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    たまぷる

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    迷信を信じ子供を授かろうとするレトのディミレト。前の話にちょっと続いています。

    #ディミレト
    dimSum

    ディミレト 大修道院の庭園には庭師たちが丹精した花木が季節を彩るが、竪琴の節は特に美しい。雪解けを待って芽吹いた花々が一斉に咲き誇る。
     一昨日の雨が丘陵の一部をぬかるませていたが、今朝はすっかり青空が広がり、葦毛の馬はしっかりとした歩みで勾配を登っていった。ガルグ=マクを囲む矢柄のような峰はまだ雪冠に白く輝いている。
     正午の鐘が鳴る半刻前にベレトと共に大修道院を出発したディミトリは、他愛ない会話に笑いながら壮大な長めを楽しんでいた。
     後方には護衛が離れて付いてきている。二人きりになることは叶わなかったが、連れ立って馬を駆ることに心は弾んでいた。
     大修道院を背に、暫く馬を走らせたあと木立に入ってから速度を落とす。士官学校時代にも二人で来たことがある。この先に小さな湖が見えてくるはずだった。
     昼食も用意してもらった、と言うベレトの横顔は楽しそうだ。彼はいつもの司祭服ではなく黒の平服姿で、その格好はディミトリには馴染み深く昔に戻ったように錯覚した。
     二人して馬から降りて背の低い木の枝に手綱を軽く結わえると、ベレトは馬の後ろに括り付けておいた籐の籠を傾けないよう慎重に下ろした。
    「もう少し奥に行ってみよう」
     並んで歩くと、空から降り注ぐ陽が木の葉を透かして地面に斑を描いていた。
     木々が開け、かつて学生時代に二人で逍遥した静かな湖畔が見えてくる。辺りは清涼な空気に満ちていた。ベレトは草の生い茂ったところに持ってきた敷布を敷くと、早速籠から黒パンとチーズ、スモモ酒の入った瓶を取り出した。
    「さあ一息つこう」
     揃って腰掛ける。開けた場所では異変があればすぐに分かるだろう、と念の為に帯剣していたディミトリは剣を脇に置いた。
     黒パンにはチーズとトマト、レタスと茶色いソースの絡められた炙った肉が挟んであった。香ばしい香りが食欲をそそる。鈍い空腹感がわき上がってくるのは久しぶりの感覚だった。
     名を呼ばれ、淡黄色のチーズと手巾で包んだナイフを無言で差し出される。
    「切り分けてくれないか」
    「あぁ。任せてくれ」
     手巾で手を拭ってからチーズを薄く切る。大き目な方をベレトに渡してやってから、盃にスモモ酒を注ぐ。
     軽く盃を合わせると、硝子の合わさる小気味良い音がした。こうしているだけで自然と口元が綻ぶ。
     赤みがかった琥珀色の液体の入った盃を傾けると、果実の馥郁とした香りが鼻に抜ける。すり潰されてとろりとした果肉と液体が纏わりつくように喉を通り、思いの外強い酒精が身体に染みていく。
     横でベレトが口を引き結んでスモモの独特の酸味を味わっていた。彼の食欲は変わらず旺盛で、盃には少し口をつけた程度で掌に余る黒パンに早速齧り付いていた。
     黙々と咀嚼する姿に微笑ましさを覚えながら自分もパンを頬張る。ぎっしりと詰まった生地の食感をよく噛んで味わった。痩せた寒冷地でも比較的生育しやすいライ麦のパンは、ファーガスでも馴染みがある。昔の記憶が舌の上にわずかな酸味を思い出させた。
     こうして食事を楽しめるのはベレトの美味そうに食べる姿が見れるからだ。いつもは王城の晩餐室で口に押し込んでいるだけの料理も、彼と共にいると香りと触感だけでも楽しむことが出来た。いつも目の前に彼がいてくれさえしたら、食事は義務的に摂るものではなくなるだろう。
    「見ろ、ディミトリ」
     あらかた口の中に押し込んだベレトが、まだ口を咀嚼しながら森の中を指差した。
     用心深く目を凝らしてみれば、鳥が忙しなく舞っているのが見える。
    「なんだ? 気にかかることでもあるのか」
     声を落とす。後方に待機しているはずの護衛に動きはない。向こうではベレトの言う異変を察知していないらしかった。
     答えぬまま、ベレトは口の中の物を完全に飲み込んで立ち上がった。
    「行こう」
    「待て、ドゥドゥーたちを待つべきだ。お前は丸腰なんだぞ」
    「鳥の巣がある」
     剣に伸ばそうとした手を止める。
    「向こうの木の枝に見えるだろう、ほら」
