長義「…国広に、避けられてる気がする」長義「…国広に、避けられてる気がする」
兼さん「今度は何したんだよ」
長義「俺信用なさすぎじゃないかな。…いや、まあいい、まだ何もしてないよ」
加州「まだ」
長谷部「だが、お前が何もしていないと思っているだけで、あっちはそう思っていないこともあるんじゃないか」
長義「それね、経験則でめちゃくちゃありそうなんだよな」
歌仙「経験則、ねえ…確かに以前も色々と聞いたけれど」
宗三「というか、貴方達付き合ってたんじゃありませんでした?」
安定「こう、先を急ぎすぎて引かれちゃったとか?」
加州「逆に、焦らしすぎの可能性もあるんじゃない?」
長義「好き勝手言うね。ちゃんと付き合ってるよ…あーでも急ぎすぎ…そんなはずは…でもあいつかなり初心そうだし…うーん…」
南泉「って言っても嫌なもんは嫌って言うだろあいつ」
蜂須賀「どうだろう?確かに彼は主張はするけど、同じくらい我慢しちゃうタイプだろう?」
長谷部「ああ、嫌だって言ったら嫌われそうだから言わない、みたいなやつか」
南泉「報連相はしやすい空気作りが肝心、にゃ」
長義「うるさいよ猫殺しくん。あと俺が急ぎすぎみたいなその前提やめろ」
宗三「でも結構ありますよそういうの、怪我がバレたら弱いイコール使えないと思われて部隊から外されるんじゃないか、とか言ってたひともいましたし」
長谷部「貴様忘れろとあれほど」
蜂須賀「残念だけど本丸で知らないひといない話だよそれ」
兼さん「んで?長義はその辺心当たりあんのか?」
長義「いや、うーん…夜部屋に来ないかって聞きはした…かな」
加州「それでそれで?」
歌仙「こら、乗り出すのはやめないか、雅じゃない」
長義「来てないよ。そう、来ないんだよ、来なかったんだよあいつ!部屋にもいなかったし!」
長曽祢「それ…は逃げられたな」
蜂須賀「確実に逃げられたね」
安定「いくら何でもその意味がわかってないことはない…よね?」
亀甲「うーん、彼結構耳年増なところあるよ、箱入りっぽいけど読書家だからかな。この前も色々お話したら、一緒に染色について調べてくれて…オーソドックスな赤もいいけど、藍染もトレンドかなあって」
歌仙「染色?一体…ああ、そういう。全くどういう会話話したらそういう情報を得られるんだか…」
亀甲「ふふ、秘密」
蜂須賀「というか、その業界…業界?トレンドとかあるんだ…」
長義「そうそう、あのときは…」
――回想開始――
長義「なあ、次の非番が重なる前の晩、俺の部屋に来ない?」
まんば「え、」
長義「…まさか意味がわかってないってことはないよね?」
まんば「あ、ああ…その…と、当社に持ち帰って検討させてくれ…」
長義「はあ?!」
まんば「す、すまない、失礼する!」
――回想終了――
加州「それ実質NGじゃん、自社に持ち帰って後日丁重にお断りされるやつだよ」
長谷部「まず当社って何だ」
宗三「でも反応的には上々に見えますよ、単に気が動転しただけでは?」
長谷部「だから当…いや、考えたら負けな気がしてきた」
長義「うん、俺もテンパってるんだと思ったんだよね、だから意味はわかってると思う」
長谷部「…そもそも伝えたのか?その、どちらが…だ、抱くとか…そういう…」
長義「それはもう、その話をするよりもだいぶ前に、お前を抱きたいって言ったし、頷いて貰ったよ」
兼さん「お、おう…そうかよ…」
南泉「なあオレ仮にも馴染みのある知り合いのそういう生々しい話聞きたくなかったんだけど」
亀甲「でもそれなら、どういうつもりなのかは伝わってるんだよね?それがわからないから出方を伺ってるってことではないだろう?」
長曽祢「あ、あー…いや、うーん…」
蜂須賀「なんだ贋作、はっきりしろ」
長曽祢「いや…その…その事を山姥切が兄弟に話して、まだ待てと止められてる可能性がある、かもなあと思ってな…特にうちの方の…」
安定「ああ、ありそう…特に小さい方ね」
