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    Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜

    #主刀
    mainBlade
    #主こりゅ
    leadingActor
    #さにこりゅ
    daughters

    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気がした。

    第四部隊の遠征報告を受け取ってまとめていると、ひとり分の足音が近づいてくる。
    「主ー帰ったよー」
    「あっ小竜お帰り!」
    「俺のこと、心配してたかな?」
    「またそんなこと言ってー、ちゃんと帰ってきてくれるからそんなに心配してないよーだ」
    ふーん、心配してくれないんだと返されたけど機嫌は良さそうだ。
    「それで今日はどこ行ってきたの?」
    「今回はねえ……」
    小竜は旅好きと公言するだけあって遠征には喜んでいってくれるからついつい部隊にいれてしまう。それでも外への興味が尽きないのかたびたび任務以外でふらっと出かけては帰ってくることがあって、そのたびに話しかけて何を見てきたのか聞くようになった。一応、審神者だし、刀剣男士が外で何してたかとか知っておいた方がいいと思って。
    そうして小竜に話しかけるうちに向こうからも旅先での話や時々元の主の話なんかをしてくれて少しずつ小竜を知っていくようになった。
    「清廉潔白な人でないと駄目なんだよねえ」
    「……俺は?」
    「んー、可も無く不可も無くってかんじかな」
    話の流れでなんとなく聞いてみたらそんな評価だったことにちょっと、がっくりきた。成績優秀で表彰ものとまではいかないまでもそこそこみんなと頑張ってやってきたと思っていたから余計だ。本丸のみんなは優しいから言わないだけで実はここをなおして欲しいとかそういう要望があるのかもしれない。
    小竜とわかれた後、早速目安箱を設置してみることにした。
    「主最近頑張ってるじゃん。何かあった?」
    設置から一週間がたった。出陣や遠征報告の合間に目安箱の中身を確認していたら初期刀の加州がひょっこりと顔をみせた。麦茶をもってきてくれたようだ。
    「特に何かあったわけじゃないけど、いい主でいたいなって思って。みんなからの意見もあったしそれを直しただけだよ」
    目安箱の中はもっと戦に出たいとか物置の戸の立て付けが悪いといったものからいつも頑張っててえらいです!なんて幼い字で書かれた俺宛の手紙なんかも混じっててちょっとほっこりしてしまったりするけど。
    意見書を端に寄せてできたスペースに氷の入ったグラスを置きながらながらふーん、と素っ気なく聞こえる返事をする加州はどこか楽しげだ。というより面白がっている?
    「好きな人でもできたのかと思ったのになー」
    「へぇ?!」
    好きな人と言われて畑の中で、燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を思い出して、首の後ろがちり、と焼けたように熱くなった。
    「そ、そんなんじゃないから! 俺審神者だし!」
    「そんなの関係無いと思うけどー?」
    わあわあ騒ぐ俺に加州は頬杖を突いてにやにやするだけだ。
    「あの主がねー」
    「だから小竜はそんなんじゃないってば」
    「小竜だなんて一言も言ってないけど?」
    「うぐっ」
    見事に墓穴を掘った。というかなんで小竜の名前を出してしまったんだろう。
    「……まあ、まだ無自覚なんだろうけど」
    「なんか言った?」
    「べっつに―。もし泣かされたりしたら俺のとこおいでよね。そいつたたっ切ってやるから」
    「ないってば……」
    ニコニコしながら怖いことを言う加州にがっくりうなだれながらきんきんに冷えている麦茶をやっと飲んだ。
    加州に小竜を切らせるわけにはいかない、と考えながら飲んだ麦茶は身体を冷やしながらお腹の中へ落ちていった。

