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    poppokyo

    @poppokyo

    ネタをポイポイします。

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    POIPOI 3

    poppokyo

    ☆quiet follow

    サドマゾなobtが書きたくて様々な欲望を詰め込みながら書いていたらめちゃくちゃになりました。
    ホントはSMクラブで無理矢理働かされてるobtの話が書きたかったんですけど、違う方向に走ってしまったのでここに供養。

    無理矢理デビューさせられたアイドル活動に嫌気が差したので養い親に黙ってSMクラブで働いてみた書きかけです。ギャグです。ここに供養します。


    ───オレがここで働くハメになった理由なんて、どうでもいい。

    〜あらすじ〜
     亡くなった両親の莫大な借金を返済する為、13歳になったオビトは幼馴染に黙って故郷を去り、身売りした。
    「うちは健全な事務所なんでな」
     身売り先の事務所代表であるマダラは「今までの自分を捨てて働く」と息巻くオビトをこき使いながら成人になるまで育て上げた。
    「お前には今後、色々とやってもらいたいことがある」
     5年後。傍若無人なマダラの支配下から抜け出し住み込みで働く為、オビトは高卒土方に就こうとしたが、直前でマダラに止められてしまう。家出して就職したがるオビトの自由意志は完全に無視され、オビトは嫌々ながらマダラ指定の大学へと進学させられた。
     編入したオビトは大学で、かつての幼馴染カカシと再会する。驚きつつも再会を喜ぶカカシに、オビトはかつての面影もなく背を向けた。
    「お前に語るべきことなど何もない」
     再会後、カカシはもう一人の幼馴染であるリンの名を出し『また三人で集まらないか』とオビトに声を掛けるが、オビトは何も語らず去ってしまう。オビトは捕まらない。周囲に聞けば、日夜バイトに明け暮れて忙しいとのこと。しかしオビトのバイト先は誰も知らない。業を煮やしたカカシはオビトの後をつけることを決意する。そしてカカシは、オビトが"SMクラブ"と掲げられた如何わしい店に入っていくところを目撃してしまう。
    「何故だ!?オビト!?」
     衝撃を受けるカカシ───果たして、二人は友達に戻れるのか!?



     ▶ ▶ ▶



     艶のあるベルベットのような絨毯が本革張りのキャスターチェアを沈ませる。カタカタと澱みなく打ち込まれるキーボード音を耳にしながら、オビトはプリンターから吐き出される課題のレポートを今か今かと待っていた。

    「おい砂利、茶が冷めた。淹れ直せ」

     ドン、と机上に置かれた湯呑みが視界に入る。オビトは静かに額の青筋を浮き立たせた。

     ここは芸能プロダクションAKATSUKIエンターテイメントビルの最上階──かつて慈善事業として起ち上あげた弥彦の会社を乗っ取り、今の世に知らしめるまで成長させた─うちはマダラの社長室兼私室である。

    「聞こえなかったのか?早くしろ」

     トントン、マダラの人差指が机上で跳ねる。この事務所のバイト社員であり、不本意ながら社長秘書でもあるオビトは、うんざりとした顔でマダラの指先にある湯飲みを手に取った。

     悲しいかな。成人してもマダラに財布の紐を握られているオビトは──黒いカードさえ持たされてはいたが──たった数円のプリント代を惜しむ程、金を持っていなかった。
     このビル自体がマダラの所有物ということもあり、勝手に他の階のプリンターは使えない。大学にある学生無料のプリンターを使う手もあったが、同じ学生の小うるさい幼馴染の男に絡まれる可能性があった為、オビトは授業以外で大学に居たくなかった。

    「行動が遅い。気のきかん奴め…次からは指示される前に用意しておけ」
    「うっせェなクソボケジジイ!冷めた茶でいいだろ!飲み干せ!同じセリフ百回は言ってんぞ!」
    「熱い茶がいい…と何度言ったらわかる?くだらんセリフを数えている暇があるのなら、オレに茶請けを出せ。それといい加減、オレが茶を飲むタイミングを覚えろ」

     戸棚に置かれた千手印の高級茶葉、玉露のフタを開けたオビトは、マダラに向かってギャンギャン吠えながら新しい湯呑みを取り出し、茶を淹れ直した。
     経験上、ちゃんと淹れ直さないとネチネチ言われることがわかっている。過去に一度ハナクソを入れて出したこともあったが、早々とマダラにバレて痛い目に遭っていた。
     盆の上に稲荷寿司と湯呑みを乗せると、オビトはマダラの前にダンッ!とそれを置いた。

