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    緋赤@iraz

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    緋赤@iraz

    ☆Тайно следовать

    未来if。結婚してる。

    公表 部屋に入れば所狭しと色とりどりの箱が積まれていた。大小様々な箱は形も多岐にわたり、キングサイズのベッドに机の上にまで置かれ、言外に書くな寝るなと言われているようで居心地が悪い。このような置き方しかできないのは、かろうじて足の踏み場を確保するためだろう。実際、扉を開けてすぐ目の前に天井近くまで積まれた山を見れば明白。ルームキーパーの仕事ができすぎたゆえの結果だった。
     長く伸ばして、うなじあたりでひとつ結びにした桃色の髪を揺らし、アスモデウスは頭を抱えた。
     現13冠、魔王の側近であり矛である彼は元13冠色頭のアスモデウス▪️アムリリスの息子だ。当時から彼を羨望で見る貴族達はいたが、新魔王が着任してからはさらに取り入れようとする者が後を立たなくなってしまった。
     優秀な部下やSDが入念にチェックを入れているため、よほどのことが無ければ危害を加えるものはないのだが。それでも、限度は越している。
     こんなことをしても、アスモデウスには1ミリたりとも響かない。彼は魔王を崇拝し、敬愛している。ただ1人彼だけにしか靡かない。何より彼の第1号は自分だと自負しているし、常々口にもだしている。それを知らないからこそ、毎日のように送られてくる訳なのだが。さすがに捌ききれないものを置かれていても、とため息をつく。
     机に置かれた山々に縮小魔術をかけ、金属でできた長方形の箱の中へといれ、引き出しからなんどもめくったために癖がつき膨れ上がったノートを取り出す。学生時代から綴っている、現魔王の歴史書を執筆するためのものだ。
     事細やかに書かれている内容はアスモデウスと、現魔王、さらに親友である女悪魔しか知らない。2人には盛りすぎ、と言われてしまったがアスモデウス自身こうだと信じているため訂正はしない。誤字脱字など、そういった意見は積極的に取り入れるのに、と女悪魔は頬を膨らませていた。
     ある程度書き終え、ノートを定位置に戻してアスモデウスは部屋を一瞥した。色とりどり、大小様々、形色々の箱たちは開けられるのを今か今かと待ち望んでいる。ひとつ息を吐いて彼は立ち上がり、一際高く天井付近にまで積み上げられた山に人差し指を当て、軽く魔力を流した。じゅ、と音を立てて、包装紙が瞬間燃えて跡形もなくなる。同じように積まれた山々に火をつけては燃やしていく。現魔王が見ればもったいない、と言われてしまうかもと思いながらもその手は止めなかった。
     縮小魔術をかけた箱たちも元の大きさに戻して包装紙を燃やせば箱の山となる。懐から懐中時計を出して時間を確認し、部屋の外へと出る。中身を確認するのは夜になりそうだ。
     その足で簡易台所に寄り、ティーポットとカップ、クッキーを盛り付けたお皿に、茶葉と砂糖、ミルクピッチャーをトレーに載せ、ワゴンにセットして魔王の執務室へと向かう。扉向こうからずあああ〜と疲れた声が聞こえてきた。
     ノックをし、どうぞと許可が降りれば失礼しますと扉を開け中へとはいる。ワゴンを入れ終え、静かに扉を閉めて左手は胸にあてお疲れ様ですと一礼する。
    「アズくんもお疲れ様」
     疲れた顔ではあるものの、ひら、と右手を振り魔王は労いの言葉をかけた。
    「あ、今日のはゼリー乗ってる。これ好きなんだよね」
    「収穫があまり芳しくないようでして。ストックしていたものになるのですが」
    「賞味期限近かった?」
    「おそれながら」
