竜はそんなんじゃないってば」
    「小竜だなんて一言も言ってないけど?」
    「うぐっ」
    見事に墓穴を掘った。というかなんで小竜の名前を出してしまったんだろう。
    「……まあ、まだ無自覚なんだろうけど」
    「なんか言った?」
    「べっつに―。もし泣かされたりしたら俺のとこおいでよね。そいつたたっ切ってやるから」
    「ないってば……」
    ニコニコしながら怖いことを言う加州にがっくりうなだれながらきんきんに冷えている麦茶をやっと飲んだ。
    加州に小竜を切らせるわけにはいかない、と考えながら飲んだ麦茶は身体を冷やしながらお腹の中へ落ちていった。

    「やあ主」
    ここ最近で聞き慣れた声に呼びかけられる。それだけなのに心臓が跳ねてしまった。
    おそるおそる振り返るとご機嫌な小竜が立っていた。片手に小さな包みを持っているからまたどこかに出かけていたのかな。もしかしたら旅先の話をしてくれるのかもしれない。
    その手に持っている物にまつわる冒険譚か人情話か、小竜の話は本丸にこもるような生活をしていると新鮮でわくわくする。けれど今は知らない場所の話を楽しむドキドキとは別のものが混じって集中できそうにない。加州が変なこと言うから。
    「こ、小竜……ごめん、今忙しくて」
    「……あっそう、なら仕方ないね」
    すっと笑顔が消えてしまうと顔がいいだけに喉から悲鳴が出てしまいそうな冷たさがある。ぶっきらぼうに言った小竜は背を向けて戻っていった。
    本当は忙しくなんてないし、小竜の話が聞きたかった。でも加州に言われてからずっとひとつの単語が頭に浮かんでてとてもじゃないけど小竜の近くにはいられない。
    「……好きだなんていったら審神者失格だよな」
    こんのすけや時の政府から恋愛禁止とは聞いたことがなかったけど、清廉潔白な人が良いと話してくれた小竜相手に言えるわけない。戦うためにただの一般人の呼びかけに答えてくれた刀剣男士にたいして好きになりました、だなんて勘違いも良いところだと笑われるのがオチだ。
    そもそも彼の歴代の元主達と比べられたら、と考え始めると話しかけることができなくなってしまった。
    そのあとも小竜は任務以外でふらっと出かけては帰ってきて、そのたびに話しかけてくれようとするのを忙しいからと断ってしまう。
    それがまずかったのかもしれない。
    「あーるーじ」
    ドンと思い音がして長い腕と壁の間に閉じ込められた。小竜の綺麗な顔がすぐ上にある。マントのせいでさらに影ができて暗いはずなのにアメジストのような紫色の瞳だけがぎらぎらと光を集めている。
    「な、なに小竜」
    あまりに近すぎる。顔を伏せて逃げようとすると一人分はあった距離が埋められて顔の横には肘がつく。
    さらりと金色の糸がふりかかって反射的に見上げると小竜の色だけになっていた。
    「なんで避けるの。俺なにかした?」
    「避けてなんか、ないよ」
    嘘をついた。アメジストが不機嫌に細くなる。
    「嘘つき。前まであんなに話しかけてきたのに今じゃぱったり。むしろキミ、俺がいたら回れ右して逃げてたよね?」
    「……小竜が悪いんじゃないよ。これは俺の問題だから」
    「それが何か聞いても?」
    「言えない」
    「どうして」
    「……小竜の望むような主じゃいられなくなるから」
    もうすでに手遅れだけど、本刃に知られる前に消してしまえば最初からないのも同じだ。何も言わないようにしていると小竜も黙ったまま俯いてしまった。もしかしたら気づかれてしまった、とか……?
    「それってさあ、俺のことが好きだから?」
    怒られるかもしれない、そう首をすくめようとしたら覗うように首をかしげる小竜にキュンとしてしまった。今じゃないだろうに。
    早くそんなことないよと否定しないといけないのに、まっすぐ見下ろしてくるアメジストが綺麗で二回も噓をつきたくないなと頷いてしまった。
    「よかったあ……!」
    「小竜?!」
    がばりと抱きしめられていた。ふわんといいにおいがする。あまりの突然さに呆けているうちに小竜が続けていく。
    「話しかけてくれるの嬉しかったんだよ。俺がここに来たのは随分後だったし、なかなか主と話す機会もなかったからさ」
    「でも、刀剣男士を好きだなんて言ったら清廉潔白じゃなくなるんじゃ……」
    「俺だけを見てくれるなら目を瞑ってあげてもいいけど?」
    片目をつぶってお手本のようなウインクをしてくれた小竜に不安な気持ちが吹っ飛びかけた。それでもまだ怖いからおそるおそる尋ねてみる。
    「ほんとに?」
    「ほんとほんと」
    「じゃあ、抱きついてもいい……?」
    「もちろん」
    腕を広げた小竜に飛び込んで細身に見えてしっかりとしてる胸に耳をつけるととくとくと心臓の音がする。初めて聞く小竜の音にぎゅうと抱きつく力がこもると心臓の音が早くなった。
    「小竜、心臓早くない?」
    「ちょっと今こっち見ないでくれるかな」
    顔を確認しようとすると大きな白い手に視線が遮られてしまった。だけど首まで赤く染まったところは見た。
    「もしかして照れてるの?」
    「見ないでってば」
    右に左に身体を揺らしながら問いかけると顔面を手のひらで押さえられてしまった。かわりにとぎゅーっと抱きつく。
    「こーら、がっつくな」
    「俺が好きなのは小竜だけだから! ちゃんと信じてもらえるように頑張るね!」
    「はいはい」
    急に元気になった俺に呆れたように肩を竦めながらも笑ってくれた小竜に胸の中がほわほわとあたたかいものでいっぱいになった。
    暑い夏も悪いだけじゃなかったみたいだ。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

    Norskskogkatta

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    リクエスト企画で書いたもの
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    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

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    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

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    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555