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    saku8

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    お題No.123より「手を繋ぐ」をお借りしました。
    (20220129)
    🇦🇷のアラサー及岩。

     夜の闇の中に、吐き出した白い息が伸びていった。アルゼンチンで暮らすようになって初めての冬を、岩ちゃんはどこか楽しそうに過ごしている。シーズンの合間の休みに、たまには二人でバルにでも行こうかと出かけたら、珍しく岩ちゃんがワインに酔ってしまった。サンフアンで作られたワインは、少しスパイシーながらも濃厚で美味しかったらしく、グラスを二杯あけただけで鼻歌を歌ったりなんかして、上機嫌だ。
     店の外に出てからはさらに上機嫌で、俺がいつもついつい歌ってしまう、地元の遊園地のテーマソングを鼻歌で歌ったり、替え歌を歌ったりしている。
    「やんやんややーん……やまの~公衆便所に……」
    「ちょっと岩ちゃん、そこから先はストップ! ストップ!!」
     いくら日本語がわからない人がほとんどとはいえ、地元のそんな替え歌を何もアルゼンチンの、片田舎のサンフアンでお披露目しなくても良いと思うから、俺は慌てて岩ちゃんの口を両手で塞いだ。後ろから抱きつくような格好になった俺の肩に、岩ちゃんは後頭部をのせてきた。ツンツンした黒髪が顔を掠めるから、少しくすぐったい。黒い瞳がちろっと俺を見つめる。酔っているからか、瞳は潤んでいて、目尻が赤らんでいる。両手を外してあげれば、
    「なあ、おいかわ~」
     ちょっと舌ったらずに甘えたように俺を呼ぶ。
    「なあに、岩ちゃん」
     その様子がかわいくて、俺は岩ちゃんの髪を優しく撫でる。
    「寒くねぇか?」
     体温の高い岩ちゃんがそんなことを言うなんて、と、俺は慌ててジャケットのポケットを探った。いつも入れている、いつかに岩ちゃんに貰ったミントグリーンの手袋を取り出して差し出すと、
    「ちげぇよ」
     って、唇をちょんと尖らせた。
    「寒いんじゃないの?」
    「さみいよ?」
    「だから、手袋。いつも俺にはちゃんとしろって言うじゃん」
    「ちげぇの!」
     岩ちゃんが何を違うと言っているのかわからなくて首を傾げていると、少し苛立ったみたいに、
    「だーかーらー!!」
     って言うと、俺の顔の前に右の掌を差し出した。
     掌を振って、またちろりと俺に視線を寄こす。
    「さみぃな?」
     問いかけられたから、岩ちゃんの掌に俺の指を絡めて握る。
    「こーゆーこと?」
     聞けば、満足げに、んっふふって笑う。その笑顔があまりにもかわいすぎたから、俺は心臓を撃ち抜かれる。んぐぐって呻き声が漏れた。
    「外で手を繋ぐなんて、珍しいね」
     高校生の頃は、家の近くでも手を繋ぐことを許してはくれなかったし、こっちで過ごすようになってオープンな付き合いをしている同性のパートナーを見ることが増えても、人前では照れるのか手を繋ぐことはなかった。お酒が入ってるからかなって聞いてみれば、予想もしなかった答えが返ってきた。
    「……繋ぎてぇなって、思ってる。いつも」
     お酒のせいかいつも以上に高めの体温が、俺の掌を──そして、胸の真ん中をあたためていく。じわりと。
    「なんでおまえが手を繋ぎたがるのか、最初はわかんなかったけど」
     俺の手を強く握り返しながら、岩ちゃんが笑う。
    「手袋いらねぇなって、最近は思う。あると、感覚鈍るべ?」
     そう言って笑った顔が、あまりにもかわいくてかわいすぎて。繋いだ手に広がる岩ちゃんの体温が、俺のことを好きだと伝えてくれていて。
     こんな風な冬の夜も悪くないなって思っていたら、岩ちゃんが鼻歌まじりに幸せそうに笑って言った。
    「こんな夜も、いいよな」

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