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    こもり

    腐った成人済みのオタク。
    炭善は体にいい。

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    こもり

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    炭善(先天性にょたづま)
    大正軸

    #炭善
    TanZen
    #女体化
    feminization

    女は男で変わるというので 『女は男で変わるというので』

     藤襲山にて、選別を無事終えたあと玉鋼を選び手にちょろちょろなにかされて全身の丈を測られて解散してよいことになった。ようやくだ。
     くたびれた。七日間もほとんど気を抜けない日々。
     飲食も最低限で、とにかくすぐに休みたい。
     へろへろと一段一段、階段——山を降りる。
     よろめくと、誰かが支えてくれた。
     藤の花の匂いが濃くて、人がいるのかいないのかすら曖昧だ。出てきたのは朝方だったのに、もう昼近い。
     声が聞こえる。眠い。寝たい。けれど一刻も早く帰って、鱗滝さんや錆兎たちに報告したかった。
     また声が聞こえる。なにか、棒のようなものを手渡された。
     うっすら、眠気でぼんやりする中、その棒を頼りに歩き始める。
    「ねぇ」
    「?」
     少ししてから、声がまた聞こえた。ぼんやりしながら見上げる。太陽の光。
     唇の端にふわりとあたたかなもの。
    「お礼はこれでいいよ。お前、めちゃくちゃなやつだけど、優しい音がするから今度生きて会えたら結婚して」
    「?」
    「じゃあね!」
     けっこん? けっこん? けっこんって、なんだ? けっこん……。
    「結婚?」
     あの結婚のことか?
     目を見開いて、唇の端に当てられたものをまさか唇なのではと勘繰ったがそこに答えなどもうなく。
    「夢でも見たのかな」
     それにしては変な夢だな、とうつらうつらしながら帰って、目覚めた妹に目を覚まして大泣きし、最後の体力を使い果たして泥のように寝た。

