寒い。
もう2月だから寒いのは当然だけど、今日は一段と冷えるわ。
こんなに寒い日は外に出ないで、暖炉で温まりながら読書でもしよう。私は書斎に行くと、読みかけの本を手に取った。
「……あら?」
何か挟んである。これは……カード? 中心にはドレスコードの男女が描かれていて、周りには緻密な模様やリボン、レースの装飾がされてある。大切にとっておきたくなるくらい綺麗なカードだ。
今日はバレンタインデー。差出人はリチャードね。そういえば、最近この本を読んでいる時にリチャードに話しかけられた。だから、私がこの本を開くだろうと思って隠しておいたのね。
弟は、毎年私にバレンタインカードを贈ってくれる。リチャードにカードを贈るのは気が進まないけれど、貰っておいてお返しをしないのも気が引けるし、渡さない方が後が怖い。私もリチャード宛のバレンタインカードを用意しておいた。でも……。
「私のカードは見つかったか?」
背後から声が聞こえてきた。
「リチャード」
弟は私の隣までくると、何か探すように本の背表紙を眺め始めた。すぐに一冊の本を手に取る。
「私たちの考えは同じだったということだな」
右手には、私が用意したバレンタインカードが握られていた。
「貴方も本に隠すなんて」
「姉弟だから考えることも似ているのだろう」
リチャードと私の思考が似ているとは全く思わないけれど。
「でも、よくその本だと分かったわね」
リチャードは騎士道物語が好きだ。この書斎にも騎士道物語の本が何冊か置かれているのに、何でそれだと分かったのだろう。
「人の行動を予測するのは得意だからな。いつも私の部屋のドアの下にカードを隠しているが、毎年同じではつまらない。しかし、他の所に隠すとしても、私以外の人間に見つかるのもまずい。勝手に私の部屋に忍び込むのは失礼だ。それなら家族共有スペースの限られた場所になる」
リチャードは、まるでトリックを暴く探偵のように推測を述べ続ける。
「家族共有で、しかも私ぐらいしか見ないような場所……それは本の中だ。今日の朝食の時、私がいくつかの本の話題を振っただろう? この本の名前を出した時、姉上の視線が泳いでいたから、それで推測した」
視線の動きだけで予測するなんて……。普段とは違う意味で弟が怖い。
「見事な観察力ね探偵さん」
「探偵? たまには探偵を演じるのも悪くないな」
リチャードは苦笑しながら本をしまう。まあ、貴方は探偵というより犯人側の人間になりそうだけど。
「ありがとう姉上。大切にするよ」
「貴方もカードありがとう」
リチャードが恭しく右手を差し出してくる。まるで、ご婦人に接する騎士のように。
「バレンタインデーを……大切な貴方と過ごしたい。一緒にアフタヌーンティーでもいかがかな」
拒否されることなんて微塵も感じていないような、自信に満ち溢れた笑顔だ。
リチャードの好意を無碍にするのは心が痛む。それに……今日はバレンタインデーだ。今日くらい弟とゆっくり過ごすのも悪くないかもしれない。
「お誘いありがとう」
私は微笑みながら弟の手を取った。