「寂しい」なんて思わないけど ブレイブ・エンタテインメントの事務所が入るビル、一階に向かうエレベーターの中。現在の時刻は午後十時三分。剛士は小さく舌打ちをした。
『あぁ、もうこんな時間か。タクシー呼ぶから、剛士は先帰れ』
事務所内の会議室で行われていた、今後の仕事についての打合せは、修二の一言で一旦終了となった。
そのこと自体は、別に構わない。ブレイブ・エンタテインメントは、労働基準法遵守の、きちんとした会社だ。今までだって、午後十時になれば、帰宅命令が出ていた。
剛士を苛立たせているのは、健十だけが、その場に残るよう言われたことだった。この間高校を卒業した健十は、晴れて社会人となり、深夜の仕事にも制限が無くなった。つい先日までは剛士と同じ立場だったのに、急に健十だけが大人扱いされるのは、頭ではわかっていてもどうにも面白くない。
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