高校野球あいかね 甲子園出場がかかった決勝戦。9回裏2アウト、天気はあいにくの雨。
マウンド上にはエースの金城。ここまで投げ抜いてきた疲れか雨の影響か、僅かに手元が狂う。コントロールミスを相手バッターは見逃さず、打ったボールはレフト方向へ。
「愛染!」
ボールの行方を追って振り向いた金城が叫んだ。
ライン際、ファールになるかもしれない。もしフェアでも、2アウトからのシングルヒットだ。金城は次のアウトを確実に取るだろう。怪我だって怖いし、無理する必要もない。そう思うのに、気づいたら、愛染の足は勝手に動き出していて。
「ああもう!」
前髪が濡れるのも、顔やユニホームが汚れるのも、大嫌いだけど。愛染は地面を蹴って、目一杯左腕を伸ばす。
白球の行方を、球場中が固唾を飲んで見守った。
「ーーアウトォッ!!」
拳を握った審判の声が響き、ゆっくりと立ち上がった愛染が、左手のグラブを掲げてみせる。その中には、しっかりとボールが収まっていた。
グラウンドは大歓声に包まれ、チームメイトたちが愛染の元へと駆け寄ってくる。泥だらけの阿修に飛びつかれても、今だけは気にならない。愛染自身も、似たような状態だ。
仲間たちが次々と言葉をかけてくる中、金城と目が合った。愛染は思い切り力を込めて、ハイタッチを交わす。高らかに鳴った音と、びりびりと手に残る痛み、そして金城の笑顔は、忘れられそうにない。