マーカスはジェフリーと共に、期間限定の星空の公共マップを訪れていた。
空には見惚れるほどの満点の星が輝いていて、辺りには花火も打ち上がっている。
幻想的な光景に、思わずマーカスも表情を緩めてしまう。
「マーカス」
呼びかけられ、マーカスはジェフリーに視線を移した。ジェフリーは空を見上げながら話を続ける。
「俺も勝てるように、たくさん試合に行くよ。だから、いつか……」
マーカスは無言で先を促す。
「いつか、一緒に協力狩りに行こう」
マーカスは咄嗟に答えることができなかった。協力狩りが、どういうものなのか知らない。
「協力狩りとは、何だ?」
「あれ? 知らないのか。協力狩りっていうのは、ハンターが2人、サバイバーが8人で行う試合だ。暗号機も普段の試合より多いし、ハンターもサバイバーもアイテムが買えたりと、少し特殊な試合らしい。俺も行ったことがないけど」
アイテムを買うというのがどういうものなのか、あまり想像できないが、基本的なルールは普通の試合と変わらないのだろう。
「そうだな。私も試合に慣れてきたら、考えてもいい」
マーカスの答えに安心したのか、ジェフリーは嬉しそうに笑みを浮かべた。
2人の約束を、星たちが見守っていた。
マーカスが荘園に来て、2週間以上経った。朝方、今日からランクマと協力狩りに参加しても良いとナイチンゲールから告げられた。試合にも慣れてきたし、ランクマに参加してみてもいいかもしれない。
自室でキューにチョークを塗っていると、ドアがノックされた。
手を止めてドアを開けると、ジェフリーが立っていた。大きい図体は、何やら悲しげに縮こまっている。
「どうした」
「聞いたぞ、お前は協力狩りに参加できるみたいだな」
マーカスは頷く。
「公共マップで約束したこと覚えているか?」
記憶を辿り、すぐにマーカスは思い出す。
「ああ。一緒にサバイバー共の頭を打ち砕こうと約束したな」
「そんな恐ろしいことは言ってないけど。……とにかく、俺たちは約束したよな、一緒に協力狩りに行こうって」
ジェフリーは肩を落とす。
「俺……協力狩り出禁だった」
出禁?
「何かやらかしたのか」
「違う! 何か迷惑をかけたとかじゃない! 能力の問題で、協力狩りに出られないハンターがいるんだよ。写真家や隠者みたいにな」
ジェフリーは力なく首を振る。
「すまない。約束したのに一緒に行けなくて」
マーカスとしては、ジェフリーと協力狩りに行けなくても残念でもないし、何とも思わない。しかし、さすがのマーカスも、落ち込むジェフリーを前に正直に言うのは躊躇われた。しかし、上辺だけの慰めの言葉を言う気遣いも、マーカスは持ち合わせていない。
「気にするな」
それだけ言うと、マーカスはキューの手入れに戻ろうとした。
「待ってくれ」
閉めかけたドアをジェフリーに押さえられる。苛立ちを含んだ目で見上げると、ジェフリーは少し怯えるような様子を見せたながら尋ねてきた。
「一緒に協力狩りに行けなくても、また公共マップに行ってくれるか?」
それこそマーカスにとってはどうでもいい話だ。公共マップに行くかどうかは、その時の気分の問題だ。
「気分が乗ればな」
わかったら手をどけろと視線で伝えると、ジェフリーは慌てて手を離した。ジェフリーの返答を待たず、マーカスはドアを閉める。ジェフリーがそれ以上何か言ってくることはなかった。
初めてのランクマは4吊りで勝利を収めた。やはり王者は、圧倒的な強さを見せつけなければならない。
気分がいいし、他の試合に行ってもいいかもしれない。協力狩りに参加してみるのはどうだろうと思ったが、2人でないと行けないことに気づいた。しかし、誰を誘おうか。先輩役として荘園を案内してくれた雑貨商も協力狩りに行けないらしいし、何やらマーカスを気にかけてくれる隠者も出禁だ。
まだ荘園に来て日が浅いうえに、マーカスの社交的ではない性格も災いして、咄嗟に試合に誘えるハンターが思いつかない。
協力狩りに行くのは日を改めようかと考えている時だった。
「マーカス」
マーカスは振り向く。悪夢だ。
悪夢は、マーカスが見ていた協力狩りのポスターを覗き込む。
「協力狩りに興味があるのか?」
マーカスは頷く。
「それなら私と一緒に行こう! マルチとは違った面白さがあるぞ!」
こうしてマーカスは、ジェフリーを置いて、他のハンターと協力狩りに行った。ジェフリーは、協力狩りに行けない悲しみをランクマとマルチにぶつけた。