もはや通信障害が発生するのが恒例となったレイシフト。
今回も今回とて、通信障害が発生。
管制室からはレイシフト先が観測できるのに、レイシフト先からは管制室に通信できない状況となっていた。
しかも特異点の性質なのか、聖杯の影響か、管制室からはマスターやマシュだけでなく、サーヴァント一騎一騎、観察する事ができていた。
そんな状況、管制室のモニターに映しだされたバーソロミューが、ふむ、と顎に手を当て、話しだす。
◆◆◆
「つまり私達の誰かが恋人に関する記憶をなくしており、その誰かを当てれば恋の魔女は満足して聖杯を渡してくれるというわけだね」
朝、レイシフトしてきて昼には特異点で悪さをしていた悪党は退治したという、最短記録を更新した特異点。
さぁこれで帰れるぞーとはならず、聖杯を持つ魔女がなぞなぞをだしてきた。
出題文すら伏せられているというなぞなぞを。
バーソロミュー達は昼から情報を集め、夜、宿の一室にマスター集まり、情報を共有。
皆の情報をバーソロミューが精査してまとめ、パーシヴァルが困ったというように眉を八の字にする。
「私にもだが、この中の誰かに恋人がいたという記憶はないな。みんなはどうだい?」
マスターやサーヴァント達が首を横に振る。
バーソロミューは皆を見渡して、大袈裟に肩を竦める。
「おおっぴらに公言していなかったと。わざわざ言う事でもないので、知らなかっただけの可能性もあるが……」
バーソロミューはちらりとマスターを見る。
例えば、同行しているキャスターのメディアとバーソロミューとの接点はあまりない。だから互いに恋人がいたとしてもわざわざ話しはしないだろう。だがマスターにまで話さないかといえば疑問だ。
隠していたのか。そうしなければならなかったのか。他に理由があるのか。
例えばバーソロミューならばと思考の海に沈みかけた時、パーシヴァルが提案する。
「今日はもう遅い。今日は部屋に帰ってそれぞれ記憶を探り、明日、また話し合おう」
誰からの異議はなく、解散となった。
◆◆◆
部屋に戻ったバーソロミューがモニターに映しだされる。
身体を拭こうと考えたのだろう。
濡れタオルを用意し、上服を脱ぎ、バーソロミューの動きが止まる。
ついでにモニターを見ていたダ・ヴィンチは口笛を吹き、職員の数人は頬を少し赤くし、おぉと声をもらす。
服に隠れた部分はわからなかったが、バーソロミューの肩や胸元、腹や背中、腕には鬱血や歯型が残されていた。
『……っな、え』
部屋に一人だと思っているバーソロミューは伊達男の仮面を捨てており、口をわななかせて、困惑した顔でぐるぐる回って全身を見ている。
バーソロミューが下も脱ごうと手をかけ、数人の職員から黄色い悲鳴が上がった時、
『失礼するバーソロミュー! 緊急に話し合いた……い』
ドアが勢いよく開かれた。鍵をかけていたはずなのに、それがないように破壊して。なんなら蝶番のネジも数本飛んでいる。
勢いよく飛び込んできたパーシヴァルは、バーソロミューの身体を見て固まった。バーソロミューも固まった。
先に石化が解けたのはパーシヴァルだ。
壊れたドアを閉めると、自分の上服を消し、その背をバーソロミューに向ける。
そしてまたもやダ・ヴィンチは口笛を吹き、管制室から黄色い声が上がる。
パーシヴァルの背にはしっかりと両肩甲骨に爪痕が残されていた。ついでにバーソロミューほどではないかま肩や胸元にも噛み跡や鬱血も
モニターの中のバーソロミューから『ひゃ』なんて声が鳴って、一分の沈黙。
『……OK。パーシヴァル、状況を整理しよう』
『はい』
『魔女からの問いは忘れた恋人を当てる事。人数は指定していない。一人かもしれないし二人かもしれない』
『三人かもしれないし、もしくは恋人達かも』
『け、結論を急ぐべきではないよ』
『あの夏から私は貴方に想いを伝えてきた。受け取ってくれていたのだね』
『他の可能性もあるだろう! もっと君に相応しいサーヴァントとかだね!』
『そうだね。可能性だけあげればそうなる。だがそれでいいのかい? バーソロミュー』
うぐ、と言葉に詰まるバーソロミュー。
『私が他の誰かと恋人になっていて、それでいいのかい? バーソロミュー』
優しいパーシヴァルの問いかけに、管制室にいる大勢のときめき回路が回る。もちろんバーソロミューも。
『それは…………』
バーソロミューは俯くと、蚊の鳴くような声で『嫌だが』と告げる。
『バーソロミュー!』
嬉しそうなパーシヴァルの声。
バーソロミューの手を取ると、『では確かめよう!』と言った。
『確かめるってどうやってだい?』
『それはもちろん互いの身体で』
『な』
おっとこれはと、ダ・ヴィンチがモニターを暗転させるボタンに手を伸ばせば、爽やかな顔でパーシヴァルが続ける。
『メディア殿には歯型の照合を。あと貴方の爪の間に私の魔力残滓……皮膚が残っているかもなのでそちらも検査してもらおう』
『ま、待ってくれ。まだ早っ、あ、え? そ、そうだね。うん。歯型は一人一人違うと言うからね。魔力残滓も調べてもらおう』
おそらくダ・ヴィンチと同じ勘違いをしたバーソロミューが顔を赤くして頷く。
『パーシヴァル、その前に服を着よう。マスターに目撃されたら教育に悪いからね』
『はい』
服を編み部屋を出ていく二人。
管制室では、あの二人付き合ってたのかぁ、や、パーシヴァル頑張ってたもんねおめでとうーとの祝福の声があふれる。
そんな中、ダ・ヴィンチが発した「しかしバーソロミューのあと、えぐかったね」という言葉はあえて無視され、祝福の言葉に埋もれていった。