    「やあ主」
    ここ最近で聞き慣れた声に呼びかけられる。それだけなのに心臓が跳ねてしまった。
    おそるおそる振り返るとご機嫌な小竜が立っていた。片手に小さな包みを持っているからまたどこかに出かけていたのかな。もしかしたら旅先の話をしてくれるのかもしれない。
    その手に持っている物にまつわる冒険譚か人情話か、小竜の話は本丸にこもるような生活をしていると新鮮でわくわくする。けれど今は知らない場所の話を楽しむドキドキとは別のものが混じって集中できそうにない。加州が変なこと言うから。
    「こ、小竜……ごめん、今忙しくて」
    「……あっそう、なら仕方ないね」
    すっと笑顔が消えてしまうと顔がいいだけに喉から悲鳴が出てしまいそうな冷たさがある。ぶっきらぼうに言った小竜は背を向けて戻っていった。
    本当は忙しくなんてないし、小竜の話が聞きたかった。でも加州に言われてからずっとひとつの単語が頭に浮かんでてとてもじゃないけど小竜の近くにはいられない。
    「……好きだなんていったら審神者失格だよな」
    こんのすけや時の政府から恋愛禁止とは聞いたことがなかったけど、清廉潔白な人が良いと話してくれた小竜相手に言えるわけない。戦うためにただの一般人の呼びかけに答えてくれた刀剣男士にたいして好きになりました、だなんて勘違いも良いところだと笑われるのがオチだ。
    そもそも彼の歴代の元主達と比べられたら、と考え始めると話しかけることができなくなってしまった。
    そのあとも小竜は任務以外でふらっと出かけては帰ってきて、そのたびに話しかけてくれようとするのを忙しいからと断ってしまう。
    それがまずかったのかもしれない。
    「あーるーじ」
    ドンと思い音がして長い腕と壁の間に閉じ込められた。小竜の綺麗な顔がすぐ上にある。マントのせいでさらに影ができて暗いはずなのにアメジストのような紫色の瞳だけがぎらぎらと光を集めている。
    「な、なに小竜」
    あまりに近すぎる。顔を伏せて逃げようとすると一人分はあった距離が埋められて顔の横には肘がつく。
    さらりと金色の糸がふりかかって反射的に見上げると小竜の色だけになっていた。
    「なんで避けるの。俺なにかした?」
    「避けてなんか、ないよ」
    嘘をついた。アメジストが不機嫌に細くなる。
    「嘘つき。前まであんなに話しかけてきたのに今じゃぱったり。むしろキミ、俺がいたら回れ右して逃げてたよね?」
    「……小竜が悪いんじゃないよ。これは俺の問題だから」
    「それが何か聞いても?」
    「言えない」
    「どうして」
    「……小竜の望むような主じゃいられなくなるから」
    もうすでに手遅れだけど、本刃に知られる前に消してしまえば最初からないのも同じだ。何も言わないようにしていると小竜も黙ったまま俯いてしまった。もしかしたら気づかれてしまった、とか……?
    「それってさあ、俺のことが好きだから?」
    怒られるかもしれない、そう首をすくめようとしたら覗うように首をかしげる小竜にキュンとしてしまった。今じゃないだろうに。
    早くそんなことないよと否定しないといけないのに、まっすぐ見下ろしてくるアメジストが綺麗で二回も噓をつきたくないなと頷いてしまった。
    「よかったあ……!」
    「小竜?!」
    がばりと抱きしめられていた。ふわんといいにおいがする。あまりの突然さに呆けているうちに小竜が続けていく。
    「話しかけてくれるの嬉しかったんだよ。俺がここに来たのは随分後だったし、なかなか主と話す機会もなかったからさ」
    「でも、刀剣男士を好きだなんて言ったら清廉潔白じゃなくなるんじゃ……」
    「俺だけを見てくれるなら目を瞑ってあげてもいいけど?」
    片目をつぶってお手本のようなウインクをしてくれた小竜に不安な気持ちが吹っ飛びかけた。それでもまだ怖いからおそるおそる尋ねてみる。
    「ほんとに?」
    「ほんとほんと」
    「じゃあ、抱きついてもいい……?」
    「もちろん」
    腕を広げた小竜に飛び込んで細身に見えてしっかりとしてる胸に耳をつけるととくとくと心臓の音がする。初めて聞く小竜の音にぎゅうと抱きつく力がこもると心臓の音が早くなった。
    「小竜、心臓早くない?」
    「ちょっと今こっち見ないでくれるかな」
    顔を確認しようとすると大きな白い手に視線が遮られてしまった。だけど首まで赤く染まったところは見た。
    「もしかして照れてるの?」
    「見ないでってば」
    右に左に身体を揺らしながら問いかけると顔面を手のひらで押さえられてしまった。かわりにとぎゅーっと抱きつく。
    「こーら、がっつくな」
    「俺が好きなのは小竜だけだから! ちゃんと信じてもらえるように頑張るね!」
    「はいはい」
    急に元気になった俺に呆れたように肩を竦めながらも笑ってくれた小竜に胸の中がほわほわとあたたかいものでいっぱいになった。
    暑い夏も悪いだけじゃなかったみたいだ。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

