Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    saku8

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    saku8

    ☆quiet follow

    お題No.95より「外は雨」「マッキーの粋な計らい」をお借りしました。
    (20210626)
    マッキー視点。
    大人及岩。

     久しぶりにあいつらが戻ってくるって聞いたから、それじゃあ宮城で会おうぜって言ったのは俺だよ。俺だけど。まさか、待ち合わせ場所に現れたあいつらが、ひっっっじょーに!不機嫌だとは思いもしないだろ? いくらビデオ通話で定期的に顔を見ているとは言え、久しぶりに会うチームメイト(元)に対して笑顔を取り繕うこともしないだなんて、そんなことある?
     ……いや、あるか。こいつらならそうだな。だいたい俺たちの高校三年間+αを考えたら、そんな態度に出たところでおかしくはない。年を重ねた分だけこいつらも大人になっただろうとか、そんなの全然甘かった。甘かったよ松川……! 早く仕事終わってここに来てくれ……!
     俺は季節限定のフラペチーノの太いストローを思わず奥歯で噛みしめる。
     向かい側に座る阿吽──今やアルゼンチン代表として国際試合には必ず出場している俺たちの主将・及川と、日本代表のアスレチックトレーナーとして実績を残しながらもアルゼンチンに渡った俺たちの副主将の岩泉のことだ。不機嫌なのはたぶん喧嘩かなんかしたからだと思うんだけど、それでも並んで座るあたり、こいつららしいというかなんというか。ていうか俺からしたら、今さらキミたち一体何で喧嘩なんかするんだよってくらいに付き合いも長けりゃお互いのことも知り尽くしてるくせに、ねぇ。聞いたところで絶対にすっっっげぇつまらないことが原因だったりするんだろうから、聞かないけど。どうせ痴話喧嘩だろうから、絶対に聞かないけど! 聞かないけど、このなんとも言えない不穏な空気はちょっとばかししんどいな。松川早く来てくれ……!!
     ズゴッと音が鳴って、いつの間にか季節限定のフラペチーノを飲みきってしまったことに気づく。この味、今季初めて飲むから楽しみにしてたんだけどなあ。しょぼくれて、ふうっとため息をつくと、及川がこちらを見た。岩泉はそっぽを向いているから、「なんかよく知らんが謝れよ」って視線を送ってみるものの、及川の瞳と表情は「俺が悪いんじゃないし!」と語っている。いや、高校生の時もたいがいおまえが悪かったパターンばっかりだったと思うぞ。
     ガタリと音を立てて及川が立ち上がった。
    「どこ行くんだよ」
     岩泉は及川の方は見ずに、仏頂面のまま問いかける。
    「トイレですー」
     自分の方を向かない岩泉に、及川はベーッと舌を出してみせた。小学生かおまえは……。トイレに向かう及川の背中が小さくなると、俺の方に向き直った岩泉は、バツが悪そうな表情で「悪ぃ」と呟くと、頭を下げた。
    「久しぶりだってのに、悪ぃな」
    「そう思うなら、おまえらどっちかさっさと謝りなさいよ。俺が何度心の中で松川に助けを求めたか! マツえも~ん!」
     冗談めかしてそう言うと、岩泉は表情を緩める。そうそう、俺はそういう表情のおまえらに会いたかったわけよ。
    「マツえもん、四次元ポケットから何出してくれんだろうな?」
    「お清めの塩とかじゃねぇ?」
     そう言って二人で笑っていると、店の窓ガラスに何かが当たる音がする。小さかったその音はしだいに大きくなって、雨足が強まったことを教えてくれていた。
    「今日って雨降る予報だった?」
    「折り畳み持ってきてるぞ」
     小さく呟くと、岩泉はデイパックから折り畳み傘を取り出した。
    「さすが岩泉! 準備万端ー!!」
     思わず拍手をしてしまう。おっと違う、目的はそうじゃなかった。テーブルに置かれた折り畳み傘を脇によけながら、俺は岩泉をジッと見つめた。
    「及川が戻ってきたらさ、仲直りしてね?」
     そう言うと、岩泉は唇を引き結ぶ。
    「俺が悪いんじゃねーし」
     ぷいっとそっぽを向くその表情は、小学生のようだった。俺にはすぐに謝れるのに、どうして及川には素直に謝れないんだろうなあ。及川だから、なんだろうけど。お互いにガキっぽいことしてても許せる仲だからなんだろうけど。
     そうこうしてる内に、及川が戻ってくる。俺は何の音沙汰もないスマホをわざとらしく手に取った。
    「なあ、松川そろそろ仕事終わるみたいなんだけど」
     さも、今さっき連絡がきたように。
    「あいつ、傘持ってないみたいなんだよね。久しぶりに会う松川のためにさ、そこのコンビニで傘買ってきてくんない? ──おまえらで」
    「おまえらで」という言葉に、ちょっと圧をかける。案の定、及川も岩泉も憮然とした表情を浮かべている。
    「岩泉が折り畳み傘持ってきてるし。久しぶりに会う俺のお願い、きいてくれるよねぇ? 素敵な表情を会うなり見せてくれたわけだし」
     ニッコリと笑ってみせる俺に、及川も岩泉も、うっと押し黙った。悪いと思ってんなら、さっさと仲直りしろっつうの。
    「あと、二人で選んでもらったシュークリームとかも食べたいよなあ」
     窓の外に視線を向けると、コンビニの数軒隣の昔からあるケーキ屋の看板が目に入る。高校生の時にも、こいつらにシュークリームを買ってきてもらったことのある店だ。
    「相合い傘で、よろしくね」
     テーブルの上の、岩泉の折り畳み傘を二人に向かって差し出すと、同時にふうっとため息をついてから、
    「「行くぞ」」
     って、やっぱり同じタイミングで呟いた。本当に、そういうとこが“阿吽の呼吸”だなって思うわけなんだけど。
     店を出た二人は、でかい図体を寄せ合って小さな傘に並んで入っている。ジッと見つめていると、及川が岩泉の耳元で何かを囁いて、それから、岩泉も及川に何かを囁いた。そうして二人でふはって笑って、頰に一瞬だけキスをしちゃったりなんかして。まわりの人があんまり見ていないのを良いことに、さっきまでの不機嫌さがなんだったんだよってくらいに、甘くて柔らかい雰囲気になった。
     そうそう。おまえらはやっぱり二人並んでそうやって、笑ってんのが一番なんだよ。
     シュークリームと傘を買って戻ってきたあいつらを、どんな風にからかってやろうかなって考えながら、俺は自分の鞄の中の折り畳み傘を、できるだけ見えない場所に押しやった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works