歌仙「小さい方って…堀川は君たちのグループだろう?何か聞いてないのかい?」
兼さん「グループって…いや、聞いてねえよ。まあいくら国広でもそういうことはし…………ねえとは言いきれないな…」
同田貫「なんだお前らまた相談事かァ?」
清麿「なになに?この本丸は定期的に皆で集まって話し合うような習慣があるのかい?」
水心子「ひとりで抱え込んでしまうのは士気にも影響が出るし…うん、いいことだと思うぞ」
加州「いやそんなに大層なもんではないんだけどね」
長曽祢「まず別に習慣ではないんだがな」
蜂須賀「戦いとかとも関係はなくて…えっと、彼の恋愛相談なんだ」
水心子「れ…っ?!山姥切相手がいたのか?!」
長義「…いたら悪い?」
水心子「わ、悪くは…んんっ、悪いというわけではないが…」
清麿「水心子気づいてなかったんだね…」
水心子「…もしかして、みんな知ってるやつ?(※耳打ち)」
清麿「大丈夫だよ、知らなくても恥ずかしいことじゃないから(※耳打ち)」
同田貫「そういやお前ら来る前だったな、こいつらが周り中巻き込んでデキたの」
長義「人聞き悪いこと言わないでくれるかな?」
宗三「事実でしょう。それで、今は彼の方が誘っているけど、恋人の方が避けてるらしいんですよ」
水心子「…なんというか、本当に人間のようなことをしているんだな」
長谷部「そういう感覚すっかり忘れてたな…」
歌仙「僕は忘れてないよ、そういう感覚もね」
宗三「まあ、このひとはずっとこういう感じですし」
蜂須賀「難儀なものだね」
加州「いやそれお前が言うなよ蜂須賀」
蜂須賀「…俺が?」
清麿「それで、山姥切は何をしてしまったんだい?」
長義「お前もか。別に何もして…ない、はずなんだよ」
清麿「君にしては歯切れ悪いね…確信がないのかい?」
南泉「つーか、いつから避けられてるんだよ?抱きたいって言った時か、部屋に来ないかって言った日か、それより前か後かとかで話変わるだろ、にゃ」
水心子「抱き…随分と赤裸々な…」
歌仙「この反応、だいぶ前に忘れてしまっていたな…」
長谷部「…俺は忘れてないが」
宗三「まああなたも結構初心ですよね」
長義「いつ…いつだったかなあ…」
安定「えっ思い出せないくらい前なの?…あ、お煎餅なくなった」
加州「ちょ、安定食べ過ぎ…!今から他の奴らも帰ってくるんだから」
安定「あはは、目の前にあるとつい…じゃあ補充行ってくるよ」
亀甲「行ってらっしゃーい」
安定「行ってきまー…っうわっぷ、ご、ごめん!」
豊前「っと、前見てねーと危ねーぞ。って、まーた集まって相談事してんのか?」
安定「そうそう、いつものだよ。じゃ、今度こそ僕はお煎餅取ってくるね」
豊前「あ、厨なら多分今は松井と桑名がいるはず…って行っちまったか」
伽羅「…飽きずに毎度毎度よくもやるな」
長義「やりたくてやってるわけじゃないんだよ、けど国広が避けるから」
伽羅「避けるも何も、あいつここの所忙しそうだったろ」
長義「そうなんだけどね…でも今までと違うんだよ」
豊前「まあ波風立てずに避けるには忙しくしておくってのは常套手段だわな」
清麿「確かにそうだね。僕ならそのまま空中分解するのを待つよ」
同田貫「お前こいつと喧嘩とかしたときは気を付けろよ、気にしてないとか言いつつ何気に根に持つぞ」
水心子「け、んかはしない…大丈夫…大丈夫…」
清麿「ちょっと…水心子に余計なこと吹き込まないでほしいな、真に受けるから」
兼さん「そういやお前らいつも一緒にいるし仲良いよな。こいつらに円滑な関係性のアドバイスとかねえの?」
長義「待て待て待て、まるで俺たちが円滑な関係性を保ててないみたいな言い方しないでくれないかな?!」
長曽祢「おれが言えた義理じゃないが、保てているのか?」
歌仙「保てていないから今こうやって避けられてる気がするとか考えることになるんだよ」
長義「ぐっ…認めざるを得ない…」
加州「正論が抉る抉る」
同田貫「って言っても俺らも割とブーメランなところはあるけどな」
