あさのそら 夢中になっていた作業にひと段落ついて、ふとパソコンから顔を上げる。広いリビングの、剛士の座っている場所とは反対側。電気のついていない薄暗いスペースに、カーテンの隙間から明るい光が差し込んでいた。
「やべ、もうこんな時間か……」
画面右下の表示を確かめれば、間もなく日が昇るような時刻だ。
昨夜は三人で、ライブに向けて曲の編集やアレンジについて話し合いをしていた。健十と悠太は、日付が変わる頃にそれぞれ自室へと戻っていったが、剛士は一人残って作業をしていたのだ。もう少し、あとこれだけ、と思いながら浮かんでくるアイデアを形にしていたら、いつの間にか朝になっていたらしい。
立ち上がってぐっと伸びをすると、あちこちの関節から音が鳴る。何時間もほぼ同じ姿勢で座っていたせいで、身体が固まりきっていた。
大きな窓に近づいて、カーテンを開ける。ジャッ、という小気味良い音が静かな空間に響いた。
「うわ……すげぇ」
窓の外の色彩に、剛士は思わず息を飲んだ。真っ先に目に飛び込んできたのは、眩しく輝く雲の波。その金色から地上に向かって、オレンジ色、そして鮮やかな赤へと少しずつ色が濃くなっている。視線を上げれば、空は青に近い色へと変わっていき、頭上にはまだ夜の気配が残っている。
活動している人は少ないだろうこの時間。夜通しの作業の疲れも忘れさせてくれるような景色に、なんだか得をしたような気持ちになる。このまま良い天気になるのだろうか。そんなことを思いながら、剛士はしばらく朝焼けを眺めていた。
ガタン。突然聞こえた物音に、びくりと身を縮める。バサバサ、コトン。続けて様々な音が聞こえてきたのは、健十の部屋からだ。身だしなみに気を遣う健十は、家を出るよりもかなり早く起きる。スキンケアにヘアセットにと、剛士にしてみれば無駄とも思えるほど時間をかけるのだ。今日は午前中から生放送に出演するのだと言っていただろうか。
健十と顔を合わせれば、夜更かしは肌に悪いとかなんとか、きっとまた小言が始まる。朝一番からそんなのはごめんだと、カーテンをそっと閉めてリビングを後にする。自分の仕事は昼前からだったはずだ。仮眠くらいは取れるだろう。剛士はぺたぺたと廊下を歩きながら、一気に襲ってきた眠気に大きな欠伸をするのだった。