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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    付き合って1年清い関係の赤安

    午前零時を迎えに来いよ通路の奥からまばゆい光を纏った男が歩いてきた。
    透き通るような金の髪にライトが当たっているだけとは思えない神々しさだ。
    俺の恋人は意味深な笑みを浮かべて「赤井」と天使の奏でる音楽の調べに似た響きで俺を呼び留めると、意味深な笑みで周囲の足を止め、俺の耳に「楽しみにしてます」と囁いた。
    ああ、悪魔め。
    「そうだな」
    「では、また」
    部下を従えて去っていく後ろ姿は魔界の王と言ってもいいオーラがあった。
    「何を言われたんだ、アカイ」
    「組織の残党に関する新しい情報?それとも……」
    「いや……なんでもない」
    何もないことはないだろうという表情をしているのは自分でもわかる。彼に声を与えられた耳は焼けるほどに熱く、手からは汗が噴き出している。
    生まれてこのかた「何を考えているかわからない」と言われ続けてきた俺でなければ、通り過ぎていった天使の光を纏った悪魔に欲情しているとわかってしまっただろう。
    それほどまでに俺の心は彼に囚われている。
    因縁の関係であった彼と付き合い始めたのは一年前。
    俺の告白に初心な様子で頷いてくれた夜から三百六十五日が経過した。
    忌々しくも幸いなことに今年は閏年であったため、平年よりも二十四時間の猶予を与えられた。
    「少しいいか」
    日本警察との合同捜査に同行していた同僚に声を掛けると、同僚はやっぱり来たという顔で、別の同僚との会話を切り上げた。
    「何かあったのか?」
    「仕事の話じゃない」
    「個人的なトラブル?」
    「トラブルと言えばトラブルかもしれん」
    言葉を濁すと、同僚は俺の肘を掴んで、部屋の隅へ誘った。
    「なんだっていうんだ?お前、ひどい顔してるぞ?」
    「そうか……?」
    「ああ、まるで……死神が初めて恋をしたみたいな顔してる」
    「お前の表現もなかなか酷いな」
    初めての恋ではない。それは降谷くんのほうで、俺はそんな彼を大切にすると誓った。
    一年は手を出さないと約束して、明日で一年になる。
    付き合ってすぐの頃はどうしてこんな約束をしたんだと自分の正気を疑ったが、彼という人間の恋人としての側面を知れば知るほど、俺の手は慎重になった。
    「つまり、今の恋人と初めてベッドインするから緊張してるっていうのか?俺たちの切り札が!?」
    「声を抑えろ」
    「悪い……それにしたって……なあ、そんなに美人なのか?」
    「ああ。とんでもなくゴージャスだ」
    「ワオ……」
    同僚は口を開けたまま知性の欠片もない顔で俺を見上げた。
    「相談する相手を間違えたようだ。忘れてくれ」
    「まあ、待てって。とっておきの秘策を教えてやる」
    「ホォ?聞くだけ聞いてやる」
    「お前……さては相談するのに慣れてないな?」

