寒い。ひとつ呟いて息を吐く。目の前の空気が白く染まり、すぐに散った。
視線を上へ向ける。分厚い雲に覆われた空は、たった今こぼした吐息のように白く濁っていて、その先がまったく見えない。高い、空。例え空が澄んでいても、ずっとのぼって行ったとしても果てがない、本物の空。
初めて訪れた地球は、美しく広大であり、同時にとても過酷な場所だった。常に温暖な環境が整うスペースコロニーと違い、土地や天候によってその表情を変え、時に、そこで生きている者の命すら奪う。今日の寒さだって、およそ人の生きる環境ではない。そう思ったのだが——目の前の景色は驚くほど賑やかで、活気にあふれていた。
地球上のとある集落の大通り。石造りの家屋が建ち並ぶ間に、多くの屋台が軒を連ねていた。張り出した庇に規則性はなく、提灯がぶら下がっているもの、暖簾がかかっているもの、それぞれ形状や色がバラバラだ。売っているものも様々で、果実や野菜、香辛料などの他に軽食や酒なども置いてある。かと思えば衣料品や金物、果ては燃料まで取り扱っている店もあるというから、その無秩序さにはむしろ感心を覚えるほどだった。
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