    「茶がこぼれたぞ。さっさと拭け」

     舌打ちして湯呑みを拭くオビトの足元を、一匹の猫がウロチョロと駆け回る。まるで「またやってるー!」とでも言うように漆黒の目を向けてくるのが、渦巻模様が特徴的なぶち猫のグルグルだった。ちなみに机上で黄色い目を向けて「飽きないねぇ」とでも言うように欠伸したのが、白猫の白ゼツである。そしてあまり人前に出てこない黒猫の黒ゼツは、マダラが座る椅子の下で影のように丸まり、眠っていた。
     この三匹は最近マダラが拾ってきた猫である──たまに白ゼツが増えたり減ったりしているので、本当は三匹ではないのかもしれない。

    「こらっ!踏まれたいのかグルグル!今お前にもメシやっから、落ち着け!」

     足に飛びつく斑猫を避けながら、オビトは餌袋を手にした。カラカラと音を立ててドライフードを皿に盛ると、グルグルと白ゼツ数匹は飛びついて来たが、黒ゼツはマダラの足元に居たままだった。

    「おーい、早く来い。全部食われちまうぞ?」
    「コイツはそこのウエットフードしか食わん」
    「はぁ?ジジイに似てメンドクセー奴だな…」

     マダラが顎で差した場所を頼りに引き出しを探ると、一番下の段に"高級"と書かれた猫缶がギッシリ詰められているのがわかった。オビトは溜め息を吐いてその一つを手に取る。プルトップ式のフタを開けたところで、黒ゼツはようやく瞼を持ち上げた。
     ガンガン!と缶詰の中身を取り出し、全ての猫に餌をやり終えると、オビトは上着を羽織ってカバンに手をかけた。階下へと繋がる扉に向かう。その扉に触れる直前、オビトは依然デスクトップに目を向けているマダラに声をかけられた。

    「おい砂利、出る前にコイツらの猫砂を掃除をしてから出て行け。それとここのトイレ掃除もな」
    「誰がやるかッ!オレはもう行く。そんなのは飼い主のテメーがやれ!」
    「養い親のオレに逆らう気か?」
    「テメーを親だと思ったことは一度たりともねぇよ!」
    「ほう…貴様の頭はずいぶんとめでたいようだ。まさか、オレが肩代わりした残りの借金がいくらか…忘れたわけではあるまい」
    「チッ……やりゃいいんだろ!やりゃあ!」

     クソッ!と悪態をつきながら新しい猫砂を取りに行くオビトを、尻尾をピン立てたグルグルが追いかける。ゴキゲンな斑猫はオビトの周囲を走り回りながら、トイレにじゃれついていた。

     結局マダラに命令されるがままに雑用をさせられ、ようやく全てが終わった時、窓の外は星が散る空となっていた。
     印刷したレポートをカバン中に詰め込みながら、オビトは壁にかけられたアナログ時計に目を向ける。時刻は午後7時40分。今出れば20時の開店にギリギリ間に合う時間帯だった。
     廊下へと繋がる扉に手をかけ、ガチャリと取っ手を引く。一歩踏み出したところで、オビトは再び「おい砂利」とマダラに足を止められた。

    「外泊するのは勝手だが…明日は"ToBi"の新曲レコーディングがある日だ。授業が終わり次第、第三スタジオに向かえ」
    「あ?聞いてねーぞ?」
    「今決まった」
    「勝手に決めんなクソジジイッ!」

     バタンッ!と乱暴に扉を閉める。社長室から出て行くオビトを、マダラは見てすらいなかった。



     ▶ ▶ ▶



     数年前から話題となっている顔を隠した覆面アイドル──ToBi。ぐるぐるとした渦巻模様が特徴的な仮面を被り、キュートな仕草で見た者の心をくすぐる、デビューソングで国内のオリコンチャートを総なめにした超新星の実力派アイドルである。
     音楽業界に彗星の如く現れ、全ての紙面と画面を塗り替えた輝かしい経歴を誇るToBiの正体──オビトは、実質マダラに飼い殺された奴隷のような生活を送っていた。

     今から7年前。義務教育も終わっていない13歳のオビトのもとには、莫大な借金のみが残されていた。自宅は差し押さえられ、数々の借金取りから逃げ出して、途方に暮れていたオビトの前に、自らが遠い親族だと名乗るマダラが現れた。

