今日も荘園では命を賭けたゲームが行われる。
今回の編成はリチャード、ガンジ、アニー、ビクターだ。
待機席に着くなりガンジは得意げに宣言した。
「俺が5台分チェイスしてやる」
以前のリチャードなら、何ふざけたことを、と呆れていただろう。しかし、ガンジと共に何度も試合に行った今なら分かる。ガンジは躁病を患っている。きっと今は躁状態で大きな口を叩いているのだろう。
「頼りにしているぞ」
「任せろ!」
リチャードの言葉にガンジは自信満々に答える。
会場は軍需工場。ガンジは小屋付近にスポーンした。ガンジは解読が遅い。隠密するよりも解読を始めた方がいいかもしれない。
暗号機に近づいた瞬間、心臓が跳ね上がる。周囲に素早く目を走らせると、ハンターらしき人影が見えた。
「ハンターが近くにいる!」
ガンジはチャットを打つと走り出した。ハンターは足萎えの羊ジェフリーだ。ジェフリーもガンジに気づき、距離を詰めてくる。
近くにある板を倒し、それを素早く乗り越えようとしたが、足がもつれてしまった。ガンジの動きが遅くなった隙をジェフリーは逃さなかった。
強烈な一撃が襲ってきて、ガンジは頭を抱えた。息が詰まり、視界が歪む。恐怖を喰らったのだ。
マズい、即死してしまった。
風船に括り付けられ、体が宙に浮く。ガンジは必死に踠くが、ジェフリーは難なく小屋の中に入っていく。
ガンジの顔から血の気が引いた。ジェフリーは地下に吊る気だ。
「解読中止、助けに行く!」
リチャードはチャットを打つと、小屋目指して走り始めた。
「ん?」
走り出してすぐにウィックが駆け寄ってきた。ウィックが咥えている手紙を開けてみる。中身は冷静の手紙だった。
救助に行かないで解読に集中しろということか。
リチャードは形の良い唇の端を上げると、手紙を引き裂いた。
「ワン!?」
ウィックが抗議をするように吠え立てる。
「すまない、私は仲間を見捨てることはできない」
そう、私は騎士なのだからーー。
ウイックの声を背に、リチャードは再び走り出した。
ガンジとの思い出が次々と思い浮かぶ。
最初は喧嘩ばかりしていた。
「お前、その剣で自分の腹を斬れよ」
「すまない、クイーンイングリッシュで喋ってくれないか?」
「お前の粘着なんかしないからな」
「結構だ。私も貴様は助けない」
「मरना!!」
リチャードに向かって外国語で何か叫ぶガンジ。何を言っているかは分からなかったが、どうせ暴言だったのだろう。
コイツとは仲良くできないと思っていたのに、2人とも試合で良い働きをするうちに、お互いを認め合えるようになった。
リチャードはマップ上に落ちていたガンジのクリケットボールを渡す。
「ほら、貴方のものだろう?」
「スターリング……」
「リチャードでいい」
リチャードは微笑んだ。つられてガンジも表情を和らげた。
「ありがとう、リチャード」
やはり、ガンジを見捨てることなどできない。
ジェフリーが、救助に来たサバイバーを迎え討つべく、小屋の外まで出てきているのが見えた。
地下救助でも、私ならできる。
リチャードはハンターの行動を予測するべく、剣を振るった。
冷静の手紙を送ったビクターは解読に集中していた。だから、リチャードが手紙を破り捨てたことに気づいていなかった。
相棒が戻ってきた。しかし様子がおかしい。
『どうしたのウィック?』
ウィックが何かを訴えるように吠え立てている。何か尋常ではないことが起こったのは確かだ。
その時、ビクターは手紙の効果が現れていないことに気づいた。
『まさか、手紙を破り捨てた!?』
肯定するかのようにウィックが吠える。
ビクターは今だけ納棺師に転職したくなった。そして、手紙を破り捨てたサイコパス騎士を納棺してやる。
椅子に座らされたガンジは、うなだれていた。
マッチング前は、勝利への希望を求める闘志で溢れていた。それが今はどうだろう。開幕早々即死して、しかも地下に吊られる。
ガンジは瞼を閉じる。
皆、俺を助けなくていい……。
「解読中止、助けに行く!」
仲間からのチャットに、ガンジは目を見開いた。
リチャードはガンジを助けようとしてくれている。アイツは、まだ諦めていない。そうだ、俺が弱気になってどうするんだ。
ガンジの目には、ビクターやアニーの「私を助けなくていい」のチャットが映っていなかった。
リチャードが剣を振るうシルエットが見える。予測を当てたらしいが、檻に阻まれてなかなか地下まで来ることができない。
そうしている間にタイムリミットは刻一刻と迫っている。
そろそろ椅子のゲージが溜まりそうな頃、やっとリチャードが地下に辿り着いた。リチャードは剣を地面に突き刺す。
しかし、その瞬間、無情にも椅子が動き出した。
地下に吸い込まれるガンジが最後に見たのは、兜の隙間から覗くリチャードの絶望に打ちひしがれる目と、リチャードの背後で腕を振り上げるハンターの姿だった。
ガンジ・グプタ
解読率0%、牽制8秒。行方不明。
開幕早々地下吊りをされた彼には、今まで見たこともないほど低い点数がつけられた。
リチャード・スターリング
解読率13%、牽制21秒。行方不明。
仲間からの手紙を破り捨てた騎士は、地下で救助恐怖を喰らった。
ビクター・グランツ
解読率80%、牽制54秒。行方不明。
地下で救助恐怖を喰らった仲間を耳鳴り見捨てする。試合後、ガンジとリチャードを同チーム拒否申請した。
アニー・レスター
解読率210%、牽制40秒。脱出。
ジェフリーのお情けでハッチ逃げを許された。