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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜

    #主刀
    mainBlade
    #主こりゅ
    leadingActor
    #さにこりゅ
    daughters

    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気がした。

    第四部隊の遠征報告を受け取ってまとめていると、ひとり分の足音が近づいてくる。
    「主ー帰ったよー」
    「あっ小竜お帰り!」
    「俺のこと、心配してたかな?」
    「またそんなこと言ってー、ちゃんと帰ってきてくれるからそんなに心配してないよーだ」
    ふーん、心配してくれないんだと返されたけど機嫌は良さそうだ。
    「それで今日はどこ行ってきたの?」
    「今回はねえ……」
    小竜は旅好きと公言するだけあって遠征には喜んでいってくれるからついつい部隊にいれてしまう。それでも外への興味が尽きないのかたびたび任務以外でふらっと出かけては帰ってくることがあって、そのたびに話しかけて何を見てきたのか聞くようになった。一応、審神者だし、刀剣男士が外で何してたかとか知っておいた方がいいと思って。
    そうして小竜に話しかけるうちに向こうからも旅先での話や時々元の主の話なんかをしてくれて少しずつ小竜を知っていくようになった。
    「清廉潔白な人でないと駄目なんだよねえ」
    「……俺は?」
    「んー、可も無く不可も無くってかんじかな」
    話の流れでなんとなく聞いてみたらそんな評価だったことにちょっと、がっくりきた。成績優秀で表彰ものとまではいかないまでもそこそこみんなと頑張ってやってきたと思っていたから余計だ。本丸のみんなは優しいから言わないだけで実はここをなおして欲しいとかそういう要望があるのかもしれない。
    小竜とわかれた後、早速目安箱を設置してみることにした。
    「主最近頑張ってるじゃん。何かあった?」
    設置から一週間がたった。出陣や遠征報告の合間に目安箱の中身を確認していたら初期刀の加州がひょっこりと顔をみせた。麦茶をもってきてくれたようだ。
    「特に何かあったわけじゃないけど、いい主でいたいなって思って。みんなからの意見もあったしそれを直しただけだよ」
    目安箱の中はもっと戦に出たいとか物置の戸の立て付けが悪いといったものからいつも頑張っててえらいです!なんて幼い字で書かれた俺宛の手紙なんかも混じっててちょっとほっこりしてしまったりするけど。
    意見書を端に寄せてできたスペースに氷の入ったグラスを置きながらながらふーん、と素っ気なく聞こえる返事をする加州はどこか楽しげだ。というより面白がっている?
    「好きな人でもできたのかと思ったのになー」
    「へぇ?!」
    好きな人と言われて畑の中で、燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を思い出して、首の後ろがちり、と焼けたように熱くなった。
    「そ、そんなんじゃないから! 俺審神者だし!」
    「そんなの関係無いと思うけどー?」
    わあわあ騒ぐ俺に加州は頬杖を突いてにやにやするだけだ。
    「あの主がねー」
    「だから小竜はそんなんじゃないってば」
    「小竜だなんて一言も言ってないけど?」
    「うぐっ」
    見事に墓穴を掘った。というかなんで小竜の名前を出してしまったんだろう。
    「……まあ、まだ無自覚なんだろうけど」
    「なんか言った?」
    「べっつに―。もし泣かされたりしたら俺のとこおいでよね。そいつたたっ切ってやるから」
    「ないってば……」
    ニコニコしながら怖いことを言う加州にがっくりうなだれながらきんきんに冷えている麦茶をやっと飲んだ。
    加州に小竜を切らせるわけにはいかない、と考えながら飲んだ麦茶は身体を冷やしながらお腹の中へ落ちていった。