     彼が指差した方角から鳥が飛び立つ。明るい羽の色を見て、多分コマドリだ、とベレトが淡々と付け加えた。
     先程までの警戒心が一気に解ける。ディミトリは躊躇いながらもついて行くことにした。
     昔並んで釣り糸を垂らしたことのある湖の畔を通り過ぎ、目当ての木の下までやって来る。人の手の形のような葉っぱの形を見るとナラだろう。見上げても枝葉に遮られてよく見えなかったが、確かにチチチ、と雛鳥のか弱い鳴き声が降ってきた。
    「よく見つけたな。こんな小さな…」
    「実は、どこかにないだろうかと探していたんだ。良かった」
     ベレトが至極真面目な調子で、自分は懐妊しているかもしれない、と呟いた。
    「何を言い出すんだ」
    「鳥の巣が見つけられるのは良い兆候だと聞く。子が出来たのかも」
     何気ないその一言に、かける言葉を見失った。
    「コウノトリなら良かったんだが。あまり注文はつけられないな」
    「この間から…まだそんなことを言っているのか」
     どうしても穏やかではいられなかった。
     一昨日からずっとこの調子だ。
     セイロス教団の頂点に座しているはずの彼は、巷で愛でられ続けた俗信に縋っていた。魔導の苦手なディミトリには信仰は合理的根拠を欠いたもののように思えるところがあるが、俗信は更にあやふやだ。それなのに、彼は今や聖典より古来の民間知識に重きを置いている。
     部屋に入る時は一々足元に塩を撒き、寝台を下りる時も聖堂に入る時も右足からと徹底していた。ベレトが言うには、順序が大事らしい。
     私室に置いてあった手鏡は赤子に悪影響を及ぼすからと厳重に布に包まれて仕舞われた。それまで身につけていた短剣も然り。
     更に、猫に近付くと赤ん坊が不運に見舞われるらしい、と可愛がっていた猫たちのいる中庭には近付かなくなった。
     最初はそうまでして子供のことを考えてくれるのか、と微笑ましく思っていたのだが、今は不安に駆られ始めていた。
     世継ぎのことで精神的に不安定になっているのでは、男である彼を伴侶をしたことが追い詰める結果になったのではないか。
     そう思い、大司教補佐にそれとなく尋ねてみたのだが、子供はいいものだぞ、きみたちの幸せを願っている、と的外れな返答をされただけだった。
     それに、周りはベレトの行動を当たり前のように受容していた。誰も妙なことに神経を尖らせるベレトを止めることはない。
     ツィリルでさえ、面倒くさいなあ、と言いながらもベレトが入室のたびに小袋から塩を取り出し、彼のために細々と気を配った。
     まるでディミトリだけが、男では子ができない、というくたびれた考えにしがみついているような気になってくる。
    「ここからではよく見えないな。登ってみるか」
     いい思いつきだとでも言いたげに一人頷いたベレトに、ディミトリは慌てて頭を横に振った。
    「馬鹿を言うな。危ないだろう。怪我をしたらどうする」
    「大丈夫、これでも子供の時は木登りが得意だったんだ。見張りの時なんかは高いところだと周囲を見渡すのに丁度いいからな。ジェラルト仕込みだ」
    「待ってくれ」
    「験を担ぐためにもちゃんと見ておきたい」
     そう言ってさっさと木に腕を回すと取っ掛かりを探り始めた。彼が身軽なのは認めるが、ただ見ていることは出来ない。もし落ちて頭を打ったり、骨を折るようなことがあれば一大事だ。
    「肚に…肚に障りがあったらどうする。やめてくれ」
     ディミトリがそう嗜めると、ベレトはぴたりと動きを止めた。
    「万が一子を宿しているとしたら、高いところに上るような危険な真似はさせられない。産まれてくる子は俺の子でもある。聞き入れてくれないか」
     言い募ると、ベレトは思索的な表情を浮かべて黙り込んだ。
    「…それもそうだな。ディミトリの言う通りだ。やめておこう」
     名残惜しそうに木の幹から離れたベレトの手をすかさず取る。指を絡めるようにして握ると、左手の薬指に嵌っている指輪をそっと撫でた。
    「あまり無茶はしないでくれ」
    「あぁ、自分の考えが足りなかった。これからはこんな真似はしないよ」
     どうにか気を逸らせたことに安堵したが、否定的な態度では彼を止められないのだと気が付いた。
     世継ぎの重責を果たそうと懸命になっているベレトが心配であり、同時に何とも言えぬいじらしさに胸が締め付けられた。
     自らを偏執的な規則で縛りつける彼を、夫として見守ってやりたい。
