風呂上がりに濡れた髪から水を滴らせたまま、缶ビールのタブを開ける。炭酸が抜ける軽い破裂音と同時に、スマホがメッセージの着信を告げた。急かすように点滅するLEDを見ながら端末を手に取る。片手で操作しながら水滴をまとった缶から一口呷った。喉を通り抜ける炭酸の刺激が、1日の終わりを高らかに宣言するようだ。
アプリを開いてメッセージを表示する。送信者は見ずとも分かる。
[お疲れ様!今日も暑かったね、体調は大丈夫?]
何やら可愛らしいスタンプと共に送られてくる、労いのメッセージ。俺にこんなものを寄越す奴は一人しかいない。
[今度の休みには会えそう?]
上目遣いの柴犬のスタンプと共に表示されるメッセージ。あざとい。可愛い。年若い恋人からの言葉に、だらしなく相好を崩すおっさん、それが未来の自分の姿とはあの夜には想像もしなかった。全く、現実とは予測不能なものだ。
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