     さく、とひとつ手に取りたべ始める魔王を見つつ、アスモデウスはティーカップへ紅茶を入れていく。紅色が徐々に黒くなり、濁った赤色へと変化する。
     仮にも魔界を統べる王に、期限が近いものなどをと咎められそうなものだが現王はその生き方ゆえに、むしろ積極的に出してと懇願する方だった。だからこそ、失礼にあたると謝罪に近い言葉をアスモデウスは発するが、封を開けることはやめないでいる。
     かちゃ、と魔王の右側へティーカップを置く。湯気が彼の鼻腔をくすぐった。
    「入間様、私室への入室許可をいただきたいのですが」
     こくとアスモデウスが紅茶を一口飲んで求める。それに入間は眉を少し下げて
    「え、別にいいのに。勝手に入って」
     と言った。それに桃色の髪の悪魔はかぶりをふる。
    「仮にも魔王様の私室。プライベートにおいそれと参る訳には」
    「そういうところは固いよね……」
     失礼すぎる、と言外に申し出る悪魔にやれやれと入間は肩を上下させた。
     どこかで大雑把、どこかで几帳面な右腕は家系と本来の司るモノにより礼節を重んじる。だからこそ尊重したくはある。けれども、入間としてはそこは抜きにしてほしくもあった。
    「あそこ、僕の部屋だけどアズくんの部屋でもあるんだからね?」
     ごく、と右腕が入れてくれた紅茶を飲み執務室から左側の扉へと目を向ける。その奥、扉を開いた先の渡り廊下の先にある、彼の部屋には2人分の食器、カトラリー、着替え、就寝着、歯ブラシにコップが用意されており、最初から二人で過ごす前提の環境が整えられていた。
    「公私は分けませんと」
    「……何回か破ってるのは、突っ込まない方がいい……?」
    「……はい」
     直接行けるようになっているのは、すぐ休めるようにとの作りだがわざわざ経由しないように、留守の間いじられないように扉は別にある。許可されたルームキーパーやメイドにSDが、魔王の私室兼就寝室を整えられるように。
     時折、我慢ができなく欲望のまま右腕を連れ込んだ前科を思い出しながら入間はそう呟いた。言った手前、同罪の事柄に否定できず、小さく右腕も同意する。
    「また大量の贈り物でも来てるの?」
     何個目かのクッキーを手に取り、入間は尋ねた。
    「足の踏み場がかろうじてあるくらいでした」
     アスモデウスは私室の惨状を思い出しながら、そう答えた。側近に贈られたものがあの量ならば魔界の王たる入間の部屋もただ事では済まないだろうとの見解だ。彼が仕事を再開しているうちに整頓し、十二分に休める環境にしなくては、と入室許可を求めたのだった。
    「やっぱりアズくんはモテるねえ」
    「ほぼ媚びを売ってるだけですよ。魔王様に近づこうとしているだけです」
    「中にはちゃんとしたのあると思うけど」
     見え透いている、とティーカップを持ち上げる動作ひとつに入間は見とれながらそう言い、アスモデウスの呆れ混じりの声にくすりと笑う。
     不審物チェックをくぐった贈り物に、おくびにも隠さずに迷惑だと不機嫌になる彼は決して断りはしない。一度断ったこともあったがこれで最後だからと逆に数が増えたこともある。下手に断るよりも現状維持を取ったがゆえにこの有様だ。悪意のない単なる贈り物は逆に扱いに困る。整理整頓は彼がしてくれるものの、やはり物によっては使わなかったりするので、入間自身もこの攻撃だけはやめてほしいと思うようになった。
     避けられないやさしい攻撃は。
    「……入間様」
     持っていたティーカップを置き、紅色の瞳を伏せてアスモデウスは入間を見据えた。
     長いまつ毛が揺れ、眉尻を下げた彼に入間もティーカップを置き、続きを促す。
    「こちらが贈られてきました」
     ごそ、と懐から小さな正方形の箱を取り出し、クッキーの入ってた皿を避け、入間の目の前に置く。