    『いいか砂利…この世に必要なものは金でも平和でも愛でもない──果てなき夢の虚像だ』

     長々と持論を述べたマダラは、頭に疑問符を浮かべるオビトの借金を肩代わりし、その身を攫って行った。

    『お前にはオレの野望の為に、役立ってもらうぞ』

    立つ瀬もないオビトはそんなマダラに攫われ、下人の如く身売りするしか生きていく術がなかった。

    『今は社会的ド底辺にいるお前でも、このオレの手腕があれば澱み腐った芸能界で頂点が取れる…この世の因果を断ち切るぞ!』
    『10代で悲惨な過去を持つアイドルは売れる…あざとい動作は日常生活で身に付けろ。ファンの庇護欲を掻き立てるんだ!』
    『見た感じバカそうなお前が高学歴アイドルになれば、意外性あって話題なる。その中身のない頭に、アイドルとして必要な知識を詰め込めろ!』
    『今日からお前が救世主(トップアイドル)だ!!』

     理想のアイドル思想を押し付けてくる最低最悪なマダラの口車に乗せられ、気付けばオビトは新人アイドルとしてテレビ局の控え室の中にいた。

    『ToBiさーん、本番10分前でーす』

     ノック音と共にかけられたスタッフの呼び声により正気に戻ったオビトは、咄嗟に捨てられていた発泡スチロールを加工して仮面を作り、それを被って生放送を凌いだ。

     ──顔まで世間に晒したら、一生マダラの呪縛から逃れられないような気がした。

    『オレがせっかく貴様の能力を伸ばし、アイドルという道を示してやったのに…勝手に露出NGにしたな?』

     本番撮影終了後。舞台裏に立っていたマダラは暗黒を思わせる目で『あのダサい仮面が逆に話題となり人気が出たからよかったものを…』とオビトを見下し、『売れなかったらお前の臓器を売っていた』とその背中を踏みつけ、手足を縛った。そして暴れるオビトを散々痛めつけた後、最後に恩情をかけた。

    『今さら文句をつけても仕方がない…売り方を変えるぞ。今はコンプラも厳しいからな。プロデューサーへの枕営業は無しにしてやる』

     そんな調子のマダラに向かって、『誰がアイドルなんて続けるかッ!!』と唾を飛ばしたオビトの記憶は新しい。

    『まあいい。お前の行く大学はオレが用意してやった最後のモラトリアムだ。その顔を売り出す前の余暇として、せいぜい謳歌するんだな』

     顔の原型がわからなくなるまで殴られたオビトの耳に、マダラの嘲笑う声が響いた。思ってもない発言なのは明らかだった。マダラはオビトの手足の拘束を解いた後、腫れ上がった右顔を見ながらニヤリと笑った。

    (あのジジイはいつか殺す…)

     実際に、オビトが大学生活を謳歌する余裕は全くなかった。隙あらばマダラに雑務を押し付けられていた。

     オビトは好き好んでアイドルになどなりたくはなかった。けれど、マダラの異常なアイドル推しに逆らうことができなかった。
     オビトは金を稼ぐ必要があった。莫大な借金と養育費をマダラに返さなければならなかった。
     だから最初は中学を卒業したら、手っ取り早く働くつもりだった。しかしマダラが『馬鹿が。中卒を受け入れる企業はロクな給料を出さんぞ』と言うので、仕方なく高校に進学した。
     マダラに馬鹿にされたことが悔しかったので、その後の勉強は特に頑張った。それなりに良い成績を修め、取れる限りの資格や免許を取得したオビトは、高校卒業すると同時にマダラの家を出ようと住み込みで働ける仕事を探した。

    『おい砂利、どこへ行く気だ。何の為に貴様をここまで育てたと思っている?』

     そうして見つけた土方の仕事をマダラに蹴られ、オビトは泣く泣く、言われるがままにマダラ指定の大学へと進学するハメになった。

     人が良過ぎるが故に数多の金融機関の連帯保証人となった両親が事故で亡くなり、早7年。当時13歳だったオビトも、今や名門火の国大学に通う20歳の大学生に成長していた。



     駆ける足が心拍数を上げて体の熱を上げていく。オビトの額から幾つもの汗が流れた。
     オビトには金どころか、職を自由に選ぶ権利すらなかった。
     しかしそんなオビトにも秘密があった。マダラが知ってて世間が知らない、ToBiの姿ではない───もう一人の"トビ"の姿である。

     マダラはオビトが大人しく大学に通っていると思っているようだが、実際は少し違う。オビトはマダラに課せられた科目の必要最低限の単位だけ取ればよかった。

     カランコロンと店名にそぐわない可愛らしいベルの音が鳴った。黒スーツに身を包んだボーイのシスイは、同じくボーイのイタチが操作していたタブレット端末から、落としていた目線を持ち上げた。

