大遅刻の誕生日 ────やってしまった。
目が覚めて、眠気とともに朝日を眺めて頭を覚醒させてそれと同時に絶望した。
段々と鮮明に、昨日が何日であるか思い出し、そして更には友人知人そして恋人が計画してくれた自分の誕生日パーティwithビデオ屋! に行った記憶が無いことに深く深く絶望した。
主役が登場しないパーティだなんてそんな気まずいことがあるだろうか。昨日、そうなってしまったはずだ。なんてことだ。
昨日は元々半休を貰って早上がりをし、自宅に一旦戻って準備をしてから、そのあとビデオ屋に向かって、前々から企画してくれていたプロキシ兄妹と、後輩のセスくん、あとから追いついて来るであろう同僚や上司、友人達と一晩中騒いでやろうという予定のはずだった。
はずだったのだ。
今自分がいる場所はどこだ。自宅である。
昨日ビデオ屋にいた記憶はあるか。ない。
そんなことってないだろう。もし神が目の前にいるなら、5発ほど矢をお見舞してから電気攻撃を仕掛けて、そのまま息切れを起こすまで切り刻んでいるところだ。
そもそも、なぜこんなことになってしまったのか。
ことの発端は僕の退勤時間五分前まで遡る。
「緊急です! ホロウが急速に拡大を始めました、人員が足りないので至急応援をお願いします!」
知らない顔の、恐らく別部署の新人が六課のオフィスに駆け込んできた。
それまでは課長に「誕生日ぐらいすこーしはやく退勤してもいいんじゃないですか?」なんて軽口を叩いていたほどに平和で、短い五分が長く感じていたところだったのだ。
そうしたら急なホロウ災害である。
人生はどうしてこんなにも無常なのか。僕は涙を流しながらアキラくんへ連絡し、臨時の緊急招集に現場へ走り出した。
やっとのことで掴んだ退勤時間は日付が変わった頃で、体も疲れと複数のかすり傷でボロボロ。流石に鬼の柳さんも言葉が出ないほどのようで、慰めにコーヒーを奢ってもらった。
アキラくんに促されたこともあり、泣く泣く自宅のベッドへ直帰することとなったのだった。
「おはよう悠真」
あぁ遂に、絶望が度を越して幻覚まで見え始めた。愛しの恋人が僕のベッドに腰かけて、半泣きの僕の頬に手を当てている。
「おはようアキラくん……幻覚でも、すっごく優しいね……」
「何言ってるんだい悠真。さてはまだ寝ぼけているな」
頬に若干の刺激が加えられる。アキラくんが僕の頬をつねっているのだ。……あれ、つまり?
「本物!?」
「やっと目が覚めたようだね」
「え、あ、うん。おはよう……え、えぇ!? なんでうちにいるの」
「誕生日なのにひとりぼっちは寂しいかな、なんて。この前貰った合鍵を使って、君が寝ている間にお邪魔させてもらったんだ。……迷惑だったかい?」
「全然! なんならどんな時でも勝手に入っていいって言ったのは僕だし、それに朝目が覚めて最初に見られたのがあんたの顔ですっごく嬉しい」
「ならよかった」
朝日に照らされながら優しげに笑うアキラくんはとても眩しくて、とても愛おしい。もうほんと、愛してる。最高にかわいくてかっこいい。イケメン。大好き。
最愛の人はこんなにも美しい人。
ベッドに引き込むようにして思わず抱きしめ返すと、人肌の温もりが直に伝わってきて安心する。
「悠真……くるしいよ」
「うぇっ、あっごめん。でももうちょっと、こうさせて……」
少し力を弱めて、体温を求め続ける。
朝日が少し温度を上げたようで、起きた時よりも若干暑い。もうすぐ昼になるのだろう。
きっと、こんなに熟睡できたのは、隣に彼が居てくれたからだ。
僕の腕から脱出するのを諦めたアキラくんは、ゆっくり呼吸をして話し始めた。
「君の誕生日パーティだけれど、昨日柳さんに相談したら六課全員分の有給を貰ったそうだから、今日の夜にしようと思ってる」
「えっ、じゃあ今日は出勤しなくていいってこと!?……じゃなくて、あんたらの予定は大丈夫なの」
「元々ビデオ屋は夜に閉めるから大丈夫さ。それで悠真、夜まで君と過ごしたいんだけど、いいかな」
すこし頬を赤らめたアキラくんは、とても可愛い。それなのに、こんな相談をされるだなんて。
「アキラくん好き、大好き、愛してる。ありがとう」
「僕も愛しているよ。誕生日おめでとう、悠真」