乾燥注意今日は桜庭の家にお邪魔して夕飯を食べた後、二人でコーヒーを飲みながらソファで寛いでいた。
「天道」
呼ばれて隣の桜庭を見ると、少し眉間に皺が寄っていた。どうやら甘い雰囲気では無さそうでつい身構える。
「な、なんだよ……」
「君の唇が乾燥している。」
「なんだそんなことか……」
大したことじゃなくてホッとした。そう言われてみれば唇がカサついてる気がする。あからさまに安堵した俺を見て桜庭の眉間の皺がぎゅっと寄る。
「乾燥していたら唇が荒れて皮膚がめくれたり裂けたりしやすい。保湿をきちんとしろ」
「わかったわかった」
たしかリップクリームは鞄に入ってた気がするけど、座りこごちのいいソファから立ち上がる気力が起きない。
「なあ今持ってたりする?」
「持ってはいるが貸したくはないな」
桜庭はどこからかリップクリームを取り出して、見せつけるように自分の薄い唇に塗る。
「ケチ。ついでに俺にも塗ってくれよ」
桜庭に寄りかかって、唇を突き出す。あからさまに嫌そうな視線を目をつぶって躱わせば、諦めの溜息が聞こえた。
「はぁ……今回だけだからな」
桜庭の手が頬に添えられたので、メイクさんに口紅を塗ってもらう時のように唇の力を抜いて目を閉じる。
「へへ、ありがとな〜」
なんだかんだ言いながらも優しい桜庭につい頬が緩んでしまう。目を閉じて待っていると、ふに、と両唇にリップではない何かが当たり思わず両目を見開いた。
「ん!?」
驚いた声は桜庭の口内に飲み込まれてしまった。呆気に取られている間に仕上げとばかりに唇を喰まれ、すぐに解放された。
「フン、これでいいだろう」
桜庭は満足げな顔でリップをつけた唇をフニフニと指で弄ぶ。
「おう……」
頭の処理が追いついていない俺は時間差で込み上げてきた熱で顔が真っ赤になり、更に桜庭の機嫌を上げてしまうのだった。