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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜

    #主刀
    mainBlade
    #主こりゅ
    leadingActor
    #さにこりゅ
    daughters

    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気がした。

    第四部隊の遠征報告を受け取ってまとめていると、ひとり分の足音が近づいてくる。
    「主ー帰ったよー」
    「あっ小竜お帰り!」
    「俺のこと、心配してたかな?」
    「またそんなこと言ってー、ちゃんと帰ってきてくれるからそんなに心配してないよーだ」
    ふーん、心配してくれないんだと返されたけど機嫌は良さそうだ。
    「それで今日はどこ行ってきたの?」
    「今回はねえ……」
    小竜は旅好きと公言するだけあって遠征には喜んでいってくれるからついつい部隊にいれてしまう。それでも外への興味が尽きないのかたびたび任務以外でふらっと出かけては帰ってくることがあって、そのたびに話しかけて何を見てきたのか聞くようになった。一応、審神者だし、刀剣男士が外で何してたかとか知っておいた方がいいと思って。
    そうして小竜に話しかけるうちに向こうからも旅先での話や時々元の主の話なんかをしてくれて少しずつ小竜を知っていくようになった。
    「清廉潔白な人でないと駄目なんだよねえ」
    「……俺は?」
    「んー、可も無く不可も無くってかんじかな」
    話の流れでなんとなく聞いてみたらそんな評価だったことにちょっと、がっくりきた。成績優秀で表彰ものとまではいかないまでもそこそこみんなと頑張ってやってきたと思っていたから余計だ。本丸のみんなは優しいから言わないだけで実はここをなおして欲しいとかそういう要望があるのかもしれない。
    小竜とわかれた後、早速目安箱を設置してみることにした。
    「主最近頑張ってるじゃん。何かあった?」
    設置から一週間がたった。出陣や遠征報告の合間に目安箱の中身を確認していたら初期刀の加州がひょっこりと顔をみせた。麦茶をもってきてくれたようだ。
    「特に何かあったわけじゃないけど、いい主でいたいなって思って。みんなからの意見もあったしそれを直しただけだよ」
    目安箱の中はもっと戦に出たいとか物置の戸の立て付けが悪いといったものからいつも頑張っててえらいです!なんて幼い字で書かれた俺宛の手紙なんかも混じっててちょっとほっこりしてしまったりするけど。
    意見書を端に寄せてできたスペースに氷の入ったグラスを置きながらながらふーん、と素っ気なく聞こえる返事をする加州はどこか楽しげだ。というより面白がっている?
    「好きな人でもできたのかと思ったのになー」
    「へぇ?!」
    好きな人と言われて畑の中で、燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を思い出して、首の後ろがちり、と焼けたように熱くなった。
    「そ、そんなんじゃないから! 俺審神者だし!」
    「そんなの関係無いと思うけどー?」
    わあわあ騒ぐ俺に加州は頬杖を突いてにやにやするだけだ。
    「あの主がねー」
    「だから小竜はそんなんじゃないってば」
    「小竜だなんて一言も言ってないけど?」
    「うぐっ」
    見事に墓穴を掘った。というかなんで小竜の名前を出してしまったんだろう。
    「……まあ、まだ無自覚なんだろうけど」
    「なんか言った?」
    「べっつに―。もし泣かされたりしたら俺のとこおいでよね。そいつたたっ切ってやるから」
    「ないってば……」
    ニコニコしながら怖いことを言う加州にがっくりうなだれながらきんきんに冷えている麦茶をやっと飲んだ。
    加州に小竜を切らせるわけにはいかない、と考えながら飲んだ麦茶は身体を冷やしながらお腹の中へ落ちていった。