    「やあ主」
    ここ最近で聞き慣れた声に呼びかけられる。それだけなのに心臓が跳ねてしまった。
    おそるおそる振り返るとご機嫌な小竜が立っていた。片手に小さな包みを持っているからまたどこかに出かけていたのかな。もしかしたら旅先の話をしてくれるのかもしれない。
    その手に持っている物にまつわる冒険譚か人情話か、小竜の話は本丸にこもるような生活をしていると新鮮でわくわくする。けれど今は知らない場所の話を楽しむドキドキとは別のものが混じって集中できそうにない。加州が変なこと言うから。
    「こ、小竜……ごめん、今忙しくて」
    「……あっそう、なら仕方ないね」
    すっと笑顔が消えてしまうと顔がいいだけに喉から悲鳴が出てしまいそうな冷たさがある。ぶっきらぼうに言った小竜は背を向けて戻っていった。
    本当は忙しくなんてないし、小竜の話が聞きたかった。でも加州に言われてからずっとひとつの単語が頭に浮かんでてとてもじゃないけど小竜の近くにはいられない。
    「……好きだなんていったら審神者失格だよな」
    こんのすけや時の政府から恋愛禁止とは聞いたことがなかったけど、清廉潔白な人が良いと話してくれた小竜相手に言えるわけない。戦うためにただの一般人の呼びかけに答えてくれた刀剣男士にたいして好きになりました、だなんて勘違いも良いところだと笑われるのがオチだ。
    そもそも彼の歴代の元主達と比べられたら、と考え始めると話しかけることができなくなってしまった。
    そのあとも小竜は任務以外でふらっと出かけては帰ってきて、そのたびに話しかけてくれようとするのを忙しいからと断ってしまう。
    それがまずかったのかもしれない。
    「あーるーじ」
    ドンと思い音がして長い腕と壁の間に閉じ込められた。小竜の綺麗な顔がすぐ上にある。マントのせいでさらに影ができて暗いはずなのにアメジストのような紫色の瞳だけがぎらぎらと光を集めている。
    「な、なに小竜」
    あまりに近すぎる。顔を伏せて逃げようとすると一人分はあった距離が埋められて顔の横には肘がつく。
    さらりと金色の糸がふりかかって反射的に見上げると小竜の色だけになっていた。
    「なんで避けるの。俺なにかした?」
    「避けてなんか、ないよ」
    嘘をついた。アメジストが不機嫌に細くなる。
    「嘘つき。前まであんなに話しかけてきたのに今じゃぱったり。むしろキミ、俺がいたら回れ右して逃げてたよね?」
    「……小竜が悪いんじゃないよ。これは俺の問題だから」
    「それが何か聞いても?」
    「言えない」
    「どうして」
    「……小竜の望むような主じゃいられなくなるから」
    もうすでに手遅れだけど、本刃に知られる前に消してしまえば最初からないのも同じだ。何も言わないようにしていると小竜も黙ったまま俯いてしまった。もしかしたら気づかれてしまった、とか……?
    「それってさあ、俺のことが好きだから?」
    怒られるかもしれない、そう首をすくめようとしたら覗うように首をかしげる小竜にキュンとしてしまった。今じゃないだろうに。
    早くそんなことないよと否定しないといけないのに、まっすぐ見下ろしてくるアメジストが綺麗で二回も噓をつきたくないなと頷いてしまった。
    「よかったあ……!」
    「小竜?!」
    がばりと抱きしめられていた。ふわんといいにおいがする。あまりの突然さに呆けているうちに小竜が続けていく。
    「話しかけてくれるの嬉しかったんだよ。俺がここに来たのは随分後だったし、なかなか主と話す機会もなかったからさ」
    「でも、刀剣男士を好きだなんて言ったら清廉潔白じゃなくなるんじゃ……」
    「俺だけを見てくれるなら目を瞑ってあげてもいいけど?」
    片目をつぶってお手本のようなウインクをしてくれた小竜に不安な気持ちが吹っ飛びかけた。それでもまだ怖いからおそるおそる尋ねてみる。
    「ほんとに?」
    「ほんとほんと」
    「じゃあ、抱きついてもいい……?」
    「もちろん」
    腕を広げた小竜に飛び込んで細身に見えてしっかりとしてる胸に耳をつけるととくとくと心臓の音がする。初めて聞く小竜の音にぎゅうと抱きつく力がこもると心臓の音が早くなった。
    「小竜、心臓早くない?」
    「ちょっと今こっち見ないでくれるかな」
    顔を確認しようとすると大きな白い手に視線が遮られてしまった。だけど首まで赤く染まったところは見た。
    「もしかして照れてるの?」
    「見ないでってば」
    右に左に身体を揺らしながら問いかけると顔面を手のひらで押さえられてしまった。かわりにとぎゅーっと抱きつく。
    「こーら、がっつくな」
    「俺が好きなのは小竜だけだから! ちゃんと信じてもらえるように頑張るね!」
    「はいはい」
    急に元気になった俺に呆れたように肩を竦めながらも笑ってくれた小竜に胸の中がほわほわとあたたかいものでいっぱいになった。
    暑い夏も悪いだけじゃなかったみたいだ。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
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    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

