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    妄想マリアージュ

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    POIPOI 28

    雨に降られたふたり。
    雨宿り→密着→ドキドキは鉄板ですね。

    #山河令
    mountainAndRiverOrder
    #温周
    temperatureMeasurement

    通り雨四季山荘の裏手、林の小径。

    ほのかに花の香りが残る空気の中、阿絮と老温は並んで歩いていた。

    「阿絮、たまにはこうして歩くのも悪くないだろう?」
    「……まあな」

    そんな何気ない時間も、二人にとってはささやかな宝物だ。

    と、突然ポツリと水音がしたかと思うと、たちまち雨粒が降り始めた。

    「あっという間だな」
    「ほら、こっちだ」

    老温がすぐそばの大木の下に阿絮を連れて行き、その枝葉の下で雨宿りすることに。
    阿絮は少し距離を取ろうとしたが、老温が軽く腕を伸ばして引き寄せる。

    「阿絮、ほらもっとこちらへ。濡れるだろう」

    ぐっと抱き込まれる形になり、阿絮は少し目を逸らしながらも抵抗はしなかった。
    目の前にあるのは、濡れた老温の胸板。雨に濡れ、薄く張り付いた衣越しでも、その逞しさがはっきりと伝わる。

    「寒くないか?」

    そう言って老温は、先程まで浮かべていた笑顔は消え、真剣な顔をして阿絮の顔を覗き込む。

    「……通り雨だな。ほら、向こうの空は明るい」

    そう言って、空を見上げる老温の首筋。
    濡れた髪が額に張り付き、喉元から顎へと続く描線が、雨粒に濡れて艶めいていた。

    阿絮は胸がきゅっと鳴るような感覚に襲われる。
    肩に回された腕の力強さも、触れる体温の優しさも、耳元に響く低い声も、すべてが心地良い。

    気づけば、老温の喉元をじっと見上げてしまっていた。

    「阿絮?」
    「ああ、平気だ」

    老温の問いかけに、それしか返せない。
    どんな顔してるかなんて、絶対見せられない。

    すると老温がふっと微笑み、

    「睫毛に雫が」

    と、そっと顔を寄せ、唇で阿絮の睫毛の雫を取った。
    阿絮がびくりと肩を震わせる。

    「やっぱり寒いのか?」
    「……違う」

    そのとき、ぱたぱたと足音が近づき、成嶺が傘を持って駆けてくる。

    「師匠、師叔、こちらでしたか」

    息を弾ませながら、傘を差し出す。

    「ああ、ありがとう成嶺」

    受け取る阿絮の声は、どこか名残惜しそうだった。
    老温は安堵したように笑い、「お前の師匠はか弱いから、すぐ熱を出すんだ。手間のかかる男だな」

    「……うるさい」

    ぼそりと呟く阿絮。
    それでも顔はほんのり赤いまま。

    「湯殿の準備をしていますから」

    成嶺の言葉に、三人で傘をさして歩き出す。
    雨の匂いと、濡れた林の緑の匂い。
    肩が触れそうで触れない距離を保ちながら、心はすぐ隣にいる。

    阿絮の胸は、まだどきどきと鳴っていた。
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