長義「あ、そうだった…確か部屋に来ないかって言ってから少ししてから、避けられるようになった、と思う。きっかけがはっきりしてないからなんとも言えないんだよ」
同田貫「てーことはつまりあれか?何かしたから避けられるようになったというよりは、あっちに何かあった、と」
伽羅「…忙しくなる、誘いを反故にしてしまう、怒ってるんじゃないかと勘ぐる、怖くて避けるようになる、あたりだろうな」
豊前「あー…そういうとこありそうだよな。それで、避けられてることにイライラしてるっぽい相手に?やっぱり怒ってるって思って?」
亀甲「ますます避けるようになってしまうんだね…あるある…」
長義「あるあるなんだ?」
歌仙「ああうん、そういうのあるよ…なんなら心当たりもある」
豊前「それもまた自由…とはいえ、いちいちそこまで気にする事はないとも思うけどな。まあ、個人的には、だけど」
兼さん「あー…国広も少しそういうとこあるんだよなあ、兄弟で似るもんなのか?」
加州「兄弟が似るのは家庭環境とかが似るからじゃないの?」
同田貫「でも左文字とかは割と似たもの同士じゃね?経歴ばらばらだろ?」
宗三「えっ絵師が同じとかメタ的な話してます?」
同田貫「なんでだよ普通に中身の話だよ」
宗三「…そうですか…そう見えますか…」
亀甲「んん?もしかして照れてる?」
長谷部「…話戻すが、あいつがここのところ忙しなくしていたのは周りもわかっていたことだろう?恋人なら、いや、だからこそわかってほしいとも思っていたりするかもしれんな」
南泉「どっち転んでも悪循環ってやつだ、にゃー、お前らいつもそんなんだな?」
長義「…………本当になんでだろうね?」
宗三「常に逆周波を発しているとかなのでは?こう、ノイズキャンセリングみたいな感じで」
蜂須賀「ああ、あれすごいよね。今までのイヤホンはなんだったのかと感動したよ」
加州「ところで忙しいといえば、長谷部は仕事と私どっちが大事?って聞かれたらどうする?」
長谷部「…仕事だな、俺達の場合戦わないと守るものも守れないだろう」
兼さん「まさかの直球模範解答にびっくりした」
加州「俺も俺も。そういうのは大倶利伽羅の仕事だと思ってたわ」
伽羅「…なんだそれは。仕事にした覚えはないんだが」
長谷部「貴様ら俺のことをなんだと思ってるんだ」
水心子「…だが、とりあえずは誤解だとわかったんだ。そうと決まれば誤解をときにいけばいいだけだろう」
長義「あいつ追いかけると逃げるんだよ…」
南海「それは、追われれば逃走本能が働くものだろう?こと人間は、だがね」
陸奥守「んん?逃げられるから追うがやないがか?」
南海「そうとも言う。まあ、主客の差によるものだね」
陸奥守「ほーん、追う方に自覚的か逃げる方に自覚的か、っていう話じゃのう」
狐「以前もそのようなことを仰っていたような…覚えておりますぞ!」
鳴狐「最初に会った時」
陸奥守「ほりゃあ、あの調査のときぜよ」
狐「そうですそれです!しかし、なるほどー根っこは同じ、ということですなぁ…」
南海「そう、道理なんて得てしてそんなものだ」
豊前「おかえりー。遠征お疲れさん」
狐「鳴狐はただいま帰りましたよ!」
陸奥守「おん!帰ったぜよー」
長義「どっちだっていいけど、とりあえずあいつは逃げるんだよ、しかもそういう時のあいつはやたら速いし、ましてや隠れると見つからない」
桑名「すごいね、かくれんぼさせたら最強じゃないか」
安定「ただいまー。そこのふたりからお菓子貰ったよ」
加州「おかえり…ってラインナップが田舎のおばあちゃんちじゃん」
桑名「松井が好きなんだよ。でもこの手のってファミリー用で袋詰めでしか売ってなくて、ひとりじゃ余るって言うから、本丸分で買って皆が食べられるところに置けばいいってね」
松井「…僕は悪いからいいって言ったんだけど」
長谷部「そんなに高いものでもないしいいんじゃないか、高価なものは赤字になると博多が怒るが」
松井「…うーん、その赤は好きではないなあ」
