Pants and Prejudice 旅先のホテル、朝。
ノーマンはスーツケースを開けたまま、じっと中を見つめていた。
「……ない」
呟きは静かだったが、どこか底冷えのするような声だった。背後でシャツのボタンを留めていたエードリアンが振り向く。
「何が?」
「下着が一枚消えてる」
ノーマンが振り返る。視線が妙に鋭い。
「昨日まではあったはずだ。……エードリイ?」
「僕かい!?」
エードリアンは思わず身構えた。
「まさか、君、僕を疑ってるのか?」
ノーマンは返事をせず、ただそのままじとーっとした眼差しで彼を見ている。
「僕は潔白だ! 何なら、今ここでスーツケースを開けようか?」
エードリアンは胸を張った――ものの、やや自信なさげに目が泳いでいる。
「いいよ。開けてみて」
ノーマンは手近にあった椅子に腰掛け、脚を組んだ。口元はやや意地悪にほころんでいる。
「本気か?」
「うん。疑ってるからね」
「バカなことを……」
そう言いつつ、エードリアンはしぶしぶスーツケースを開け、慎重に中身を漁る。シャツ、カフス、靴下――次々に取り出していき、最後にポーチに手を伸ばしたところで、彼の手が止まった。ノーマンが訊ねる。
「どうした?」
「……いや。君の、あるぞ」
「うん?」
「あった。僕のワイシャツの袖の中に入り込んでた」
エードリアンは不本意そうに、ぐしゃっと丸まった下着を取り出してみせる。ノーマンが笑った。
「それ、昨日ランドリーに一緒に出したやつじゃないか?」
エードリアンは手にした下着をしばし見つめ、深々とため息を吐いた。
「ホテルのランドリーは、ずいぶんと独創的な畳み方をするものだな。袖に下着を忍ばせる流儀があるとは」
ノーマンは勝ち誇ったように目を細める。
「ね? 君が持ってた」
「認めたくない」
エードリアンは下着をぽいっとベッドの上に放り投げた。ノーマンはわざとらしく肩をすくめて言った。
「でもまあ、君が履いた形跡はないから、潔白ってことでいいよ」
「何を言ってるんだ、まったく」
エードリアンはぐったりとベッドに座り込んだ。
「だって君、僕の下着をスーツケースに入れて持ち帰ろうとした上に、“潔白”を名乗ろうとしたんだぞ」
「わざとじゃない!」
エードリアンの叫びに、ノーマンはくすくすと笑い続けていた。