銀高ss本日の依頼は大工仕事。三人で屋根に登ってひたすらトントンしている。時々自分の手を打ってでかい声が出た。その度に二人のどちらかからウルセーと飛んでくる。心配しろっての。
春とはいえ日差しを浴び続ければそれなりに暑い。着込みすぎたかな、と額の汗を拭った。帽子でも持ってくりゃあよかったな。
そういえばポケットに輪ゴム入ってたな。思い出して、もっさりした前髪を括る。スッキリとした視界に少しだけ涼しさを感じた。
視界の端で、いつも日傘に守られている橙色の頭が元気に動いているのを確認して、再びしゃがみ込んだ。
「銀さーん!」
黙々と真面目に作業していた所で、地上から呼ぶ声が聞こえた。眩しい日差しを手で遮りながら下を見下ろすと、依頼主の妻とその隣に高杉が立っていた。
なんでいるんだ。疑問に思いつつ梯子を降りる。
「忘れもん。」
高杉から四角く包まれた風呂敷を手渡される。
わざわざ届けに来てくれたらしい。
「あ、弁当。」
朝から作った弁当。これがなければ午後の作業はままならない。天気予報見てて家出るのギリギリだったから荷物なんて確認しなかったな。
「わり、あんがと。」
「……。」
素直に礼を言ったのに、高杉は俺の顔を凝視するだけで何も言わない。え、なんか付いてる?朝食った味のりとか歯についてた?
「な、なんですか……。」
「いや、今日は随分よく見えると思ってなァ。」
ちょん。結んだ前髪に触れられる。
「たまにはいいな。」
ふ、とやわらかく笑って、高杉は背を向けて歩いて行った。暫くその姿をぼうっと見送っていると、メシー!と叫ぶ声が聞こえて我に返る。
俺の顔、そんなに好きなんだ。じゃあ、帰ったらたくさん見せてあげようかな。嫌って言われるくらい顔を近づけて、ほっぺもすりすりしてやろう。
そうなればさっさと終わらせてしまおうと心に決めて弁当の包みを開いた。