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    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主肥/さにひぜ(男審神者×肥前)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    おじさん審神者がうさぎのぬいぐるみに向かって好きっていってるのを目撃した肥前
    とうとう買ってしまった。刀剣男士をイメージして作られているといううさぎのぬいぐるみの、恋仲と同じ濃茶色に鮮やかな赤色が入った毛並みのものが手の中にある。
    「ううん、この年で買うにはいささか可愛すぎるが……」
    どうして手にしたかというと、恋仲になってからきちんと好意を伝えることが気恥ずかしくておろそかになっていやしないか不安になったのだ。親子ほども年が離れて見える彼に好きだというのがどうしてもためらわれてしまって、それではいけないとその練習のために買った。
    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
    「なんだよ。人斬りの刀には飽きたんだろ。その畜生とよろしくやってれば良い」
    「うっ……いや、でもこれはちがうんだよ」
    「何が違うってん 1061

    Norskskogkatta

    PAST主村/さにむら(男審神者×千子村正)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    なんだかよくわからないけどうさぎのぬいぐるみが気に入らない無自覚むらまさ
    「顔こわいんだけど」
    「……huhuhu、さて、なんででしょうね?」
    近侍の村正がいつも通り隣に控えてるけどいつもより笑顔が怖い。
    手の中には村正と同じ髪色のうさぎのぬいぐるみがある。休憩中の今は最近販売されたそれを手慰みにいじっていたのだった。
    「尻尾ならワタシにもありマスよ」
    ふわふわの丸い尻尾をつついていると村正が身体を捻って自分の尻尾をちょいちょいと触る。普段からそうだけど思わせぶりな言動にため息が出る。
    「そういう無防備なことしないの」
    「可笑しなことを言いますね、妖刀のワタシに向かって」
    刀剣男士には縁遠い言葉に首を傾げつつも村正はいつもの妖しげな笑いのままだ。わかってないなぁとやり場のない思いをうさぎに構うことで消化していると隣が静かだ。
    ちらっと横目で見てみると赤い瞳がじっとうさぎのぬいぐるみを見つめている。その色が戦場にある時みたいに鋭い気がするのは気のせいだろうか。
    「なに、気になるの」
    「気になると言うよりは……胸のあたりがもやもやして落ち着きません」
    少しだけ意外だった。自分の感情だったり周りの評価だったりを客観的にみているから自分の感情がよくわかっていない村正 828

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

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    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも

    審神者の疲労具合を察知して膝枕してくれるちょもさん
    飄々としてい人を食ったような言動をする。この本丸の審神者は言ってしまえば善人とは言えない性格だった。
    「小鳥、少しいいか」
    「なに」
     端末から目を離さず返事をする審神者に仕方が無いと肩をすくめ、山鳥毛は強硬手段に出ることにした。
    「うお!?」
     抱き寄せ、畳の上に投げ出した太股の上に審神者の頭をのせる。ポカリと口を開けて間抜け面をさらす様に珍しさを感じ、少しの優越感に浸る。
    「顔色が悪い。少し休んだ方がいいと思うぞ」
    「……今まで誰にも気づかれなかったんだが」
     そうだろうなと知らずうちにため息が出た。
     山鳥毛がこの本丸にやってくるまで近侍は持ち回りでこなし、新入りが来れば教育期間として一定期間近侍を務める。だからこそほとんどのものが端末の取り扱いなどに不自由はしていないのだが、そのかわりに審神者の体調の変化に気づけるものは少ない。
    「長く見ていれば小鳥の疲労具合なども見抜けるようにはなるさ」 
     サングラスを外しささやくと、観念したように長く息を吐き出した審神者がぐりぐりと後頭部を太股に押しつける。こそばゆい思いをしながらも動かずに観察すると、審神者の眉間に皺が寄っている。
    「や 1357

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530