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    Lupinus

    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
    つきあってる設定の主さみ クリスマスに現世出張が入った話 なんということもない全年齢
    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主麿(男審神者×清麿)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    今まで審神者の分は買ってなかったのに唐突に自分の時だけ買ってきて見せつけてくる主におこな清麿
    「ほらこれ、清麿のうさぎな」
    「買ったんだね」
    主に渡されたのは最近売り出されているという僕ら刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。面白がって新しい物が出るたびに本刃に買い与えているこの主はそろそろ博多藤四郎あたりからお小言を食らうと思う。
    今回は僕の番みたいで手渡された薄紫色の、光の当たり具合で白色に見える毛皮のうさぎに一度だけ視線を落としてから主の机の上にあるもうひとつの僕を模したうさぎを見やった。
    「そちらは? 水心子にかな」
    「ほんと水心子のこと好きな」
    机に頬杖を突きながらやれやれと言った感じで言う主に首をかしげる。時折本丸内で仲のよい男士同士に互いの物を送っていたからてっきりそうだと思ったのに。
    「でも残念、これは俺の」
    では何故、という疑問はこの一言ですぐに解消された。けれどもそれは僕の動きを一瞬で止めさせるものだった。
    いつも心がけている笑顔から頬を動かすことができない。ぴしりと固まった僕の反応にほほうと妙に感心する主にほんの少しだけ苛立ちが生まれた。
    「お前でもそんな顔すんのね」
    いいもん見たわーと言いながらうさぎを持ち上げ抱く主に今度こそ表情が抜け落ちるのが 506

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    伊達組にほのぼのと見守られながらのおやつタイム
    伊達組とおやつ


     ずんだにおはぎに色とりどりのフルーツがのったタルト、そして一等涼しげな夏蜜柑の寒天がちゃぶ台を賑わせる。
     今日は伊達の四振りにおよばれしてのおやつタイムとなった。
     燭台切特製のずんだに意外とグルメな鶴丸の選んできた人気店のおはぎ、太鼓鐘の飾りのようにきらきらと光を反射するフルーツののったタルトはどれも疲れた身体に染みるほどおいしいものだった。
     もっと言えば刀剣男士達とこうしてゆっくり話ができるのが何よりの休息に思う。
     本丸内での面白エピソードや新しく育て始めた野菜のこと、馬で遠乗りに出かけたこと、新入りが誰それと仲良くなったことなど部屋にこもることが多い分、彼らが話してくれる話題はどれも新鮮で興味が尽きない。
     うん、うんと相槌を打ちながら、時折質問をして会話を楽しんでいると、燭台切がそういえばと脈絡無くきりだした。
    「主くんって伽羅ちゃんに甘いよね」
     それぞれもってきてくれたものに舌鼓をうって、寒天に手を着ける前にお茶を口に含んだ瞬間、唐突に投げられた豪速球にあやうく吹きかけた。さっきまで次の出陣先ではなんて少し真面目な話になりかけていただけに衝撃がす 2548

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764