キスの話「あくえもん〜!ファーストキスってほんとにレモン味なのか試してみたいよ〜〜!」
「失せろ」
亜久津は某国民的アニメ宜しく軽快に声をかける軟派物の名を欲しいがままにする男、千石清純の鼻っ柱を折らんかぎり速さで拳を振るう。が、持ち前のズバ抜けた動体視力で躱す。目の前のヘラヘラとした男を追い払うのはこれでもう何億回目になるのだろうか。女にモテなさすぎて気が狂ったのだろうか、それともクソみたいに暑い屋上でずっとサボタージュしていた自分の頭が茹だった結果の幻聴だろうか。
「ファーストキスってレモンの味って言うじゃん?」
幻聴であってくれたらどれ程良かっただろうか。
「あれって絶対嘘だと思うんだよね〜。だってほら、女の子って桃みたいな匂いするじゃん?だからするとしたらレモン味ってよか桃味じゃない?」
「くだらねえ」
千石という男は女に薄ら寒い夢を見ているところがある。その癖姉がいる分変にリアリストであるから好みのタイプはこの世の女の子全部、とかほざきながらも特定の相手ができないのだろう。
「じゃあレモン味は嘘なのか〜とか考えてたら亜久津の顔が浮かんできてさ〜」
「は?気色悪い話にオレを巻き込むな。」
何故話がそうも急旋回するのか、この男の考えていることは単純そうで全く理解ができないし付き合っていられない。
「亜久津ってレモン味しそうだよね」
顔を背けていたからか、すぐそこまで近づいていた顔に気付けなかった。声が思ったよりも近い、と気付いた時には
「っ、」
「舌に乗ったらきゅ〜って酸っぱいけどそのうち甘くなってさあ」
口の表面に残る皮膚の感覚が妙に鋭く感じて
「き、もちわるいんだよ!!!」
避けられない距離だったから、殴った。
「あの反応、もしかして…初めてだったり?」
慣れた仕草で鼻血を止め開け放たれたままの扉を見つめる。
「か〜わい笑」
カマトトぶってる初キス経験済み千石×経験豊富そうに見えてファーストキスだった亜久津