    「すみません。まだ開店前で……あれ?」
    「ハァ、ハァ……ギリか?」
    「オビトさんが間に合うなんて、珍しい」
    「今日は槍が降りますね」
    「降らねェよ!…ハァ、オレだって間に合うことくらいあるさ…シスイ、イタチ…」

     切れていた息を整わせる。顔を上げたオビトの顎先から、汗の雫がポタリと落ちた。

     ここはSMクラブ"Frog in the Well"。
     オビトはマダラに内緒で、コソコソとその店で働いていた。



     ▶ ▶ ▶



     名門火の国大学に通う学生──はたけカカシは、学内の講堂で頭を抱えていた。別に調子が悪くて頭痛、というわけではない。いや、ある意味で頭が痛いのか。
     天才と謳われるカカシの頭を悩ませている人物は、大学編入により最近再会した一人の男──『うちはオビト』という幼馴染であった。

     カカシとオビトは、かつて同じ小、中学校に通う同級生だった。喧嘩するほど仲が良いというのか。それとも同じ幼馴染であり女の子のリンにかっこいいところを見せたいと思う男心だったのか。オビトは事あるごとにカカシに突っ掛かってきた。

    『あっ!見て二人とも!紫色の大きいチョウチョだよォ!』
    『よし待ってろリン!この虫カゴいっぱい捕まえてきてやる!カカシ、お前はあっちでダンゴムシでも突いてろ!』
    『いやそんな捕まえてもリンが困るでしょ』

    『海は広いねぇ』
    『カカシ!どっちが速くあの岩まで泳げるか勝負だ!』
    『はいはい…あ、リン。さっき割れてない貝殻見つけたからあげるね』

    『対戦ゲームかぁ…やったことないなぁ』
    『ヨッシャ見てろリン!こうやってやるんだ!今からカカシの奴をボコボコにしてやるからな!』
    『オレに勝ったことないクセによく言う』

     当時のオビトは天真爛漫、純粋無垢、そんな言葉が似合うような、元気ハツラツとした純朴少年だった。オビトとカカシは競い合いつつも、よく一緒に遊んでいた。

     カカシにとってオビトは親友だった。小学校を卒業してすぐ、父親が亡くなって傷付いていたカカシを励ましてくれたのはオビトだった。

    『お前の親父さん…最期に汚職を内部告発するなんて、かっこいいよ。世間がなんて言おうが、オレは英雄だと思ってるぜ?』

     失意のどん底にいたカカシには、そんなオビトが光輝いて見えた。

    『お前がそんな顔してたらこっちの調子が狂うんだよ…だからなカカシ、元気出せ!』

     悲しむカカシの傍に、オビトはずっといてくれた。嬉しかった。もしもオビトが悲しんだ時は、同じように自分も傍にいようと心に決めた。
     オビトにならこの身を捧げてもいい──そう思うくらい激重な感情を抱いた中学生のカカシの前から、オビトは忽然と姿を消した。

     絶望だった。
     それはオビトの両親が事故で亡くなった、翌日のことだった。オビトの行方は全くわからなかった。絶望のあまり1ヶ月学校を休んだ。
     その後、告白してきた女子達に対して『オレには心に決めたオビトがいるから…』と断ってしまった程だった。その中に幼馴染のリンがいたことを、カカシは後から気が付いた。

     それから7年。落ち込んでいたカカシの心の穴を埋めてくれたのは、新気鋭のトップアイドルのToBiだけだった。
     ToBiが歌う内容はまるで絶望の淵にいた自分を応援してくれるようで、カカシを再び立ち上がらせてくれた。カカシはToBiの大ファンになった。

    (この気持ちはオビトとは別物だから…これは浮気じゃないから…)

     なんて自分に言い聞かせつつ、カカシは心の奥底でオビトへの罪悪感を渦巻かせていた。

     閑話休題。
     そんな過去を持つカカシは、入学した大学で夢にまで見たオビトとの再会を果たした。しかし、その再会はオビトにとって望んだものではなかったようだった。
     カカシと目が合ったオビトは目をまん丸とさせて驚いてはいたが、すぐに背を向けて去ってしまった。カカシはすぐに追いかけたが、オビトの逃げ足は速かった。
     同じ大学と言えど、学内は広く学生も多い。カカシはありとあらゆる手段を用いて、オビトの情報を集めた。
     オビトの所属する経済学部に潜入し、学部PCのデータベースからオビトが選択している講義を調べた。幸いカカシが所属する法学部と被る内容もあって、必須科目ではない講義にカカシが出席していても何ら不自然ではなかった。