     その数日後のことである。
    「炭治郎」
    「はい」
     鱗滝が手紙を片手に震えた声で炭治郎を呼んだ。
     珍しく炭治郎にも動揺しているのがわかる声。
     なんなら全身が小刻みに震えている。
     これはただ事ではない。
    「ど、どうしたんですかっ」
    「お、お前、お前、桑島のところの子に、て、手を出したのか? 結婚すると、そう約束したのか? いや、その、まだ疲れているのだと思うが、こういう話はまずちゃんと儂にだな」
    「え? え けけけ結婚 おぉぉ俺がですか だ、誰とですか」
    「く、桑島のところの子だ。我妻善逸という」
    「だ、誰」
    「誰」
     炭治郎の叫びに、鱗滝まで王蟲返しで叫ぶ。
     いや、本当に誰だ、記憶にない。
     聞けば手紙はくだんの桑島さんという、鱗滝と同じ育手のひとから届いたもの。
     内容は「うちの弟子が帰ってきて早々、お前のところの弟子と結婚したいと言い出した。どういうことだ? まさか手を出したのか? あの状況で? いや、そんなことはいい。直接来て説明しろ!」とのことだ。
    「ええええええっ!」
    「壊れていたが、厄除の面を腰に下げていたからお前で間違いないそうだ。心当たりは? 本当にないのか?」
    「え、いや、その、な、な、な、ない、と、お、思います、けど」
     思い浮かぶのは片方に髪を結ってたらした女の子だ。
     蝶々を指先に乗せて微笑んでいた。着物も綺麗なままで、雨も降ったのにどこでなにをしていたのだろうと思う。
     いや、そんなことよりもあの可愛い女の子が、炭治郎と「結婚したい」と言ったのか?
     だとしたらどうしよう。
     とても可愛い女の子だった。あんな可愛らしい女の子に「結婚したい」と言われたら、ちょっと断る自信はない。
     自分のどこが彼女の目に留まったのかはわからないが、確かに炭治郎もそういう相手を見つけるにはいい年頃である。
    「……桑島は、怖いぞ」
    「えっ」
    「鬼よりも身内に恐れられた男だからな……」
    「え……」
    「とにかく、ひとまず挨拶に行く必要がある。禰󠄀豆子に留守番をさせるわけにはいかんから、お前が持ってきた籠に入れて連れて行くしかないか……」
    「…………ぇ」
     鱗滝が「怖い」と断言する、我妻善逸さんとやらの育手。
     しかし、我妻善逸だなんてずいぶん堅い名前の女の子だったのだな、と少女の立ち姿を思い出す。
     やはり思い出しても相当可愛い。
     名前などいいか、あんな可愛い子が婚姻を望んでいるというのだから。
     正直禰󠄀豆子を人間に戻すことばかりで、家を継続する云々など頭からすっぽ抜けていた。
     その辺りのことも鱗滝に相談すると、「確かにそうかもしれないが、色恋にうつつを抜かすと死ぬぞ」と釘を刺される。
     選別の時の鬼たちを思えば、その通りだ。気など抜くべきではない。初任務で死ぬ。
     しかし、お相手の気持ちを無碍にもできない。
     とにかく挨拶に行くことにして、鱗滝と徒歩という名の全力疾走で桑島という人物が家を構える山へと向かった。
     日が落ちて、昇る頃に到着し、炭治郎はドキドキと胸を高鳴らす。
     けれど、玄関前を掃除していたのは黄色い着物の男だ。
     目が点になる。弟——兄だろうか? それにしては似ていない。
    「あ!」
    「すまない、桑島は在宅だろうか」
     こちらに気づいた少年に、鱗滝が話しかける。
     少年は炭治郎を気にした様子だったが、鱗滝の声がけに応じて家に入っていった。
     とても質素な家だ。鱗滝の家より少し広いくらいだろうか。
    「お入りください」
    「すまんな」
     頭を下げた少年は、派手な金の髪。炭治郎を見ると、ぽっと頰を染めた。
     可愛らしい。
    (可愛らしい? なんで俺はそんなことを……)
     男相手に可愛らしいだなんて、と一人首を傾げながら家にお邪魔する。囲炉裏を挟んで座っていた背の低い老人が、腕を組んで待ち構えていた。
     なるほど、鱗滝の言う通り——怖い。
     入った瞬間ビリビリと空気が張り詰める。
     怒りの匂いが満ちていて、正直対峙する前に土下座で謝りたくなる。特に悪いことはしてないのだが。
    「さて、久しいな鱗滝」
    「ああ。突然の呼び出しで漬物ぐらいしか持ってこれなかったが……これはうちで漬けたものだ。あと、梅酒と濁酒だ」
    「おお、すまんな」
     手土産を渡すと、少しだけ空気が和らぐ。しかしそれも一瞬だ。手土産を竈場の近くに金髪の子が持っていくと、すぐに阿修羅のような顔に戻る。
    「それで? 我妻善逸というのはもしやあの子か?」
    「そうだ」
    「えっ」
     驚いて顔を上げた。
     やはりあの子が我妻善逸。いやしかし、男の子ではないか。それに、選別の時に、いた?
    (記憶にない!)
     驚くべきことに全然ない。
    「男のようなナリはしているが、れっきとした女の子じゃ」
    「えっ!」
    「なにか事情があるのか?」
    「生まれてすぐに花街に置き去りにされて、店をいくつも転々としておったそうじゃ。ろくな大人に会えなかったらしく、奉公先もよく追い出されて年頃になると手を出されたりと傷物ではあるようじゃが……」
    「!」
     傷物、ということは処女ではない、という意味だ。
     性病も患って、奉公先はおろか花街のどの店からも断られていたが、医者の娘が治療薬を持ってきて助けてくれたらしい。