     白い箱にかぶさっている薄桃色の蓋を外せば、赤色の肌触りの良い生地に包まれた、小さな正方形の箱が顔をのぞかせる。
     意を決して入間がぱかりと蓋を開ければ、そこにはルビーを誂えた指輪が入っていた。
     指輪とアスモデウスを交互に見やり、入間は青く丸い目をさらに大きく見開き丸くする。
    「燃やさないでいるのが大変でした」
     こちらを、と贈られ主が蝋で封された一通の手紙を置く。蝋はすでに外され意味を成していないが、これを使うのは貴族のみ。
     ごくりと唾を飲み込み、手紙を受け取って中身を取り出し目で追う。
     そこにはいかにアスモデウスが良き悪魔だと、彼こそ魔王に、彼と添い遂げたい、彼こそ自身にふさわしい、詮無き言い方をすれば囲いたいということがつらつらと書かれていた。
     言外に現魔王はふさわしくないと書かれており、しかし見せなくてはとアスモデウスは手紙を燃やさずに持ってきた。文のみ、悪意がないからこそ弾かれなかったのだろう。立派な否定文ではあるけれども。
    「返事書くの?」
    「書きません」
    「受け取ったことにならない?」
    「気づかなかったことにすればいいだけです」
     震える手で手紙を封に戻しながら入間は尋ねたが、どうでもいいという風にアスモデウスは贈り物を一瞥する。それは相手が好意的に受け取らないだろうかと、疑問を投げかければにべもなく右腕はあっけらかんと答えた。
    「アズくんがモテるのはいいけど、このモテかたは嫌だなぁ」
     んー、と両腕を組み、入間は瞼を下ろした。完全なプロポーズだ。相手は見ず知らずの貴族。アスモデウス家は元13冠と現13冠がいる高位階の貴族だ。元より高位階の悪魔が住まうところに取り入れようとするのは魔界でも同じ。アスモデウスが貴族会に出たがらないのはその駆け引きが疲れるからだ。嗜みとはいえ、出なくてすむのならばそれにこしたことはない。
     今は魔王と側近ということもあり、顔を出した方が良い繋がりになる場合は積極的にスケジュールに組み込んでいるのだが。そこで見染められたのかもしれない。
    「もう決めたほうがいいのかな」
    「何をですか?」
    「クララ!」
     立ち上がり、かつかつとブーツを鳴らして入間は渡り廊下への扉を開け、声を張り上げた。
     ひょこ、と緑髪の女悪魔が扉を開けて顔を出す。
    「なぁに入間ちー」
    「指輪が入った箱来てない?」
    「あったよー! すっごく綺麗な宝石付いてた!」
     凄いねぇと関心する彼女にわなわなとアスモデウスは震え指をさして叫ぶ。
    「アホクララ! 貴様なぜ入間様の私室に!!」
    「入間ちに頼まれたからに決まってんじゃん。アズアズやっぱりアホじゃんかよー」
    「貴様のがアホだ!」
     2人のやり取りに、くすと笑い入間はクララの元へと歩いていく。その後をアスモデウスは慌てて追いかけた。
    「青い箱に青い宝石がついたやつ。箱もねー水色で綺麗だし蓋もちょっと濃い水色で、何かに使えないかなーって考えてたとこ」
     私室に入れば、乱雑に置かれた数々の箱の山。1箇所だけ包装紙がまとめられてはいるが、どれもビリビリに破かれている。
     クララが手渡した箱は彼女の表現通りで、アスモデウスが持ってきた箱とも類似していた。おそらく同じメーカーの色違いだろう。
    「あ、これお手紙。開けてないよ」
     箱についていた蝋で封された手紙。ぺりり、と開け入間は目で追う。後ろから覗き込むようにしてアスモデウスも目で追った。内容はさきほどの文体を入間に置き換えただけでまったく同じ。違うのは、右腕兼矛であるアスモデウスを称え、それなりに常にいるクララを卑下した内容が追加されていること。卑下する内容に、じゅとアスモデウスが手紙の縁に火をつけた。じじ、と紙は灰へと変わる。
