養父の結婚相手とWデートさせられそうな話(高銀)優しくて気立ても良くて、頭も良くて顔も悪くない。
そんな養父は、昔からよくモテていた。
けれども計算なのか天然なのか。自分に送られてくる秋波にことごとく無関心を貫きながら、養父はいつも俺を優しく抱きしめて「銀時より大切なものなんてありませんよ」と、頭を撫でくれてきた。
優しくて、でも厳しくて、強くて、俺を愛してくれた人。
俺はそんな養父をーー松陽を俺だけに縛り付けることが、少しだけ心苦しくて、本当はもっと松陽には自由になって欲しくてーー家から離れた都会の大学進学をきっかけに家を出た。
松陽は寂しい寂しいと駄々を捏ねていたけれど、最後には「立派になりましたね」と、泣きながら見送ってくれた。別に今生の別れでもあるまいし大袈裟なと思いながらも、少しはこの人に報いることができただろうか、と少し泣きそうになったのは秘密だ。
そうして、単位を危うくしながらも大学を卒業し、社会人に。柄にもなく教師になんてなってみて、早三年。
「は?結婚?」
「はい。じつは結婚を考えている人がいまして、是非とも銀時に合って欲しいんです」
「それは、別に……いいけど」
日曜日の朝に突然かかってきた電話。女っ気のなかった松陽に結婚前提でお付き合いしている人がいるだなんて聞いたこともなく、まさに寝耳に水だった。
俺が知る限り、松陽が今まで誰かと交際した話なんて聞いたことがなく、その突拍子のなさにエイプリルフールを疑ってしまったほとだ。
だが、松陽の幸せそうな声に嬉しさを感じる自分もいた。
「とりあえず、おめでとうさん」
「ありがとうございます、銀時。ところで……“さっきの彼”は、どういう関係ですか?」
「う」
言葉につまる。
ーーそう。まだ寝ていた俺の携帯にかかってきた電話を、寝ぼけて先にとって出たやつがいる。
「同じベッドで寝てたんですか?」
「あー、友達で、昨日泊まってて……」
「私、あんなに甘く名前を呼ぶ銀時の声、はじめて聞きましたよ、それにリップ音も……」
「わー!わー!わー!」
寝ぼけていた。頭が働いてなかったのだ。いや、通話しながら「おはようのキス」をしてくる、コイツが悪いのだ!
「恋人ですか?私、銀時にそんなに人がいたなんて聞いてないんですけど……」
「あ……う……」
しどろもどろになる俺の腰に、悪びれもなく伸びてきた手をパシンと跳ね除ける。
ムッとした顔してんじゃねぇよ、全部テメェのせいだぞ!
「……分かりました!じゃあ、せっかくなのでダブルデートしましょう」
「は?」
「詳細はあとでまた連絡しますね!いやぁ、楽しみですね!一度やってみたかったんですよ」
「え?いや、あの、は?」
「じゃあ、さっきの彼ーー“高杉”さんにもよろしくお伝え下さいね、銀時」
ブツンと通話が切れ、ツーツーという虚無な音が鳴る。
俺はもう再び伸びてきた手を跳ね除ける気力もなく、されるがままに抱きしめ慣れながら
「どこの世界に親とダブルデートするやつがいるんだよ!!!!」
と頭を抱えたのだった。