     元はと言えばディミトリに家族を増やしてやりたい、という一心から来ているのだからいっそう慕わしさを覚えた。夫婦は支え合うべきと彼が言った通りに、せめて精神的な支柱になってやりたかった。
     柔らかな風が枝葉を揺らした。親鳥は雛のために餌を探しに出かけたのか、雛鳥が鳴いている。親鳥を求める甘えた鳴き声が胸に余韻を残した。
     まるでベレトは空の巣を温めているようだ。
     あと五日でベレトを置いて戻らねばならないのは気掛かりだったが、城を長く不在には出来ない。フェルディアに帰還したら、ギュスタヴたちに働きかけて養子の話を進めさせよう。
     だが、それは己も親になるということだ。
     父親となる資格が己にあるのだろうか。
     国の安定を優先して世継ぎの問題は後回しにしていたのは、そんな一抹の不安があったからだ。月日が経っても、獣のような所業が洗い流されるわけではない。
    「遠くから見れただけで十分だ。戻ろう」
     手を引かれて振り向くと、朝露に濡れた若葉のような瞳が微笑んでいた。
    「それとも、もっと先に行ってみるか。前にもここで釣りをしたり昼寝をしたな」
    「覚えていたのか。もう俺もお前もあんなふうに気ままには振る舞えないが」
     週末に彼を誘ってこの湖畔で過ごしたのを覚えている。どう誘えばいいものか散々悩んで、釣りを教えてくれ、と頼み込んだ。そうして、二人きりになりたいがためにここまで来たのだった。口実を疑いもせずベレトは付き合ってくれ、二人で釣り糸を垂らしたり、拵えてきた昼食を摂ったり、他愛ない話をした。あの時から彼を想う心は変わっていない。
    「釣り竿でも持ってくるべきだったな。あとは本も」
     楽しげな笑いに士官学校時代に漂っていた意識を引き戻される。
    「きみに教理書を読んであげたいと思っていてね。退屈だからきっとよく眠れる。今日は昼寝にちょうどいい日和だ」
    「冗談でも大司教のお前がそんなことを言わないでくれ。…なぁ、子供のことだが」
    「あぁ」
    「お前という安息を得れただけで俺には十分だ。それに、正直に言うとまだ早いと考えていた」
    「どうして?」
     ベレトは歩みを止めた。国を背負う人間にしてはおかしなことを言うと思っただろう。
    「…俺には人の親になる資格などない。復讐の徒だった俺が、無垢な魂を腕に抱けるとは思えない」
    「そんなふうに卑下するな。きみには過去と向き合おうとする強さと優しさがある。前を向くには何よりも大切なことだよ」
    「お前はそう言ってくれるが…血塗られた過去を清算できるわけではないのは分かっている」
    「過去のことを言うなら、傭兵だった自分も誇れたものじゃないな」
     それに戦場では並んで戦ったのだし、と朗らかに笑うベレトにディミトリは頭を振った。
    「お前は違う。お前は俺を、俺たちを導き…フォドラを正しく救ったじゃないか」
    「救ったと思ってくれるのか。きみは自分で立ち上がる力を持っていただけだよ」
    「それだけではない」
     彼の導きなくして今の自分は、この平穏な世界は存在しない。すべてはベレトが側で支えてくれたからこそだ。彼自身が常々そのことを何とも思っていないことが、ディミトリは少しばかりやるせなかった。
    「そう言ってくれるのはありがたいが、子供のことについては自分は少し先走りすぎていたようだ。きみの気持ちを蔑ろにしていたな」
     ディミトリの腕に宥めるように白い手がそっと置かれた。
    「きみが不安に思うのも分かるよ。自分にも不安な気持ちはある」
    「…命脈を繋ぐことは俺の役目でもある。いずれは考えなければいけないのに、俺は臆病にも避けていた。それがお前に負担をかける結果になってしまったのは、すまなかったと思っている」
     手に手を重ねると、ベレトは静かに微笑んだ。
    「謝る必要なんてない。それに、二人一緒なんだから、ディミトリ一人でそう悩むことはないよ」
    「二人一緒か…」
     言われて、初めて思い至ったように押し黙った。確かに、この先養子を貰ったとしてもディミトリだけが親になるわけではない。王族である自分だけの問題だと思っていた。
    「そうだったな。一人で考えるようなことではなかった…。お前のこだわりには驚いたが、これからきちんと考えてみるつもりだ」
    「きみと家族を作りたいと思う。迷信であれ何であれ、どんな方法でも試してみる価値はあるよ。それに、女神の加護もあるのだし」