安定「まず赤字が好きなひととかいるの?」
清麿「たくさんあるね。ルマンドもあるかな?あれ好きなんだ」
豊前「おっチョコパイもーらい。…と、ほんとにいいのか?」
松井「うん、僕だけじゃ余るから皆食べて食べて」
水心子「でっ、では私も…あ、ぽたぽた焼もある…!」
宗三「エリーゼはありませんか?」
桑名「それで、逃げる相手を追いかけたいって話してるんだっけ?兎の話?」
長義「違う違う。刀の話。国広が避けてる気がするんだよ。多分ここの所忙しかったことで、俺が怒ってると国広は思ってて、だから何とか捕まえようって話」
松井「それは…普通は追えば逃げるものじゃないかな…?」
陸奥守「先生と同じこと言うちょる」
桑名「あーそういう話か。逃げる獲物を捕まえたいってだけなら、罠を仕掛けるに限るって思ったんだけど」
陸奥守「こっちはこっちで先生みたいなこと言うちょる」
南海「うん、まあ玄関口に定置網の要領で罠を張れば物理的に捕まえることはできるよ」
南泉「それ他の奴らも一緒に捕まんじゃねえの?」
狐「それはもちろん定置網ですからなあ。しかし、そんなことした日には他の者が怒りますぞ」
長谷部「いや他のというか、俺も怒るぞ。主の迷惑になるだろう」
伽羅「どちらかというと俺達が迷惑を被るんだが」
長曽祢「というか、誰よりもまず山姥切本人が怒るだろう。おれでもさすがに怒る」
亀甲「……網にかかるって緊縛にはいるかなあ、羞恥プレイの一種ではあると思うけど」
長義「罠…は以前検討したんだけど、」
加州「したんだ?!」
長義「したよ。でも、そんなことしたらあいつの場合は、こんな嫌がらせするくらい怒ってると考えるだろう?」
伽羅「振り出しに戻ったな」
安定「あれ、前はどうしたんだっけ?」
兼さん「前…前はあれだ、山姥切が逃げて…それで、なんか捕まえてたはず」
桑名「なんか捕まえたって…全然わからないよ」
狐「わたくしめが抜け道を教えて、先回りして捕まえたんですよぅ~」
加州「そうそう、それで太刀部屋の方で…ってあれ、あん時あのあとどうなったの?」
長義「…………居た堪れない気持になりながら部屋に戻ったかな」
蜂須賀「大変申し訳ないことをしたと反省しているよ…」
長曽祢「あの場に居合わせながら何も出来なかったことを申し訳なく思っている」
陸奥守「なんじゃあおんしら、揃って…ほんに落ち込むこと…っと、あったのう…ありゃあ気えずい空気じゃった…」
加州「いやその後その後。確か一緒に山姥切の自室に戻ったじゃん?」
同田貫「そういやそうだったな、あの晩は手ェ出さなかったのか?」
長義「告白して初日で?!あのさあ、初日で手を出す男ってどう思う?」
歌仙「正気を疑う、情緒がない」
水心子「もしも清麿がその手のやつと付き合うとしたら全力で止める」
宗三「そういう目的なのかな、と思いますね」
長義「だろう?!」
南泉「いや…ほらお前規格外みたいなとこあるし…」
清麿「それ褒めてるつもりだったりする?」
南泉「にゃっ?!褒めてねーよ褒めねーよ?!」
長義「こいつのはここまで含めて褒め言葉だからいいとして、とにかく、俺はその辺常識的なつもりだよ。あの日は普通に色々と今後のこととかについて話をしただけ!」
加州「なーんだ、そうだったんだ。ミラクル起きてると思ったんだけどなあ」
長義「全く他人事だと思って…」
安定「だって他人事だし…ねえ?」
加州「なあ?」
長義「俺だって色々と考えて、それでベストタイミングだろうと思ってあの日言ったんだよ…」
豊前「それで避けられるのはショックでかいよなあ」
長義「普通の恋愛映画のラブシーンですら気まずそうにしてるんだよ?慎重にもなるだろ」
兼さん「それいつの話だ?」
長義「付き合う前の話…付き合ってからはあいつその手の映画はやけに避けてくるんだよ」
蜂須賀「…もしかして、距離が縮まるのが怖いんじゃないかな」
陸奥守「距離?今更ほがぁなことあるかのう?」