    赤井から送られてきたメールにはホテルと部屋の番号だけが書かれていた。
    恋人に送るメッセージにしては簡素すぎるぐらいなのに鼻息が荒くなる。
    ついに、ついに、この日がやってきた……!
    興奮しすぎて、遅れて届いた「待ってる」の文字に軽く目眩を覚えた。
    赤井と付き合い始めたのは一年前。赤井曰く潔癖なところがある僕に赤井は攻めあぐねていたそうで、結局は夜景の見えるレストランで「好きだ、恋人になって欲しい」と王道の告白をくれた。
    「僕も好きです……宜しくお願いします」
    「ありがとう、こちらこそ宜しく」
    上に部屋を取ってあると言われて、赤井の後に続いてエレベーターに乗り込んだ。
    この後の流れは僕だってわかっていた。
    でも赤井は僕の想像以上に僕を好きだった。
    客室のドアを開けてすぐに強い力で抱き寄せられ、唇と唇が重なる。僕は顎を少し上に向け、鼻で息をするので精一杯で赤井を抱きしめ返すこともできなかった。
    「あ、あの、僕、初めてなんです、だから」
    うまくできるかわからない。
    というか、何が正解なのかわからなかった。
    「大事にする……」
    「そんなこと言って、付き合って一年も経たないうちに飽きないでくださいよ」
    「参ったな……そんな男に見えるのか?」
    「ちがう……自分が可愛げのない男だとよく知ってるんです。こんな外見だから遊んでるように思われることもありますけど、実際は全然だし」
    「ホォ……心配なら一年は手を出さないよ」
    「えっ」
    「こうして君が隣にいてくれるだけで俺は幸せだと君に知ってほしい」
    その夜、赤井は本当に何もしなかった。同じベッドのなかで手を繋いで眠ってくれた。
    僕のペースに合わせてくれるのだとわかって嬉しかったし、正直ホッともした。
    でも、まさか本当に一年間手を出されないとは思っていなかった。
    仕事終わりに飲みに行くことはあるし、そのままお互いの家に行くことだってある。
    二人きりになればキスはするし、ハグもする。
    恋人らしい甘い空気になったところで「そろそろ寝ようか」と言われると僕の中のムラムラは行き場を失くし、下のつく心に蓄積していった。
    赤井の前でわざと着替えてみたり、僕から抱きついてみたりして誘ってみたが、赤井はちょっと困った顔で僕を抱きしめるだけだった。
    はっきり言って、僕は赤井に欲情している。大切にしてくれるのはもう十分わかったから、めちゃくちゃにして欲しい。
    零時を過ぎれば約束の一年だ。
    今夜、僕は赤井に抱かれる。
    赤井のことだから良い部屋を取ってあるんだろうなと思ったが、メールで送られてきていたのはホテル最上階スイートの部屋番号だった。
    ノックをすると、バスローブに身を包んだ、水も滴るいい男が僕を出迎えてくれた。
    「お疲れ様。先にシャワーを浴びていたよ。君も使うか?」
    「は、はい」
    テーブルの上には日バラの花束とキャンドル、バーボンのボトル。
    眩し過ぎて直視できない……。
    バスルームで隅々まで念入りに洗って部屋に戻ると、髪を乾かし終えた赤井が僕に手招きした。
    「君のも乾かそう」
    「うん……」
    赤井の手が僕の髪を梳き、指先は地肌を撫でる。髪と地肌の間を吹き付ける温風が僕を火照らせる。
    午前零時になった時、僕はこの手にどうされてしまうんだろう。
    こんなことを考えるから赤井に潔癖だと言われてしまうのかもしれない。
    ここまで来たんだ、時間になんてこだわらない。
    来いよ、赤井……!
    「飲むだろう?」
    「えっ?」
    「ロックと水割りどちらにする?」
    ウィスキーの瓶を揺らして僕に見せる赤井はCMかと見まごうばかり輝いている。
    二つのグラスがバラの横に並ぶ。
    赤井は僕の話を楽しそうに聞き、腹が空いたタイミングで「何か食べようか」と言ってルームサービスを頼んでくれた。
    優しい。いつも通り優しい。
    でも僕が思っていた通りじゃない。
    365日も手が届くところにありながら、手を出せない焦ったさを感じていたんじゃないのか?
    いけないとわかっていながら相手の痴態を想像して自分を慰めた夜だってあるだろう?
    お預けを食らっていたのは僕だけなのか?
    赤井は楽しみにしてなかった……?
    「飲ませすぎたかな……目が溶けてしまいそうだ」
    節くれた指が僕の目尻をなぞる。
    違うだろ、それよりも先に僕のバスローブを脱がせよ!
    「おっと」
    赤井の手首を握って引き寄せると、反対の手が持っていたグラスから僅かに残っていたウィスキーが僕の胸とバスローブに掛かった。
    「どうした?」
    心底不思議そうに見つめられて、隠していたタガが外れた。
    「ヤらないのか!!」
    「降谷くん、それは……」
    「そんなつもりじゃなかったなんて言わせないぞ!こんなムードたっぷりの部屋でシャワーまで浴びせて……揶揄ってるのか!?」
    「ちがう、そんなつもりは」
    「じゃあ抱けよ!!待ち焦がれていたのは僕だけじゃないんだろう……?」
    告白してから今日までの間、赤井がどんな瞳で僕を見ていたか僕は知っている。初めてばかりの僕を怖がらせないように紳士に振る舞っていたけど、緑の瞳が放つ視線は溶かした蝋のようにとろりとして火傷するんじゃないかと思うほど熱かった。
    「いいのか」
    「零時を過ぎないと勃たないって言うなら待ちますよ?」
    膝で赤井のバスローブを押し上げて、そこを挑発してやると、赤井は「まさか」と言って僕にキスをした。



    『ここぞという時はムードを作るのが大事だ。絶対に抱くって姿勢を見せるんだよ!』
    『……わかった』
    大した策ではないと思ったが。
    俺の隣には天使が生まれたままの姿で眠っている。
    カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされたは昨日よりさらに輝いて見えた。
    俺は彼の初めてに相応しいのか。
    セックスをしたことはあっても、ボトムの経験はない。
    柄にもなく狼狽えていた昨日までが馬鹿馬鹿しく思えるほど美しい。
    君が抱かれる側でいいのかと尋ねた俺に降谷くんは全てを包み込むような男前な顔で笑った。
    『あなたも男は初めてなんでしょう?そのヴァージン、僕にください』
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