    『オビト!!』

     講義開始時間ギリギリにやってきたオビトを離れた席で見つけたカカシは、講義後にオビトを追いかけて呼び止めた。

    『どうして逃げるんだ?やっと会えたのに…』
    『…お前に語るべきことなど何もない』
    『でもオビト…オレはお前と話したいよ』

     背を向けて歩き出したオビトに、カカシは『また三人で会わないか?リンもお前と会いたがってる』と声をかけたが、オビトの肩はピクリと動いただけで、振り返らずに行ってしまった。

     その後もカカシはオビトにコンタクトを取ろうと何度か同じ講義に出席したが、良い結果は得られなかった。
     カカシは大学を出たオビトの後をコッソリとつけて、オビトが寝泊まりしているであろう場所を突き止めた。
     一つは住まいと見られる高層マンション。大学生が暮らす家としては不相応に思えたが、一人で暮らしているわけではなさそうだった。ロビーにあるポストの名字は『うちは』となっていたので、オビトを引き取った親族の家かと思われた。

    (オビト…どうして…)

     もう一つの場所が問題だった。それこそがカカシの頭を悩ませている原因である。
     通っている頻度からして、オビトは主に"そっち"で寝泊まりしているらしかった。いや、もしかしたら寝てはいないのかもしれない。あまり深く考えたくなかった。

     ビル陰の隙間からオビトが入って行った店──SMクラブ"Frog in the Well"と掲げられた看板を見た時、カカシは自らの目を疑った。

    『うちはオビト?ああ…あの無愛想な男のことか。なんか毎回バイトが忙しいとかで、学部の飲み会に誘っても断られるんだよ。新歓にも興味ないみたいで…そういや、いつも一人でいるな』

     大学で人づてにオビトの行方を聞いていた時に得た情報と照らし合わせれば、そこはオビトの"バイト先"らしかった。
     そこで働いているのか、それとも客として利用しているのか──どちらにせよ、オビトがそこに通っているのは事実である。カカシは再び頭を抱えた。
     その理由を聞きたくも、オビトは取り付く島もなく逃げてしまう。まるで追手から逃げるのに慣れているようなオビトの挙動に、追跡していたカカシは何度も苦労させられた。

    (いや…これからどうするか、だな…)

     カカシは行き詰まっていた。いくらカカシが18歳の誕生日当日に、成人向けの本を買いに漁る程の色ボケだとしても、いきなりのSMクラブはハードルが高過ぎた。
     それに、オビトの後を追いかけるのはいいとして、また逃げられるのは避けたかった。追いかけっこはもう十分だった。

    (たぶん普通に入店したら逃げられる…それなら…)

     簡単に諦められるカカシではなかった。
     大学でオビトに特定の友人がいないという情報は、カカシの仄暗い感情をわずかに満たしてくれたが、カカシの中のオビトメーターを満たすには全くもって足りていなかった。

    (待ってろよ…オビト…!!)

     時を経て、オビトへの感情を燻らせた男は立ち上がる。講堂を後にしたカカシは、その足で必要な道具を揃える為に動き出した。



     ▶ ▶ ▶



     ところ変わって、ここは店の休憩室。
     オビトは備え付けのミネラルウォーターを紙コップに注ぎ、ガムテープで補修されたソファに腰がけて発泡スチロールでできた仮面を横へとずらした。そして現れた唇へと紙コップの縁を口付ける。

    「っは〜〜〜、なんか今日、客多くね…?」
    「それは貴方が珍しく、開店時間に出勤したからでしょう?」

     背後から聞こえた女の声にオビトが振り向くと、そこには肩のみ出ている露出の少ないエナメルボンテージに身を包んだ、小南の姿があった。
     小南はオビトと同じくこの店で働くS嬢だった。そしてオビトの事情を知る数少ない知人の一人であり──かつてオビトの中学教師であった、波風ミナトの同級にあたる人物だった。

     ───今の職について、オビトが職探しをしていたところ、ミナトの師であった自来也という人物が脱サラし、自営の店を開く為の人員が必要だという話を耳にした。
     ミナトの師ならばきっとまともな人物であろうと、オビトは二つ返事でそれに飛びつき──後悔した。