蜂須賀「距離が縮まった今だからこそだよ。近ければ近いほど、相手のことはよく見えてしまうから、幻滅だってされやすい」
清麿「逆に気を張ってしまって、それに疲れてしまった。だから忙しくしていること、仕事に逃げたってところかな。水心子も気をつけてね」
水心子「え…?」
亀甲「じゃあ、夜のお誘いに来なかったのは?そう感じているなら…ぼくなら、幻滅されないためにも相手の要望は無理にでも聞いてしまうよ」
南泉「バレるって思ったんじゃねえの?あいつ、前にも言ってたぜ『長義は俺が合わせたつもりになっていても、そのことに気づいてしまうから』って、にゃ」
長義「あいつそんなこと今までだって俺には一言も言ってなかったんだけど…?」
長曽祢「それは…直接相手には言えんだろう…」
安定「つまり、無理してもバレる、無理してバレたときに怒るだろうし、絶対そっちの方が幻滅されるってこと?」
加州「まあ、上手くできるかわからなくて不安ながら無理に誘いに乗った、よりも忙しくて行けなかったと不透明にしておいた方が、嫌だと思ってるって相手に思われにくくはあるよね」
長谷部「そういうつもりで忙しくしてたから、後ろめたくて合わせる顔がなく、避けるようになったというところか…らしいと言えばらしい」
同田貫「んで、でもそれもバレている気がする。こんなつもりで避けているのがバレたら、きっとあいつは怒るに違いない…っつー話に続くわけだな」
松井「…その、目的の彼は今日はもう自室?いまから会いに行って誤解なら誤解だと言えばいいんじゃないかな、部屋にいて客人を置いて逃げることは難しいし」
長谷部「いや、今日は山姥切は…」
――――
村正「でも、長く時間を置く方が、もっと話しにくくなりマスよ?」
まんば「…それは、わかってるんだが」
村正「それにしても、悩んでいるようだからてっきり、恋人との夜が上手くいってないとかそういうのだと思いました。存外清いお付き合いしてるんデスね」
まんば「清い…いや、多分…長義の方が遠慮、というか、我慢してるんだと思う…」
村正「まあ、そうでショウね。確かにアナタは臆病です」
まんば「そ、んなにはっきり言わなくても…だが、やはりそうだろうか…もっと積極的、に」
村正「でも、そこも含めてアナタなのでショウ?無理に頑張ったところで、後々軋轢を生むだけデス。そのままのアナタでお話しすればいいと思いマスよ?」
まんば「そのままの…」
村正「ええ、アナタもよく言っているように。何をしたってアナタはアナタなのデスから」
まんば「…!その、ありがとう…行ってくる」
村正「まあいい結果、期待しまショウか」
長義「そろそろ帰ってくるなら、出迎えておこうかな」
南海「確実性があるのはやはり玄関だよ」
長義「罠は張らないけどね」
南海「罠は真面目な話をすると、どちらかと言えば北風だからこの場合効果は薄いと思うがね」
歌仙「ならなんで勧めたんだい…」
南海「いや、勧めてはいないよ。こういう方法もあるという提案さ」
長義「ではいってく――」
まんば「長義!」
長義「…っ国広?!」
まんば「すまなかった、俺、どうしたらいいのかわからなくて、色々と考えたり調べたりはしたんだが、上手くお前と付き合うというのが、やっぱりわからなくて…それで、迷惑をかけるだろうから、と思って、初めはそのはずだったのにだんだん変に…」
加州「おお、すごい喋る山姥切」
兼さん「年の初めの珍しいもの大賞だな」
宗三「なんですかそれ、毎年恒例なんですかそれ」
桑名「いやあれ単にパニクってるだけじゃない?大丈夫かな」
長義「…えっと、まず落ち着こうか、はい息吸って、吐いて」
まんば「…あ、ああ…」
長義「それで?どうしたかな」
南泉「さっきまで国広に避けられてるって落ち込んでたくせに、本人前にした途端ああだよ」
松井「気が強いということ?」
豊前「いんや、あれはどっちかってーと見栄だな」
兼さん「見栄っつーか、もっと言えば、アイツには絶対かっこわりーとこ見せたくないんだろうよ」