    「燃やしちゃったの?」
    「良くないことが書かれてたからね」
     身長差ゆえに中身を読めなかったクララに、入間は優しく微笑む。嘘は言っていない。彼女が素晴らしい悪魔だとこの主は気づいていない。むしろ悪口を書いたことで受け取られる可能性を無くしている。元より入間に受け取る意思はない。
    「お返事書かなくていいの?」
    「書かないよ」
    「受け取ってくれたーってならない?」
    「気づかなかったですって言えばいいよ」
     先程のアスモデウスとのやり取りと同じように、クララの疑問に入間は答える。それにアスモデウスは少し吹いた。この方は、と笑いを堪える。
    「まあいっか。なんか嫌な感じしたし」
     女悪魔は仕方ないなーと箱の山へと向き直った。その家系能力故に、いいようにされていた彼女は悪意に敏感だ。自身の性格も把握しており突拍子もないことをするものの、大家族の長女たる鋭い感も持ち合わせている。誰かが疲れていれば、不安に思っていれば、その時に必要なものを、事をしてくれる。だからこそ、深く聞いてこない彼女に救われるのだ。
     アスモデウスと入間は顔を見合わせ、クララとともに箱を整理していった。


     3人で片付けたからか、予定より1時間は早く切り上げることが出来た、とアスモデウスが言った。それでも1時間か、と入間は肩を落とす。贈り物は嬉しいがこうも毎回では気も休まらない。必要ないものはクララや13冠などに渡しているが減ることは無い。日に日に増えていく貢物に呆れを通り越して恐怖すら湧き上がる。かつて孫養子として迎えられた大量の贈り物、孫バカが炸裂した店ごと買い取ってしまいそうな大量の服と同じ感覚だ。
     常に危険と隣り合わせの魔界と、かつての世界は似て非なるものの、入間自身は生きるのに必死でどちらも変わりはしなかった。違うのは彼自身が悪魔ではなく言語も異なることだけ。むしろ衣食住が安定した魔界の方が息もしやすくあるほど。
     だからこそ、大量の贈り物はご遠慮願いたくなる。
    「アズアズも指輪貰ったの?」
    「あ、ああ……」
     こと、とベッドのサイドテーブルにアスモデウスが先程の赤い箱を置きクララが開けて覗いていた。
    「綺麗……だけどなんかもやっとする」
     彼女はつん、と箱をつつく。固定されているため指輪は動かないが、箱は数ミリずれた。
    「なんか結婚指輪みたい」
     男二人、顔を見合わせる。
    「顔も知らない人と結婚するのって、貴族だと当たり前?」
     ずい、とクララはアスモデウスを見上げる。
    「な、中にはいるだろうな……。見合いや許嫁は家業によるが」
    「それでも写真とか見るよね?」
    「顔合わせはあるな」
    「お手紙だけで写真はないんだよね?」
    「入ってなかったな」
    「そういうの、やっぱ失礼だと思う! からこの指輪は返そ!」
     ウァラク家はガヤガヤ森に住まう一般悪魔だ。高位階のアスモデウス家とサリバン家とは違い、貴族間のやりとりも義務も発生しない。その疑問に答えていけば、ふんっと怒りを露わにして持ち主へと送り返そうと提案されてしまった。
     入間もアスモデウスも目からウロコが落ち、その手があったかと笑いだした。
     受け取れるものは受け取る主義の入間。
     貴族として嗜みとして受けとることこそが礼儀だと学んでいるアスモデウス。
     突き返すなど、思いつきもしなかった。
    「っはー。やっぱクララは天才だねぇ」
    「ホント!?」
    「この時ばかりは認めてやろう」
    「え、アズアズなんか変……」
    「貴様素直に褒めてやれば!」