    『なんでSMクラブなんだよッ!?』

     けれどもその待遇は極めて良く、時給も良かった。そして何より、自来也の店はマダラの息がかかっていなかった。

    『世の中男のS嬢に人気が出たり、バイオレンス要素に需要があったり…何が当たるか全くわからんのぅ!』

     大いに盛り上がった開店初日。謎の人徳により優秀なスタッフを揃えた店長の自来也は上機嫌に笑っていた。

     ───小南はオビトと同じように備え付けのミネラルウォーターから紙コップに水を注ぐと、少し離れたソファの端に座った。

    「よォ…お疲れさん……手、大丈夫か?」
    「……平気よ」
    「なら見せてみろよ」

     オビトは身を寄せて小南の手首を掴み、その手を引き寄せた。黒い手袋の指先を摘んで外すと、小南の顔が少し歪んだ。

    「ッ…」
    「やっぱ赤くなってんじゃねーか。あの五十回連続ビンタは、男のオレでも疲れるからな」
    「別に、こんなの…」
    「氷持ってくるから、少し待ってろ」

     オビトが氷とタオルを持って休憩室に戻ると、小南は困惑したようにこちらを見上げて座っていた。オビトは黙って隣に座ると、再び小南の手を取ってタオルに包んだ氷を手に巻いた。

    「……なぁ小南。弥彦と長門はアンタがここで働いてること、知ってんのかよ?」
    「!どうして二人のことを…」
    「一応、社長秘書もやってるからな。子会社代表の名前と顔くらい、頭に入ってる」
    「……別に私は、自来也先生のお店を手伝ってるだけ。貴方みたいに後ろ暗い事は何もしていない」
    「そうか…まぁ、この店はルール上本番無しだからな。基本的にスタッフ任せの健全なクラブだし…」
    「そうじゃなくて」

     小南は頭を抱えた。赤褐色の半眼で見つめられて、オビトはたじろぐ。そんなオビトを視界に入れながら、小南はハァと溜め息を吐いた。

    「…あなたの養い親が弥彦の会社を奪ったのは事実…貴方自身に恨みはないけれど、私は貴方のことを敵だと思ってるわ」
    「…………」
    「それに…同じS嬢として、ライバルだし…」

     声を萎ませた小南に、オビトが聞き返そうとしたところで、休憩室の扉が開いた。インカムをつけたシスイが現れる。

    「オビトさーん、指名入りましたぁ。団体のお客さん重なってますけど、行けますか?」
    「わかった。今行く」

     立ち上がったオビトを追うように小南は顔を上げたが、すぐにオビトから目を逸らして横を向いた。オビトは少し振り返ったが、シスイが「じゃあお願いしまーす」とホールに戻って行くと、続いて休憩室を出て行った。



     ▶ ▶ ▶



    「トビちゃんってアイドルToBiのファンなの?その格好、リスペクトでしょ?」
    「違いますよぉ〜ボク、ToBiのアンチなんで!」
    「えーっ!?なんで!?ToBiいいじゃん!!どうして??」
    「アハハ☆お客さん、ToBiオタクっすか?キモいですねー☆嫌いだからに決まってるじゃないですかぁ〜」
    「嫌いならどうして名前も"トビ"なの?」
    「だってぇ〜ここに来たファンに"本当のトビ"を見て、幻滅して欲しいじゃないですか!」
    「あはは!その言い方だとトビちゃんがアイドルのToBiみたいじゃん!」
    「だからボクがそのToBiなんですってば!」
    「うっそぉ!こんな店にToBiがいるわけないじゃん!」
    「ハイそこ。椅子が喋らないでくれます?」

     手に持った鎖でバシバシと人間椅子と化した客を叩く。叩かれた客は嬉しそうに「すみません!」と悲鳴を上げた。オビトは仮面の隙間から冷たい目を覗かせて、もう一度強くその椅子を叩いた。「ありがとうございますッ!!」と、また喜びの声が上がる。今度はオビトの手元の鎖に繋がれた別の客が口を開いた。

    「ねぇねぇ!トビくんってМ嬢やらないの?もしやるんだったらオレS男で指名するよ?」
    「ボクS専なんで〜」
    「えぇ〜!絶対素質あるよ〜!ほら、言うじゃない?マゾとサドは表裏一体って!」
    「えぇ〜!何言ってるか全っ然わかりません☆ブタ言語で喋らないでくれますぅ??あと息クッサいんで、はやく口閉じてくださーい」

     オビトはジャラ、と手を持ち上げて、鎖に繋がれた首輪を引っ張った。その客が「ぐえっ!」と嬉しそうな呻き声を上げる。オビトはしばらくその鎖を持ち上げたまま、客の喜び苦しむ表情を見ていたが、飽きたようにポイッと鎖を手放すと、座っていた人間椅子から立ち上がった。

    「あっれぇ〜?ご新規のお客さん、もしかしてキンチョーしちゃってますか?」

     そして、目の前で呆然と佇んでいた"サービス中の新規の客"に近付いた。馴染みの客に混じってやって来たその客は、口元に色ボクロを携えた綺麗な顔をしていた。オビトは癖のある茶髪に手を伸ばし、毛先をくるくると遊ばせた。

