Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    E7vFChKOmn67988

    @E7vFChKOmn67988

    性的なものを掲載しています。18歳未満の方は閲覧不可

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 32

    E7vFChKOmn67988

    ☆quiet follow

    館長🟥×🐙🟩 4.5話

    #館長とタコ

    いつかの記憶海の中は、キラキラとした日差しが柔らかく差し込む青い世界が広がっている。
    そこでは一人の若い人魚が、赤く煌めく鱗に覆われた尾びれで水を蹴って、風のように早く早く泳いでいた。周りの景色が残像となって後を引くほどの速さ、尾びれで水をかけばかくほど速度が上がり、どこまでもどこまでも泳いでいける、そんな万能感に満たされている泳ぎ方だ。

    怖いものなど何も無い。高鳴る心臓の音がただただ心地よい。水面に向かって全力で飛び込めばその勢いのまま海上へ飛び上がり、大気の中で一瞬の浮遊感を楽しめた。その刹那の浮遊のうちに天を仰ぐ。海と同じ青。あぶくのような雲が散らされた空。我々人魚が決して泳ぐことの叶わない、もう一つの“海”だ。大気の乾いた波が身を撫でるが、大気は海と異なり生き物を抱擁しない。つれなく自身を海へと叩き落とし、敢え無く海へ逆戻りする。
    悔しいものだ。この海で自分より早く泳げる魚などいないのに、その己ですら大気は支えてくれはしない。空を泳ぐ鳥だけをその身で抱擁するのが空という存在だ。

    若い人魚は腕を広げたまま、落ちるに任せて沈んでいく。魚は海だけ、鳥は空だけ。交わることのないこの2つの世界を、神はどうして繋げたのか。たどり着くことの出来ない場所があるのが悔しくて、何度も何度も海を蹴っては大気に身を翻した。しかし今のところは全戦全敗。思わず苦笑いを浮かべる。
    やがて背中に海底の砂が触れると、水底から海面越しに空を眺めた。いつかたどり着きたい空。そしてその先。
    …いつだったか誰か言っていた。空の先にはさらに“広大な海”が広がっていて、実はこの世の全てのものがそこに浮かんでいるのだと。夜に煌めく星も、夜空を走る彗星も、その“広大な海”すなわち宇宙に浮かぶものだとその時聞いた。
    行ってみたい。この目で見てみたい。自分のあだ名の由来となった「赤い星」を。いつか必ず空へ飛び立つ、その最初の人魚になってみせると、「赤い星」は改めて決意した。

    (ーーすごいヒトだな…)

    不意に、テレパシーが届いた。驚いて「赤い星」は上体を起こし、周りを見回した。随分遠くまで泳いで来たのに、仲間の人魚が近くにいるというのだろうか。
    いくら見ても周りに魚影はなく、砂と岩、そこに生える海藻だけが在った。おかしい、あんなにハッキリ聞こえたと言うことは近くにいるはずなのに。

    (ーー誰かいるのか?)

    「赤い星」は尋ねた。返事はない。話しかけたのはそちらだというのに無視するとは失礼なやつだ。
    ふと周りの岩で違和感を感じる箇所を見つけた。一見ただの岩だが、よく見れば妙に盛り上がった歪な形をしている。生えている海藻も細く密集していて、どちらかというと人魚の体毛に近い。もしかしてと思い、「赤い星」は素早くその岩に近づくと両手で思い切り掴んだ。

    (わ!離してください!)

    突如頭に響く大きなテレパシー。瞬間目の前が暗くなる。何か撒かれたようだ。驚きはしたが、手は離さない。掴んだものをひっぱり出すように後ろへ泳ぎ下がると、悲鳴のように(やめてくれ!離してくれ!)と静止の声が響いた。黒いモヤが流れ、視界が回復すると、「赤い星」は驚きに目を見開いた。
    そこにいたのは、尾が8つに分かれた見たことない姿の人魚だった。
    人の形をした上半身は同じだが、耳は尖り、手の先の皮膚は人のそれとは異なる。下半身には鱗がなく、尾の先にも鰭がない。掴んでいる感触から、尾は肉厚だが柔らかく、まるで骨が入っていないようだ。顔を見上げると、翡翠色の瞳が困惑をたたえてこちらを見つめ返していた。大声を出したことで高揚しているのか、真っ赤な顔をしている。

    (は、離してください、貴方が握りしめているそれは、私の腕なんです)

    相手のことを尋ねるより先に相手が、もはや懇願するように話しかけてきた。その言葉に驚き、慌てて手を離すと、相手はにゅるにゅると尾を巻取り、膜の内側に隠してしまった。そこでやっと一息ついたようで、エラから大きく水を噴いた。そして少し恨めしそうに「赤い星」を見る。その視線に少し胸が高鳴るのを「赤い星」は感じていた。海底に沈んでいた宝物を見つけたような期待と高揚感だった。深呼吸で落ち着かせてから、「赤い星」は不思議な人魚に問うた。キミは誰で、何処から来たのか、と。

    (…私はタコの人魚で幽霊と呼ばれています。貴方の泳ぐ姿に惹かれて、貴方を見ていました)

    ちらりと「赤い星」を上目遣いで見つめ、照れ隠しに水灰色の体毛を撫でつけながら、「幽霊」はゆっくり自己紹介を始めた。
    これが、「赤い星」と「灰色の幽霊」の出会いだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💚❤💚❤💚💚🌊🌊🌊🌊🌊🐙🌊🌊🌊🌊🐡🐲🐙❤💚❤💚🐙❤💖❤💚💯💖💚🐙❤💚👏👏👏💖❤💚🐙🙏🙏🐙💯👏💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💞💘🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works