ディミレト 荘厳な雰囲気に包まれた聖堂には夜の祈祷のために疎らな人影があった。優美な装飾の施された高い天井に司祭たちの祈りの言葉が滔々と流れていく。ベレトは組んでいた手を解くと、本当に自分の短い祈りは天へと届いたのだろうかとふと思った。今までそれほど信仰深くなかったベレトだが、一昨日姉たちを無事に帰らせてくれたことへの感謝の祈りを捧げたくなったのだ。意味はあったのか分からないが、清々しい気持ちにはなれた気がする。ベレトは座席から立ち上がると、聖堂に響き渡る鍵盤楽器の穏やかな音色を後にした。
夕食で賑わっていた食堂も落ち着いた頃合いだろうと思って食堂をのぞいたが、ディミトリの姿はなかった。もう部屋へ戻ってしまったかもしれない。普段ならばそのまま夜の訓練に出向くものもいただろうが、行軍から戻った青獅子学級にはセテスから体を休めるよう丸二日休みを言い渡されている。勤勉なディミトリもゆっくり休めた筈だ。
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