    「もうサービス時間終わってますからね〜……この続きは、お金払って…」

     ゆっくりと、その男の耳元に唇を寄せる。

    「ボクとイチャイチャしますか…?」

     他には聞こえない声音で、内緒話をするように吐息を吹きかけると、その男は身を震わせて突然「ウワーッッッ!!!」と大声を上げた。

    「ちょっ…!!なっ…!?ど…!!どうしちゃったのお前!?なんでこんな…!?一体何があったんだ!?てゆーかお前、本当にオビ───むぐっ!」

     取り乱した男の口を片手で掴むように押さえる。オビトは仮面に空いた穴からギロリと男を睨みつけた。

    「やっぱお前、カカシか」
    「痛ッ!!」

     空いている方の手でオビトは「やっぱり付けてやがったな…!」とカカシの頭にあった茶色のウィッグを乱暴に引っ張り取った。現れた銀髪を目にしたオビトは「ブタ共は残飯でも食ってろ!」と他の客達に言い放つ。周りの客達は「ハイッ!放置ありがとうございますッ!」と声を揃えて、背を向けたオビトと引き摺られるカカシを見送った。


     ▶ ▶ ▶


    「おいなんでコイツを入店させた?オレのNGリストに入っていたハズだ。受付で本人確認は済ませたんだろ?」

     店の裏でカカシを投げ捨てたオビトは、呼び出したシスイとイタチに怒りの声を浴びせていた。渦巻模様の仮面をずらしたオビトに睨まれた二人は、顔を見合わせて肩をすくめた。

    「ほれ見ろイタチ。こうなった」
    「シスイの勝ちだな。あのカカシさんならバレずに済むと思ったんですがね…」

     さすがはオビトさんです、と続けたイタチはシスイに「甘栗甘のどら焼きでいいぜ」と肩を叩かれていた。どうやら賭けていたらしい。オビトは片眉を上げて「オレにわかるように説明しろ」と鼻に皺を寄せた。イタチは静かに瞼を下ろして、口を開いた。

    「入店させたのはオレです。そこのカカシさんに『入れなきゃサスケにここで働いていることをバラす』と脅されて…仕方なく」
    「クズめ」

     オビトは地面に転がったカカシを蔑んだ目で見下した。カカシは冷や汗をかきながら起き上がり、「脅してなんかいない!"お願い"したんだ!」と弁解した。

    「ちょっとイタチ!オビトに誤解されるような言い方しないでよ!オレは誠心誠意、頭下げてお願いしたでしょ!」

     シスイも見てたよね!?と慌てるカカシの言い分を聞き流しつつ、オビトはイタチに疑いの目を向けた。

    「お前達…知り合いだったのか?」

     オビトの問いに、イタチはコクリと頷いた。

    「カカシさんは高校の時、生徒会でお世話になった先輩です」
    「は…?生徒会ィ!?」
    「はい。校則で学費の免除を受けた特待生は学内貢献の加入義務がありまして。誰でも入れるわけではないんですが、周囲に推薦された者は成績加味の上で生徒会に組み込まれるんです」

     淡々と説明してくるイタチに呆れたオビトは、チラチラと見てくるカカシを視線で黙らせつつ、「そういえば昔から頭は良かったな…」と零した。カカシはなんだか嬉しそうな顔をした。オビトはそれをうざったそうに見た後、眉をギュッとしかめた。
     中学生のオビトが最後に見たカカシは、唯一の肉親だった父親を亡くし、孤児院で暮らしりに苦労も多かったのだろう。目の前のシスイとイタチも、別の孤児院出身だと聞いていた。

    「…そんなことは、どうだって…」
    「ちなみに、カカシさんは生徒会長でした」
    「ハァ!?コイツが!?」
    「ええ。今はシスイがその後を継いで会長をやってます。そしてオレは副会長です。だからたまにカカシさんと連絡を取り合ったりしてるんです」
    「店に着くまでオレ達がここで働いてることは知らなかったみたいですけど…まぁ、オレらもオビトさんとカカシさんが知り合いだなんて知りませんでしたがね」
    「違うよシスイ。オレとオビトは"知り合い"じゃなくて"親友"だから」

     そこんとこ間違えないで、と目を尖らせたカカシをオビトは驚いた顔で見てしまった。

    「え……オレはカカシと親友だったのか?」
    「そうだよ。オビトがそう言ってくれたんじゃない?」
    「え…オレ、そんなこと言ったっけ…?」
    「言ったよ」
    「マジで記憶ねーんだけど…」
    「忘れちゃったの?ヒドイなぁ…」
    「…それって全部、お前の脚色された妄想じゃ…」
    「妄想じゃないって!」
    「詰め寄んな…怖ェから…」
    「何でよ!?いいでしょ!!」

