守り手互いの手を
「伊作はすごいな」
***
留三郎が実習で大怪我を負い、昨日まで怪我による高熱でかなりうなされていた。今日の明け方になると熱は下がり、会話ができるまでには意識も戻った。もちろん絶対安静であることには変わりないが。
「伊作はすごいな」
「いきなりどうしたの?」
頭の包帯を変え終わると、突然その手を取られて撫でられる。優しく何度も手の甲を往復するように。
「俺たちはいつも伊作に助けられている」
僕の方を見てくる瞳はいつも以上に優しげで少し恥ずかしくなる。
「僕は保健委員だからね。当然さ」
「確かに保健委員だな、お前は。でもお前に知識や技術があるから助けられるんだ。それは一日やそこらで身につくものじゃない。だから保健委員である前に善法寺伊作のすごいところだ」
要は保健委員だからではなく僕個人がすごいと言いたいらしい。
「本当に熱下がった?」
思わず額に手を当ててしまう。
「どうだ?」
「うん。だいぶ下がってるね。昨日よりは」
というよりも平熱だ。
「俺が元から体温高いって知ってるだろう!」
「ごめんごめん。なんかものすごく褒めてくれるからさ、びっくりしちゃって」
「ったく。こうやって怪我をするたびお前が手当てしてもらえる俺たちは幸運だって言いたかっただけだ」
「本当にどうしたの?消費期限切れたものでも食べた?」
「ここ数日食べてないな、保健委員長」
「だよね。食べれるはずない体調だったし。なんらなら今日は重湯だよ」
「嘘だろ……」
これだけ喋れるようになったのだから胃の方もかなり元気になっていることは分かっている。しかし無理は禁物だ。
「いきなり食べたらお腹がびっくりするでしょ!あれだけ重症だったんだから」
「そんな……」
留三郎は武闘派と言われるくらいだからよく鍛錬し、よく食べる。お腹がすくのはかなり辛いのだろう。
「もう少ししたら普通のご飯食べれるからね」
しゅんとしてしまった留三郎がなんだか可愛く見えて、思わず頭を撫でてしまった。それこそ下級生にするみたいに。
「や、やめろよ!痛っててて……」
振り解いた瞬間に傷が痛んだらしい。
「す、すまない留三郎」
「ったく……」
僕の手を留三郎は再び取って撫で始める。頭ではないけれどこれはこれで恥ずかしい。
「なんでまた撫でるの?」
「俺とは違う。けど俺よりずっと強い手だなと思ってな」
「僕は強くないよ」
「強いよ。多分、六年の中で一番」
まっすぐこちらを見つめて言い切る留三郎の瞳には迷いがない。
「留三郎だってそうじゃないか」
今度は僕が留三郎の手を撫で返す。手のひらが厚くて、ところどころ豆もある。
「いつも僕を助けて守ってくれる強い手。いろんなものを直しちゃうすごい手だよ」
何度も穴に落ちた僕を助けてくれた。戦場では怪我人の手当てをする僕の背を守ってくれた。壊れた道具はいつでもささっと修補して、僕たちが道具で怪我をしないようにしてくれる。六年間、頼りになりっぱなしのかっこいい手だ。
「やめろ、くすぐったい」
「やだよ」
そう言って僕は手を撫で続ける。留三郎の怪我が早く治りますようにと祈りを込めて。そんなことじゃ怪我は治らないって知っているけど、傷だらけになっても守り続ける彼の傷が一日でも、いや一秒でも早く治ってほしいから。
「伊作」
「なに?」
「怪我が治ったら一緒に出かけてくれないか?」
「一緒に?どこへ?」
「内緒だ」
「そっか。楽しみにしてるから早く治してね」
「あぁ、任せろ!」