     何でもないように笑うので、つられて微笑んでいた。
    「ベレト、お前がそこまで考えてくれているのなら、俺も前向きに考えたい。子どもといるお前を見てみたいとは思うんだ」
     養子に貰い受けるとしたら、王族の血筋にあたる者で一通りの教育を受けた青年と言ってもいい歳の子だろうか。それともまだあどけない幼子だろうか。孤児院でいっとき世話をするだけではなく、家族となるのだから王宮暮らしに慣れるまではよく気にかけてやらなければならないだろう。子供は案外に大人の機微に敏いことがある。己の中の暗部に気付かれはしないだろうか…。
     己が親としてその子に何をしてやれるのかは朧げなのに、ベレトが子に寄り添う姿は容易に想像できた。
     子供に自ら剣術の手ほどきをし、釣りを教え、子どもの飽くなき好奇心にとことん付き合ってやるだろう。子どもの手を引いて微笑む彼を思い描くと、それまで怯んでいたものが一瞬で溶けたように自然と口が緩んだ。
    「お前ならば、ここで釣りを教えるかもしれないな」
     再び来た道へを戻りながらそう零すと、彼は嬉しげに目を細めた。
    「釣りか。いいね。曲がりなりにも剣で食べていたのだから、剣術も教えてやりたいな。だけど、王族となるとほかに優先すべきことがあるだろうか」
    「はは、そうだな。子供の頃は教育係をつけられて大変だった」
     幼い頃は外国語や学問、乗馬、槍の扱い、騎士としての振る舞い、それ以外の王子としてその素養を叩き込まれた。
    「大変だな…。自分には想像もできない。小さいうちは修道院でゆっくり過ごさせたいが、叶わないだろうか」
    「何も赤子のうちから取り上げて教育係を付けると言っているのではない。ゆくゆくは教養として身に着けねばならないことが沢山あるというだけだ。お前が手元で育てたいと言うのなら、誰も文句はないさ」
    「そうか。いろいろと教えてやる分にはこちらでも出来るだろうから、幼いうちは面倒を見たいと思う。ジェラルトにしてもらったように、色々なものを見せてやりたいし教えてやりたいんだ」
     ベレトは父親にそうされたように、人に預けるより自分で養育したいらしかった。親子であちこち旅をするのはさすがに無理だろうか、と真面目な顔で言うのでつい笑ってしまった。
    「親子揃ってフェルディアに来てくれたらいいんだが」
    「それはセテスに相談しないとな」
     話していると不思議と楽しい気持ちになってきて、あれこれと想像が膨らんだ。いつの間にか楽観的な気分になっていた。ベレトの朗らかさは、いつも光が差し込んだように感じさせてくれる。
    「きみはきっと良い父親になれる」
     敷布の敷いてあった場所に戻ると、腰掛けながら彼がそう言った。
    「なぜそう思う」
     詰問ではなく、ただ純粋にそんなことを言うのが不思議だったのだが、ベレトはそれには答えずに微笑んだだけだった。
     いるか、と籠から取り出した鮮やかな色の林檎に首を横に振る。彼は少し残念そうにしてから真っ赤な林檎に齧りついた。しゃり、と小気味良い音がした。
     いつもきれいに食べるので、見ていて飽きない。
     こうしてベレトと二人でいることに満足していたが、ここにもう一人増えると考えてみるとそれは確かに楽しいことのように思えてくる。
     無心で咀嚼している横顔を眺めていると、視線に気づいた彼が振り向いた。
    「一口食べてみる?」
     断りかけて、やはりもらうことにした。手を差し出すとそれだけで彼は嬉しそうにする。
    「温室で育てたんだ」
     甘い香りだ。固い果肉を一口齧る。
     ベレトは昔からよく温室に出入りしていた。土いじりに精を出しては、色々なものを食べさせてくれたのを思い出す。今も暇を見つけて植物を育てているらしかった。こういうとき、己の舌が甘さも酸味も感じられないのが惜しい。
    「種は捨てないでくれ。帰ったら庭に埋めたい」
    「庭に?」
     温室ではないのかと不思議がっていると、窺うようにこちらを見つめてくる。沈黙で促せばそろりと言葉を漏らした。
    「庭に林檎の種を植えると、新しい命が育つと聞いたことがある。だめかな」
     分かったよと笑って、残った芯の部分ごとディミトリは丁寧に手巾で包んだ。
    「帰ったら二人で植えよう」
     そう言うと、ベレトが嬉しそうに頷いた。
     
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