     笑ったわらったと、まなじりの涙を拭い入間はぽんとクララの頭に手を置く。両腕を組んでアスモデウスが同意すれば彼女は一歩下がる。それに目くじらを立てればまあまあと入間がたしなめた。
    「やっぱ言おうか。ただ返すだけはつまらないし」
     にや、と入間が不敵な笑みを浮かべ悪魔二人はそれに同意した。彼が悪戯する時は大抵面白いことが起きる。悪魔は、面白いことには全力だ。


     貴族会が開かれたのはそれから6日後。魔界中のありとあらゆる貴族が集まり、挨拶や談笑、会合を楽しみ出会いを求めて動き回ったりしていた。
     壇上に用意された椅子に入間は腰を下ろし、各々楽しんでる悪魔たちを眺めていた。これから彼らがどんな風に表情を変えるのか、楽しみで仕方がない。
     右隣にはSDのオペラが、左隣にはぱたぱたと赤く長いしっぽを振るクララが傍に控えている。
     山盛りに乗せられたお皿を持って、アスモデウスが入間へと差し出した。
    「ありがとう」
    「まだ足りないようでしたら追加しますので」
     受け取り、添えられたカトラリーを使って吸い込むように入間は食べていく。腹が減っては戦はできぬ、といつものようにしておく。
     ぽん、とクララがドレスに縫い付けられた顔のあるポケットを叩き、小さな純白のローテーブルを取り出す。その上に、オペラがレースのテーブルクロスを掛け、赤と青の指輪が入った、薄桃色と水色の大箱を置いた。
     何時間かしたのち、楽団が音を奏で始める。わっ、と貴族達は音のする方へと顔を向けた。ラッパを奏でる悪魔へと視線が集まる。
     軽快でそれでいて重いのに軽い音をが会場に響き渡る。ピアノの戦慄が舞踏へと誘い、それぞれパートナーと向き合って踊り出す。パートナーがいない者は目をつけていた者へと我先に声をかけ、手を取り合い、振られ、歓喜も悔し涙もそれぞれ流す。
     アスモデウスは片膝をついてクララへと手のひらを向けた。何度目かの貴族会ゆえに彼女ももうルールは把握している。彼の手を取り、会場へと踊りでる。
     ほぼアスモデウスに任せる形ではあるが、元より美女と評されるかんばせの彼女に周りの女悪魔達は嫉妬の目線を送る。珍獣と呼ばれる彼女が憧れのアスモデウスと踊っているのだ、足をひっかけようとしては失敗する。
     羽を出して飛ぶ場面では、彼女の手を離し相手は終わりだと行動で示した。羽を出すのは絶対ではない。
     コツ、とブーツが鳴り入間が椅子から立ち上がり小さな壇上から降り手を差し出す。クララがスカートの端を持って、片足を一歩下げて一礼し、その手を取り魔王と女悪魔が曲に合わせて踊り出す。
     先程彼女の足をひっかけようとした女悪魔達の元へ赴き、しーっと口元に人差し指を当ててにこりと笑う。それだけで彼女たちはひゅっと息を飲んだ。
     笑った顔とは裏腹に、彼が纏うのは嫌悪の気配だ。魔王のお気に入りに手を出せばどうなるかなど分からない。これは牽制に他ならない。
     彼の行動に、セキリュティを兼ねた護衛を務めるこの場にいる現13冠達は呆れていた。
     ラッパを吹くプルソン、ピアノを奏でるサブノックも目線でやれやれと会話する。現魔王は嫉妬深い。
     むしろあれぐらい積極的になれ、とプルソンは扉付近にいるリードへと視線を投げた。気づいた彼は魔通信でできるならやってると答え、隣のジャズが肩を震わして笑うのを堪えていた。
     曲が終わり、回りの女悪魔達は羽を広げて飛び立つ。魔王のパートナーだけは飛び立たなかったが、中には飛ばずにいる者もいるためそこまでは目立たなかった。
     一礼してクララは男たちに囲まれている長身の女性の元へと速足で向かっていった。彼女とは学生時代からの良き仲間だ。それを見送り、入間は玉座へと戻る。
     一息つき、オペラからワイングラスを受け取って喉を潤す。中身はノンアルコールのぶどうジュースだ。これから行うことに酒の力は借りたくなかった。