    「やあ主」
    ここ最近で聞き慣れた声に呼びかけられる。それだけなのに心臓が跳ねてしまった。
    おそるおそる振り返るとご機嫌な小竜が立っていた。片手に小さな包みを持っているからまたどこかに出かけていたのかな。もしかしたら旅先の話をしてくれるのかもしれない。
    その手に持っている物にまつわる冒険譚か人情話か、小竜の話は本丸にこもるような生活をしていると新鮮でわくわくする。けれど今は知らない場所の話を楽しむドキドキとは別のものが混じって集中できそうにない。加州が変なこと言うから。
    「こ、小竜……ごめん、今忙しくて」
    「……あっそう、なら仕方ないね」
    すっと笑顔が消えてしまうと顔がいいだけに喉から悲鳴が出てしまいそうな冷たさがある。ぶっきらぼうに言った小竜は背を向けて戻っていった。
    本当は忙しくなんてないし、小竜の話が聞きたかった。でも加州に言われてからずっとひとつの単語が頭に浮かんでてとてもじゃないけど小竜の近くにはいられない。
    「……好きだなんていったら審神者失格だよな」
    こんのすけや時の政府から恋愛禁止とは聞いたことがなかったけど、清廉潔白な人が良いと話してくれた小竜相手に言えるわけない。戦うためにただの一般人の呼びかけに答えてくれた刀剣男士にたいして好きになりました、だなんて勘違いも良いところだと笑われるのがオチだ。
    そもそも彼の歴代の元主達と比べられたら、と考え始めると話しかけることができなくなってしまった。
    そのあとも小竜は任務以外でふらっと出かけては帰ってきて、そのたびに話しかけてくれようとするのを忙しいからと断ってしまう。
    それがまずかったのかもしれない。
    「あーるーじ」
    ドンと思い音がして長い腕と壁の間に閉じ込められた。小竜の綺麗な顔がすぐ上にある。マントのせいでさらに影ができて暗いはずなのにアメジストのような紫色の瞳だけがぎらぎらと光を集めている。
    「な、なに小竜」
    あまりに近すぎる。顔を伏せて逃げようとすると一人分はあった距離が埋められて顔の横には肘がつく。
    さらりと金色の糸がふりかかって反射的に見上げると小竜の色だけになっていた。
    「なんで避けるの。俺なにかした?」
    「避けてなんか、ないよ」
    嘘をついた。アメジストが不機嫌に細くなる。
    「嘘つき。前まであんなに話しかけてきたのに今じゃぱったり。むしろキミ、俺がいたら回れ右して逃げてたよね?」
    「……小竜が悪いんじゃないよ。これは俺の問題だから」
    「それが何か聞いても?」
    「言えない」
    「どうして」
    「……小竜の望むような主じゃいられなくなるから」
    もうすでに手遅れだけど、本刃に知られる前に消してしまえば最初からないのも同じだ。何も言わないようにしていると小竜も黙ったまま俯いてしまった。もしかしたら気づかれてしまった、とか……?
    「それってさあ、俺のことが好きだから?」
    怒られるかもしれない、そう首をすくめようとしたら覗うように首をかしげる小竜にキュンとしてしまった。今じゃないだろうに。
    早くそんなことないよと否定しないといけないのに、まっすぐ見下ろしてくるアメジストが綺麗で二回も噓をつきたくないなと頷いてしまった。
    「よかったあ……!」
    「小竜?!」
    がばりと抱きしめられていた。ふわんといいにおいがする。あまりの突然さに呆けているうちに小竜が続けていく。
    「話しかけてくれるの嬉しかったんだよ。俺がここに来たのは随分後だったし、なかなか主と話す機会もなかったからさ」
    「でも、刀剣男士を好きだなんて言ったら清廉潔白じゃなくなるんじゃ……」
    「俺だけを見てくれるなら目を瞑ってあげてもいいけど?」
    片目をつぶってお手本のようなウインクをしてくれた小竜に不安な気持ちが吹っ飛びかけた。それでもまだ怖いからおそるおそる尋ねてみる。
    「ほんとに?」
    「ほんとほんと」
    「じゃあ、抱きついてもいい……?」
    「もちろん」
    腕を広げた小竜に飛び込んで細身に見えてしっかりとしてる胸に耳をつけるととくとくと心臓の音がする。初めて聞く小竜の音にぎゅうと抱きつく力がこもると心臓の音が早くなった。
    「小竜、心臓早くない?」
    「ちょっと今こっち見ないでくれるかな」
    顔を確認しようとすると大きな白い手に視線が遮られてしまった。だけど首まで赤く染まったところは見た。
    「もしかして照れてるの?」
    「見ないでってば」
    右に左に身体を揺らしながら問いかけると顔面を手のひらで押さえられてしまった。かわりにとぎゅーっと抱きつく。
    「こーら、がっつくな」
    「俺が好きなのは小竜だけだから! ちゃんと信じてもらえるように頑張るね!」
    「はいはい」
    急に元気になった俺に呆れたように肩を竦めながらも笑ってくれた小竜に胸の中がほわほわとあたたかいものでいっぱいになった。
    暑い夏も悪いだけじゃなかったみたいだ。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