     その娘から頼まれて借金をしたのだが、その金は医者の娘が駆け落ちする資金に使われた。
     持ち出した薬も当然高価なもので、借金と共に薬代も上乗せして請求され、今度こそどうなるかわからない、という時に桑島が彼女を助けて弟子にしたのだという。
     ちょっとかなり凄絶な人生である。
    「医者にも見せたが病は完治しておるよ」
    「ふむ」
    「まあ、それで髪はバッサリやられてな」
    「ひどいことをするな」
    「雷にも撃たれて金色になった」
    「うん?」
    「雷に愛されておるんじゃよ」
    「う、うん?」
     時々鱗滝も首を傾げながら、その子の話は続く。
     名前もなかったその子に桑島は「我妻善逸」と名を与えた。
     女の子らしい名前にしなかったのは、女であることを理由にひどい人生を歩んできたこの子が、これからは少しでもよりよい人生を歩めるようにとの願い。
     強そうな男のような名前ならば、迂闊に絡まれたりはしないだろう、との考えから。
     もし、女として生きたいのならば「善子」と名乗ればいいと教えているそうだ。
    「では、うちの炭治郎の話も少しいいか?」
    「うむ」
     と、今度は鱗滝から炭治郎の話が始まった。
     鬼になった妹を人間に戻すために鬼殺隊に入ったこと。
     家族は惨殺され、仇の鬼を追っていること。
     素直でいい子だが、頑固で真面目すぎるところがある、など。
    「自分のことには些か無頓着で間抜けなところもあり、考えすぎるあまり判断が遅いところもある。修行は真面目にやっていたが才能があるとは言えない。しかし、家事全般は非常に優秀でな。特に料理は儂でも舌を巻いた。筆舌に尽くし難い味を引き出す。こと、料理に関しては天才と言わざるを得まい」
    「う、うむ」
    「う、鱗滝さんっ」
     下げてからの上げがすごい。
    「悪い子ではなさそうじゃな」
    「悪い子ではないな。家族思いで努力家ないい子だ」
    「鱗滝さん……」
     頭を撫でれて、思わず照れてしまう。
     厳しかった師に褒められたら、嬉しいに決まってる。
    「…………」
     そして、炭治郎はずっと暗い表情で俯く我妻善逸を見た。
     不安げで苦しそうな匂い。それとは別に強く優しい匂いがする。
     澄んだ甘い桃の香りに似た、優しい匂い。
    「で、炭治郎。肝心な話をそろそろするが」
    「え、あ、は、はい」
    「儂は良い子だと思うぞ。……とても澄んだ、優しい子の匂いがする。なにより鬼殺の剣士としてはお前よりも強い」
    「うっ!」
     きっぱり言われてしまった。
     聞けば、我妻さんは炭治郎の半分——一年近い修行で選別に行っている。その上で無傷で帰ってきた。
     正直炭治郎には彼女の記憶がない。
     あの場にいたのかすら、思い出せない。
     けれど、いたのは間違いないし、生き残るのが「妥当」なほどの実力があるのだろう。
     そうでなければ鱗滝がきっぱり「お前より強い」と断じたりしない。
     とはいえ、やはりよくわからないのだ。
    「あ、あの、どうして、俺を?」
     なんで炭治郎なのだろう。
     あの場にはもう一人男がいた。まあ、乱暴な奴ではあったけれど。
     まさか、あの時小さな女の子を助けたから、そこを格好いい、と惚れられた?
     いやいや、炭治郎としては、小さな子に手を挙げた男を成敗するのは当然のこと。
    「……えっと、音が……音が好き。泣きたくなるような、優しい音……こんなに優しい音、聞いたことない」
     そう言って、声を震わせ、涙を流す。
     金色の、揺れる髪。
    (太陽……)
     飴色の瞳が涙で輝く。美しいと思った。
     今までなんの感情もなかったのに、その涙と、彼女から漂う好意の匂い。
     目を見開く。
    「俺も好きだ」
     気づけば口に出ていた。前屈みになって、ほぼ無意識に。
     ハッとした時には遅い。
     鱗滝も桑島も、彼女も目を丸くして炭治郎を見ていた。
    「あ、ええと」
     炭治郎の音に関しては、まったく意味がわからないのだが、ただ、炭治郎の音とやらを聞いて泣く彼女の涙はとても美しかった。
     この世にこれほど美しいものがあるのかと、身も心も震えたほどだ。
     だから、心の底から言う。
    「……あなたの心も、とても美しいから」
    「っ」
     容姿なら、確かにあの時髪を片方に結った桃色の着物の女の子の方が可愛かった。
     あの子は文句なしに可愛い。
     けれど、炭治郎の心はきっとこの瞬間に目の前の金の髪の子に奪われて動かなくなったと思う。あまりにも美しく、儚げで優しい。
     炭治郎が感じる世界の美しさの中で、きっとこの子より美しいものには二度と出会えない気がした。
     この子の中の世界の美しさの中で、炭治郎の『音』がそれなのだろう。
     だとしたら、運命的だと思った。
    「面倒くさいぞ、こやつは。本当にいいのか?」
    「はい。あ、いや、我妻さんが、いいのなら」
    「いいよ! あ、いや、いいもなにも、俺が炭治郎を……あ、ごめん竈門さんを」
    「炭治郎でいい。ええと、俺も善逸と呼んでもいいだろうか」
    「う——うん!」

     女は男で変わるというので
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