     演奏し終えたサブノックとプルソンと会話しているアスモデウスを見やり、入間はぐるっと会場を見渡す。老若男女角も種族も様々な悪魔達が一堂に会している。ダンスにより急接近したもの、逸れてしまったもの、ただただ話に没頭したり食事したりするもの、かつて参加した貴族会となんら変わりはない。ただまったく同じではない。ここにいるのが魔王となった入間と、かつての級友達が配下となっている事だ。そして。
     襟高の黒いマントを翻し、魔王が玉座から大広間の中心へと歩いていく。周りの悪魔達は邪魔にならないよう、彼に道をあけ、中心を開ける。広々とした空間に、青い髪が揺れ、髪と同じ色の瞳が回りを見渡し、ひとつにとどまる。
     あらかじめ決まっていたとでもいうように、白と金の意匠が誂えられたドレスロープが躍り出る。
     角と口元を隠し、右手を胸に当てて片膝をついたアスモデウスに手を差し出し受け取らせる。そして彼を立たせれば今度は魔王が片膝をつく。
     ざわ、とどよめきが起こるも静かに奏で始められた音に周りは口をつぐんだ。
     片膝をついてまっすぐ右腕を見据え手を差し出す魔王の手に、重ねて彼が立ち上がるのを待ち、腰に手を回されたのを確認して踊りだす。
     同性同士で踊ることは少なくはない。だが、この貴族会であえてしようとする者はいない。少ない女悪魔と仲良くなるチャンスをみすみすと逃す手はないのだ。
     それでも先ほどまで、緑髪の女悪魔と踊っていた魔王とその右腕が互いの手を取り合い、躍り出ている。互いを補うように、ステップを踏む。
     黒と白が混ざり合い、しかし邪魔にはならず青い髪と桃色の髪も翻り、談笑していた悪魔達も会話をやめ、誰もが視線を奪われていた。
     彼らを止めようとする不届きものは、いない。
     重低音から軽快な音へと変わり、アスモデウスが黒く大きな翼を広げ、高く飛び上がる。軽く入間の足が浮かび上がるが、すぐさま手をひっぱりアスモデウスと位置を交換しとっと足をつく。演奏が終わると同時に拍手がおこり、二人は手を放さずに空いた方を胸にあて頭を下げる。
     ダンスは成功だ。
    「お集まりいただき、ありがとうございます」
     オペラからマイクを受け取り、入間は声をかける。
    「いくつか、お知らせしたいことがあって。えぇと、まずたくさんの贈り物をありがとうございます。でも毎回だと整頓するのが大変なので無理はなさらないようにお願いします」
     ごく、と唾を飲み込む。これから伝えるのは重要な事だがいざとなれば緊張する。魔王が魔界の絶対的存在ではあるものの、反発がないというのも絶対的にありえない。そうでなければ反勢力など生まれないのだから。
     これから伝える事に、誰もが祝福するとは限らない。もしかしたらも含め、釘を刺しておかなくてはならないのだ。その為の言葉たちは入念に用意した。
     ふうと息を吐き、入間は会場を見据える。
    「この場を借りて、みなさんにお伝えしたいことがあります」
     魔王の言葉に、誰もが固唾を飲んで見守り、好奇心旺盛な悪魔達の視線が1点に集まる。
    「僕と――アスモデウス卿は、互いを相手として、婚儀を済ませてます。隠していた訳ではありませんが、頃合いかと思い公表させていただきました」
     ゆっくり、はっきりとした声がマイク越しとはいえ、静まり返った会場に響き渡る。ダンスのパートナーとして、魔王はその右腕と軽やかに踊った。立ち位置を変えて締めたその踊りは誰もが見とれるほどに鮮やかだった。彼の相手は右腕であるアスモデウスでしかいないと知らしめるほどに。
     そのアスモデウスが、魔王入間の配偶者。
