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デビキュラムは怒涛に終わり、気絶するかのように眠ってしまった入間は、サリバンに背負われて会場を後にした。
馬車の中、流れていく景色を見ながら、アスモデウスは思考を巡らせる。
入間を追っていけばそこにはアミィがいた。彼が何かを言いかけたがバリアに阻まれ、焦る入間に戸惑うことなど何一つなかった。炎の温度を上げ一点を重点的に燃やし続け破り攻撃する。入間を喰らわんとするアミィは敵。だが彼が言いかけた事はなんなのか。
気の抜けた着信音、クララからの電話により、それははっきりとはしなかったが、予想はつく。
アスモデウス・アリスは悪魔学校首席だ。
普段から一緒にいる入間とクララに隠れがちだが、座学も実技も申し分ない。位階4という、優れた成績を収めている。今は位階5だが。
そんな頭のいい彼が、気づかないはずはないのだ。
アミィが言いかけた言葉、焦るあまり最大魔力を放出しようとした入間。ひとつの可能性があった。
入間様は、にんげんなのか
空想生物で、羽も尻尾もない、弱い存在。
彼が主君と崇める彼は空想生物学で満点を取った。知らない言葉を教えてくれる。オトモダチもシンユーも。見た事のない花を咲かせ、花火というものを打ち上げる。
魔界は広い、知らないことなどまだまだたくさんある。
それでも。
彼が言うのを躊躇っているのなら、まだ言わないでいるのなら、こちらから尋ねるというのは無粋なこと。
仮に彼が人間だったとしたなら。
襲いたい?
食べたい?
嫌いたい?
離れたい?
どれも答えは否だ。
経験からくるものとはいえ、瞬時に反応し武器を構えた姿。
悪周期中だが王の教室を得るための采配。
収穫祭におけるサバイバル術。
音楽祭における説得と情熱。
どれもこれも入間自身によるものだ。
悪魔らしくない優しさなど、人間であろうと些細なこと。
求める以上の言葉をくれる彼を嫌うなどありえない。
彼を孤独になどさせはしない。たとえ、人間であろうとも。
決闘で負けた者は従属するが習わし。禁忌呪文を唱え、転ばない魔法がかかったままの彼はその身一つでアスモデウスを倒した。そんな彼に仕え、矛となる野望は変わらない。
ごめんとクララの魔術で小さくなった入間が謝る。
悩みに悩んで言いたくてたまらないだろうに、ふんぎりがつかないのだろう。
大丈夫、と小さい身体は本能のまま動いていた。
待てる、と魔術の主と共に断言した。いつかこちらの秘密も共有すると約束して。
いつの日か彼が、胸を張って正体を明かしてくれるまでは。
いつもと変わらないアズでいる、とアスモデウスは誓った。