     カカシはオビトの頬に指を沿わせる。そのまま熱っぽい視線を向けられ、オビトはぞぞぞと背筋を震わせた。

    「まさかオビトがToBiだったなんて夢みたいだ…ずっとお前を追いかけていたんだよ?覚えてる?この前のライブでも最前列で応援してたの。オレと目が合ったよね?オービト♡」
    「キッッッショ!合ってねぇよクズ!テメー途中で警備員押さえられて退場しただろーが!舞台に乗り上げて来ようとすんなバカ!」
    「いやーあの時は盛り上がりすぎちゃってさ〜ゴメンゴメン」

    「よくオビトさんがToBiだって信じますね。お客さん皆信じないのに…」

    「だってオビトが今付けてるお面、ToBiがデビュー時に一度だけ付けてたスチ面でしょ?見ればわかるよ!」

    「オレをその辺のニワカファンと一緒にしないでよね!」
    「キッッッショ!!」

    「オレはお前の話が聞きたいよ」

    「ここは時給もいいし…待遇いいし、給料現金払いだから足が付きにくい」


    「本当はアイドルになんて辞めたい…オレはただ、普通の男の子に戻りたいだけなんだ…」
    「オビトさん……」

    「"男の子"はもう無理ですよ」
    「そこはわかってんだよッ!」


    「借金を抱えた男と、友達になれねぇだろうが…」

    「お前の人生ブレッブレだな」


     ▶ ▶ ▶


    「マダラ。貴様には未成年者強要罪の疑いがかけられている。木ノ葉警察署までご同行願おうか」

    「待て」

    「たしかに何度も殺したいと思ったジジイだが…こんなんでも一応、養い親だ。拾ってくれたことに感謝はしている」
    「オビト……」
    「後日自首させるから、現行犯逮捕だけはしないでくれないか?この店にとっても迷惑だ」
    「おい、奴隷本人がこう言ってる。去れ扉間。オレは無実だ」
    「やっぱしょっぴいてくれ」
    「わかった」
    「何ッ!?オビト!!お前裏切る気か!?」
    「初めからテメーの味方なんてしてねーよ!」


    「待て扉間!兄さんは悪くない!!」

    「柱間が悪いんだ!!アイツが兄さんを唆すから…!!」
    「イズナ…身内であろうと庇い立てをするな。公務執行妨害で逮捕するぞ」
    「ぐっ…!」
    「いいんだ、イズナ…」
    「兄さん!?」
    「扉間…同行しよう」

    「弟にカッコ悪い姿は見せられんからな…」
    「兄さん…」
    「いや十分カッコ悪いぞ」


    『お前は後!!』と言われたまま、マダラは待ち続けた。しかし、柱間はやって来なかった。


    「オレは…オレはどうすればよかったんだ……柱間ァ……」
    「呼んだかマダラ?」
    「は!?柱間ァ!?」
    「兄者!?どうしてここに!?」
    「おおっ、扉間!」

    「いや〜実は、昨日ギャンブルで金をすってしまってな!綱の知り合いの店なら酒が好きなだけ飲めると聞いて…」

    「柱間ァ!!ここで会ったが百年目!!今こそオレの気持ちに応えてもらうぞ!!」

    「すまん!オレはファンとは必要以上接触しない主義だ!だからお前の気持ちには応えられない!」


    「さっさと歩け」


     ▶ ▶ ▶


    「イタチィ!?何故こんな店で…!?」
    「許せ、サスケ……時給が良かったんだ…」

    「オ…オレは兄さんがSMクラブで得た給料で生活していたのか…」

    「オレは…オレは…」

    「まあ泣くなって!ほら、オレオ食うか?サスケ」
    「ああ、ナルト……ナルトォ!?」


     ▶ ▶ ▶


    「もう"トビ"には、戻らん。アイドルも廃業だ…」
    「オビト…」

    「これからは、ただの"オビト"だ」


     ▶ END


    《次回嘘予告》

    「えっ!?オビトさん次は大蛇丸さんの店で働くんですか!?」
    「ああ──ほら、今の職が廃業になっただろ?金もないし、ヘルプでいいから来てくれないかって頼まれてさ」

     ───次回!!

     『アイドル辞めたら職を失ったのでオカマバーで働くことにした』

    「さすがに仕事選びましょうよ〜!」

     次はどうなる!?オビト!?
     (続かない)
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