蜂須賀「ああなるほど、長船の傍流…」
南海「というよりも、彼個人の性格特性な気がするがね」
まんば「すまなかった…本当に…俺の勝手な思いであんたを避けた…嫌な思いをさせたと思う…」
長義「…本当にね。なあ、忙しかったのは本当?」
まんば「それは誓って嘘じゃない!だが、それを言い訳にしてしまったところは、ある…。本当は、時間なんて作れたのに、それを俺は…」
長義「…なら、まあいいよ。俺も、お前に無理をさせないつもりが、それが逆にお前の負担になっていたなんて気付かなかったし」
まんば「…っそ、んなこと」
鳴狐「…ね、部屋戻ろう」
宗三「…ですね、退散しておきましょうか」
長谷部「あいつらもうこっちのことはお構いなしだしな」
長義「もう少し遠慮しないことを覚えたら?…って、お前には無理…いや、そういう風に演じることは出来るんだろうね。でも、それはお前の本意ではない、か」
まんば「が、頑張るから…いや、それでは駄目なんだ、いつか軋轢を生む、だったな…」
長義「…?」
まんば「笑わな…いや、笑ってくれて構わない。…怖いんだ、お前が俺を、その、好きになってくれたのは、嬉しい。すごく。だが、それはお前がお前の中で作り上げた俺、なんじゃないかと、考えて…」
長義「は?なんで…っ、いや、どうしてそう思ったんだよ、あれほどしつこく言い聞かせただろう?」
まんば「好きだから!…俺も、あんたを好きだから、好きだったから、あんたの好きだろう好みに合わせて嘘をついた…好きな映画のジャンルとか、も」
長義「…それはそっちの理由だったか」
まんば「そっち?…だが、やはりダメだな、ボロが出ているのは自分でもわかって、それで怖くなった…」
長義「嘘がバレたら、虚像が崩れたら、嫌いになると?」
まんば「…なるだろう、本当の俺は、お前にそこまで合わせることはできない、し」
長義「別に俺に合わせてくれるから、お前のことが好きなわけではないけどね。それに、お前こそ勝手に俺の虚像を自分の中で作り上げてるんじゃないか」
まんば「…嫌うか」
長義「嫌えるものか!…それにしても安心したよ。つまり、避けたのは急ぎすぎでドン引きとかそういうのじゃないってことだね」
まんば「ドン…いや、引いてないぞ。むしろ、たくさん我慢を強いて、悪いと思っているくらいで…どうしたんだ?あからさまにほっとしているようだが…」
長義「こっちも色々あったんだよ」
まんば「そ、そうか…」
長義「まあ、俺達には俺達のペースがあるからね、周りなんて気にせず進んでいこう?」
まんば「…その、ことなんだが」
長義「ん?」
まんば「別に、今日でも構わない」
長義「えっ?は?え?」
まんば「あ、でもそうか、準備しないといけないんだったな…すまない、今日は難しいか…」
長義「まあ今日はもう遅いし…っていやいやいや、何お前どこからその積極性出してきたんだよ。あと準備なら手伝える分は手伝うから、ひとりでなんでもしようとしないでくれないかな?」
まんば「え、だが、その…、それは少し、かなり、恥ずかしいし…」
長義「え、そこで?お前の羞恥ポイント独特すぎない?」
まんば「ダメ、だろうか…」
長義「良いも駄目もないよ、驚いたけど、すごく驚いたけど!けど、それがお前の感覚なんだろう?」
まんば「…そのままの、そうか」
長義「…お前が何を考えてるのか、とか、言われないとわからないこともあるから、教えてよ。…あと、避けるのはもうやめてくれ、割とダメージがある」
まんば「…努力する」
長義「努力じゃなくて絶対だ!…はあ、本当にもう遅いし寝るか、お前の部屋でいい?」
まんば「…あ、ああ。…だがそうか、俺でも、お前に傷を残せるのか…そうか…」
長義「…?何か言った?」
まんば「いや、なんでもない…資材確認したら戻るから先に行っててくれ」
長義「…すぐに来いよ、来なかったら迎えに行くからな」
まんば「あんたやっぱりすごく怒ってるだろう?!」
翌朝あちこちからめちゃくちゃ質問責めされた。