     ふらりと何名かの女悪魔達がくずおれ、周りが慌てて支え出す。食事をしていた悪魔達は震える手でシャンパングラスに入った水をごくりと飲んだ。ダンスを終えて見入っていた残りの悪魔達は目と口を開け、瞬きも閉じることすらも忘れ魔王とその右腕を凝視する。
    「なので、そういった物は、これからはできるだけ控えて頂けると幸いです」
     コツ、と入間が真っ直ぐに立ち、青い目を細め入口にいるジャズを見据えた。視線に気づいたジャズはするりとその場を離れる。
     入間の青い目がそのままオペラへ、ローテーブルに置かれた2つの箱へと注がれる。それだけでジャズは察した。にやりと笑い、青い目が離れたことを確認してから懐へと入れる。一瞬の出来事に気づいた者はいないだろう。
    「そういう事なので、僕たちへの申し出はお気持ちは嬉しいのですが、すべてお断りさせていただきます」
     燦然とした態度はさすがと言うべきか。くずおれる悪魔達は年齢も性別も増え、なかにはそのまま倒れこむ者まで出てきた。その者達は魔界塔に務める配下がすみやかに担架に乗せて運んで行く。予め分かっていたかのように。
     とある悪魔達は懐に違和感を感じ、探ればそれは入間とアスモデウスに贈ったはずの指輪が入った箱だった。いつの間に、と慌て出す。入口の警報へと戻ったジャズは肩を震わし、反対にいるリードに目線で咎められた。
    「最後に」
     すっと青い双眸が細められ、会場全体を見渡す。だがただ一点だけ、視線のみが水色の箱を持った悪魔へと注がれ、決して逃がしはしないという怒りが悪魔へと伝わる。
    「アスモデウス卿及び我らが盟友ウァラク▪️クララ、及び13冠への叱責は喜んで頂戴致します。が、言葉選びはくれぐれも慎重に願います」
     ズンッと水色の箱と赤い箱を持った悪魔達は身体が重くなり、心の臓を射抜かれたかに思った。実際には矢どころかどこも怪我はしていないのだが。
     低音の声が重く、重く、会場内にのしかかる。魔王の琴線に触れたと誰もが気づいた。そしてその愚か者達へと心の中で手を振る。
     誰よりも慈愛に満ち、受け止め、できうる限り望みを叶えようとしてくれる、優しい魔王がそこにはいない。狩人の目をした支配者だ。
     カツ、とブーツを鳴らしアスモデウスが魔王の前へと跪く。右手を胸に当て、左手は拳を作って背中へと回す。服に隠れてはいるが、背の羽管が見えるほどに頭を下げれば、さらりと長い桃色の髪束が落ち、会場内が再びどよめき声で埋まった。
     羽管が見える位置。それは悪魔にとって重要な器官を相手に捧げる意味を持つ。学生時代から続く献身的な魔王の右腕がそれを晒す意味。参加者達が知らないはずはない。
    「アスモデウス▪️アリス、此度魔王入間様へこの身、魂、この先の未来永劫、魔王様の右腕として、矛としてお仕えすると改めて誓わさせていただきます」
     凛とした声が会場に響き渡った。マイク越しではないものの、はっきりとした言葉は集まった悪魔たちの耳に浸透していく。
     跪いたアスモデウスの前に入間が立ち、彼に手を差し伸べる。それに顔を上げて青い目を真っ直ぐに見据え
    「無論、魂の伴侶としても」
     と言った。
     手を取り、立ち上がった彼に入間は満足げに頷いた。それにどこからか拍手が起き出す。それは入間とアスモデウスに対する称賛だ。先程のダンスと共に反対意見などないと肯定したも同然。
     場の空気に言い出せないだけで、是としない者は幾人かいるのだが。そういった雰囲気を持つ悪魔達をアスモデウスは一瞥しすぐさま入間へと向き合う。
    「それでは時間までどうぞお楽しみください」
     右手を上げ、魔王が散開の合図を送る。彼の中指に嵌められた金の指輪がシャンデリアの光を受け輝く。細く、黒いピアノ線が静かに彼とアスモデウスを取り巻いた。
     
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