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    Lupinus

    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
    つきあってる設定の主さみ クリスマスに現世出張が入った話 なんということもない全年齢
    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも

    審神者の疲労具合を察知して膝枕してくれるちょもさん
    飄々としてい人を食ったような言動をする。この本丸の審神者は言ってしまえば善人とは言えない性格だった。
    「小鳥、少しいいか」
    「なに」
     端末から目を離さず返事をする審神者に仕方が無いと肩をすくめ、山鳥毛は強硬手段に出ることにした。
    「うお!?」
     抱き寄せ、畳の上に投げ出した太股の上に審神者の頭をのせる。ポカリと口を開けて間抜け面をさらす様に珍しさを感じ、少しの優越感に浸る。
    「顔色が悪い。少し休んだ方がいいと思うぞ」
    「……今まで誰にも気づかれなかったんだが」
     そうだろうなと知らずうちにため息が出た。
     山鳥毛がこの本丸にやってくるまで近侍は持ち回りでこなし、新入りが来れば教育期間として一定期間近侍を務める。だからこそほとんどのものが端末の取り扱いなどに不自由はしていないのだが、そのかわりに審神者の体調の変化に気づけるものは少ない。
    「長く見ていれば小鳥の疲労具合なども見抜けるようにはなるさ」 
     サングラスを外しささやくと、観念したように長く息を吐き出した審神者がぐりぐりと後頭部を太股に押しつける。こそばゆい思いをしながらも動かずに観察すると、審神者の眉間に皺が寄っている。
    「や 1357

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    寒くなってきたのにわざわざ主の部屋まできて布団に潜り込んできた大倶利伽羅
    秋から冬へ、熱を求めて


    ひとりで布団にくるまっていると誰かが部屋へと入ってくる。こんな時間に来るのなんて決まってる。寝たふりをしているとすぐ近くまで来た気配が止まってしまう。ここまできたんなら入ってくれば良いのに、仕方なく布団を持ちあげると潜り込んできて冷えた足をすり寄せてくる。いつも熱いくらいの足を挟んでて温めてやると、ゆっくりと身体の力が抜けていくのがわかる。じわりと同じ温度になっていく足をすり合わせながら抱きしめた。
    「……おやすみ、大倶利伽羅」
    返事は腰に回った腕だった。

    ふ、と意識が浮上する。まだ暗い。しかしからりとした喉が水を欲していた。乾燥してきたからかなと起き上がると大倶利伽羅がうっすらと目蓋を持ち上げる。戦場に身を置くからか隣で動き出すとどうしても起こしてしまう。
    「まだ暗いから寝とけ」
    「……ん、だが」
    頭を撫でれば寝ぼけ半分だったのがあっさりと夢に落ちていった。寝付きの良さにちょっと笑ってから隣の部屋へと移動して簡易的な流しの蛇口を捻る。水を適当なコップに溜めて飲むとするりと落ちていくのがわかった。
    「つめた」
    乾きはなくなったが水の冷たさに目がさえてしまっ 1160

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    赤疲労になった大倶利伽羅が限界をむかえて主に甘えてキスをねだる話
    お疲れ様のキス

    隊長を任せた大倶利伽羅に後ろから抱きつかれた。報告を聞いて端末に向き直ったら部屋を出て行くもんだと思っていた大倶利伽羅が背後にまわってそのまま座り込み腕が腹に回され今までにない行動にどうすればいいかとっさに判断が出来なかった。
    というかこれ甘えに来てるのか?もしそうならこっちが動いたらさっと離れていくやつか…?
    そう考えが巡って動けずにいると長いため息が聞こえてきた。
    滅多にない疲労をみせる様子に端末を操作すれば、ばっちり赤いマークが付いてた。
    古参になる大倶利伽羅には新入りの打刀たちに戦い方、とくに投石や脇差との連携を指導してもらっている。もとが太刀で刀種変更があってから戦い方を変えざるを得なかった大倶利伽羅だからこそ、言葉は少ないがつまづいた時に欲しい言葉をくれるから上達が早いらしい。
    だからつい大倶利伽羅に新人教育を頼んでしまうことが多かった。それがとうとう限界が来たのかもしれない。管理ができてない自分が情けないが反省は後でするとして、今は珍しく自分から甘えにきた恋びとを労うのが先だろう。
    「大倶利伽羅、ちょっと離してくれ」
    「…………」
    腹に回った腕をぽんぽん 1542

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555